表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愚痴と黒猫  作者: ミクリヤ ミナミ
12/17

男と女のラブゲーム その3

「……」


「なんだよ。無言で帰ってくると泥棒かと思うじゃねぇか。」


「……おう、ただいま。」


「なんだ、どうした?」


「ん~。ちょっとめんどくさいことになりそうでな。」


「めんどくさい?」


「ああ」

 頭をガシガシ書きながら、ソファーに座り、買ってきたビールを開ける。


「ほう。俺に話を聞いてもらいたいんじゃないのか?」


「あ、ああ、これでいいか?」

 買ってきたキャットフードの缶を開ける。


「今日はそのままか。ワイルドだな。」


「まあ、余裕がないんでな。今。」


「疲れてるみたいだな。」


「ああ、ちょっと聞いてもらっていいか?」


「まあ、不本意だが聞こうじゃないか。」


「すまんな。」


「愁傷なのも気味が悪いな。」


「パートが、犯罪してるかもしれん。」


「パートが?犯罪?何の?」


「売春と窃盗」


「売春と窃盗?なんだよ。お前んとこ下の管理ができてないのか?」


「いや、まだわからんのだけどな。疑いがあるだけだ。」


「ほう。で、順序だてて話してもらおうか。」


「そうだな。俺も気持ちの整理が要るな。順番に思い出すよ。まず、窃盗についてだ。」


「お前んとこ盗むもんあるのか?」


「まあ、なくはないな。」


「だって、殆どの物が数量チェックしてるだろ?ハンバーグなんかの食材にしても、パックに入って個包装になってんじゃないのか?」


「毎回思うが、良く知ってんな。なんでだ?なんで猫がそんなに知ってる?」


「そりゃ。まあ……、気にするな。」


「気になるけどな。まあいい。そうだな。注文の入った商品に関しては、基本全部個包装の食材を加工するから数量管理できてる。だから盗まれたらその日のうちにわかる。」


「じゃあ、食材は問題ないのか?」


「いや、盗まれてもわからない食材が無いわけじゃない。」


「そんなのがあるのか?」


「ああ、数量管理出来ない奴だな。」


「具体的には?」


「ドリンク類とか、フライドポテト、生クリーム、アイス、そんな重さで測るような奴。ライスもそうだな。このあたりはつまみ食いされてもわからん。」


「それを窃盗されたのか?」


「いや、ん~。されてるかもしれんが、正直それは問題じゃない。もともとロスも加味してるし、大した額じゃないからな。実際高校生はちょろまかせることに気づいてないだろうけど、深夜スタッフは結構やってるんじゃないかな?」


「なんだ、信用してないのか?」


「信用するしないの問題じゃなくて、ちょろまかすことが出来るって話だ。深夜は正社員も居ないし、アルバイトの自由な時間だからな。ポテトを多めに作ってみんなで食べながら……とか、ドリンクを飲みながら、ビール飲みながら……なんてことも……できなくはない。」


「ビールもか?」


「ああ、あれも生ビールは樽で入ってくるからな、瓶ビールなら本数で管理できるが、ジョッキやグラスビールは無理だ。」


「結構自由にできるんだな。」


「まあ、やってるかどうかはわからんがな。しかし、やってたところで大した量じゃないし、まあ、宴会でもすれば明らかにおかしな数値になるだろうけど……節度を持ってやってる分には何も言わんさ。さっきも言ったが誤差範囲だ。目くじら立てるほどのことは無い。」


「随分寛大だな。」


「うちは客商売だからな。バイトだって客と同じだ。節度のある行動をしてくれるなら文句はないよ。」


「じゃあ、何を盗まれた?」


「金だ」


「金?えらく直接的なもの盗まれてるな。それこそすぐばれるんじゃないのか?」


「ああ、レジを閉める時にわかる。わかるんだが、誰が取ったかはわからん。」


「へ?それこそ金ならバレるだろ?」


「うちのレジは比較的古いタイプの奴なんだよ。」


「古い?」


「ああ、最近のレジは、そうだな。コンビニでも客が金入れたら自動で釣銭出てくるやつあるだろ?最近他社は自動つり銭機種入れてるんだが、うちはそれじゃない。昔ながらの店員が釣りを取り出すレジだ。」


