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かぐや2022

作者: TOKU MATSU

ブックマークヨロです。

「むかーし、むかし。あるところに・・・・・」

そこは日本の原風景。

里山があり、水田が広がる場所。

「むかーし、むかし。あるところに・・・・・」

空は青く、ところどころに白い雲が浮かぶ。

「むかーし、むかし。あるところに・・・・・」

麦わら帽子を被り、白いTシャツと言うかラクダシャツ・・・を着て、ネズミ色のハーフパンツ・・・と言っていいのか、ステテコと言うのか・・・を履き、下駄をカランコロンと鳴らしながら、背の低い年老いた老人がガニ股で畦道を歩いている。

「むかーし、むかし。あるところに・