「ああ、あれか。で、それだとなんで盗まれる。って、確かに盗まれるな。でも、レジを閉める時に合わないからその日のうちにわかるだろ?」


「確かにわかるのは判るんだが、金額が合わないことも無いわけじゃないんだよ。」

 

「そうなのか?」

 

「まあ、頻繁に有っちゃ困るけどよ。レジの打ち間違いやら、クーポンの割引率ミス。おつり渡す時に小銭を落として、それをそのまま忘れちまったりと、結構あるんだよ。」


「ああ、確かに、レジのおばちゃんが落っことした小銭を拾って客に渡すわけにいかないからな。レジから取り直してるな。」


「いや、だからお前何処でそんな経験するんだよ?」


「猫もいろいろあんだよ。」


「……


 まあ、だからレジの金額がずれててもそこまで大ごとにならないんだよ。まあ、なる店もあるけどさ。」


「他の店はなるのか?大ごとに。」


「ああ、業界によってはな。うちはやらないけど、他の業界だとレジ閉めたとき、1円でも違ってたら金額が合うまで店員帰れないなんて店もあるな。」


「ブラックだな。」


「ああ、とっととキャッシュレスにすりゃいいと思うぜ。まあ、それはそれとして、定期的にうちの店のレジは合わないことがあったんだよ。だいたい1000円未満だけどな。」


「1000円てのはデカいのか?」


「どうだろうな。他の店の基準がわからんが、うちの場合は1000円で店員の上がり時間が遅れて残業代出すくらいなら、損金にする方がマシって考え方だ。」


「まあ、確かに余計に金掛かるな。妥当なのかもな。」


「だから、月に1~2回くらいは出てたんだよ。」


「それが窃盗だと?それこそ、打ち間違いとかじゃないのか?」


「俺もそう思ってたんだけどね。まあ、その理由は後で言うよ。で、もう一つ方の売春な。」


「ああ、そっちもあったな。それは何だ?いや、売春は判るよ。言葉の意味を聞いてるわけじゃないからな」


「わかってるよ。こんだけ事情通の猫が売春知らなかったらそっちの方が驚きだよ。で、パートの主婦がやってる可能性があるってことだ。」


「主婦の小遣い稼ぎか。」


「ああ」


「で、アタリはついてるのか?」


「ああ、森本女史だ」


「なんだっけ?変な色気があるパート主婦だっけ?

 ハットリ君の心の隙間を埋めさせようとしてたやつか。」


「そう。よく覚えてるな。で、その判断が間違ってたっぽい。」


「なんだ、現行犯か?」


「いや、だから、まだわからんって。これは前ウチで働いてた社員に聞いたんだよ。

 去年他の店舗に異動になった社員が居たんだけど、どうもそいつが飲み会でぽろっとしゃべっちまったみたいなんだよ。」


「森本女史とやったってか?」


「ああ、男同士の飲み会だったらしいから、単なる武勇伝として話したんだろうな。そんな大事おおごとにはならなかったみたいだけど、いまコンプラ煩いからな。」


「上にはバレてないのか?」


「社員同士の飲み会で、店長クラスは居なかったらしい。」


「でも、それは「不倫」じゃないのか?」


「まあ、関係を持っただけなら……そうだろうな。でも、本人は違うって言ってたらしい。「ビジネス」だって言ってたって。どっちにしても、コンプラ的にアウトだけどな。」


「あれ、そういや林さんは大丈夫なのか?武士の情けだっけ?」


「いや、そういう意味の情けじゃねぇよ。あの人の場合は風俗だ。一応「合法」だろ?」


「海外は?」


「海外は……正直直接聞いたわけじゃないからよくわからんが、「脱法」なのか?まあ、何にせよ、相手国では「合法」なんじゃないの?わざわざ行くってことは。しらんけど。」


「なるほどね。でも、お前が知り合いの社員から聞いただけだろ?まだ事実かわからんじゃないか。疑わしきは罰せずってな」


「確かにそれはそうなんだけどな。ただ、さっきの窃盗にも絡むんだよ。」


「なんだ?それも森本女史なのか?」


「これも確証はないんだが、その話を聞いて、森本女史が疑わしく思えたんだよね。だから、森本女史が入っている日の日報ぺらぺら見てたんだよ。そしたら、レジ締めで損金が出てる日、全部森本女史が入ってるんだよね。レジにも入ってるし。」


「たまたまじゃないのか、月に1~2回なんだろ?」


「ああ、でも全部。損金が発生した日は絶対に森本女史が入ってんのよ。」


「十割かぁ……確かに疑いたくもなるわな。」


「だろ?それもここ半年で、10回有って、全部1000円前後の損金だ。」


「でも、たかだか1000円の為にそんなリスク犯すか?」


「それがわからんのだよな。普通はそう思うよな。でも犯罪心理って一般人にはわからんもんじゃん。」


「一般人ね。」


「なんだよ。そのジト目は。」


「でも、売春やってるからって、金を盗むとは限らんだろ?」


「基本パチンカスなんだよ。森本女史。」


「そんなになのか?」


「ああ、夫婦そろって入り浸ってるらしいな。かなり金遣い荒いらしい。で、金にルーズだ。」


「ルーズって?」


「パート連中で、たまに女子会するらしいんだけど、会計の時にバックレるらしい。結構な確率で。」


「バックレても、次職場で会ったら集金されるだろ?」


「『今手持ちがない』とか、テキトーなこと言って逃げるらしい。結構踏み倒されてるパート多いみたいだ。昨日聞いて驚いたよ。」


「そんなに被害者居るのか?」


「俺が聞いたのは一人だけだけど、その人が言うには、他にも結構余罪があるらしい。パチで負けが込んでるってもっぱらの噂だしな。」


「そんなに被害者居たら、女子会誘われ無くならねぇのか?」


「俺もそう思うんだけどな。なんかそのあたりは難しいもんなんだろうよ。まあ、女子会っつっても、ドリンクバーとデザート一品くらいだから、被害額は数百円だな。」


「あー。そんな額なら『ことを荒立てるより』って考えるかもな。」


「そうみたいだな。まあ、でもそんなだから服部の教育係にしたのは失敗だったかもしれんってことだ。」


「今から変えるわけにはいかんのか?」


「明らかに不審だろ?『やっぱりやめます』って」


「なんか理由付ければいいだろうが、お前そう言うの得意だろ?」


「ああ、まあ。得意か不得意かで言われたら……神がかり的に得意だな。」


「じゃあ、いいじゃねぇか。」


「とはいってもな。どんな理由にするかなぁ……」


「早くしないと、ハットリくんが森本女史の魔の手に落ちるぞ。」


「いや、まじでシャレにならんのだよな。あいつ女に免疫無さそうだから。」


「そんなにか?」


「ああ、この間、小西女史と組んでた時も、話しかけられてドギマギしてたからな。あれ、やさしくされたら落ちるんじゃないか?」


「コニタンに落ちるとなると、森本女史に太刀打ちできんかもしれんな。」


「そうなんだよなぁ。って、お前二人の顔見たことない癖によくそんな判断できるな。」


「まあ、気にするな。で、どうする?」


「しかたない。女子高生ぶつけるか。」


「禁断のアイドル登場か?朱莉ちゃん?」


「お、良くわかったな。木星の重力に惹かれかかってる奴には、ブラックホールくらいのとんでもない引力をぶつけてやらないとな。」


「木星の引力で、ニュータイプに覚醒しなきゃいいけどな。いずれ木星帰りの男と呼ばれるのかな。」


「な!シロッコかよ!」


「シャリア・ブルだ。」


 黒猫はひと鳴きして窓から出て行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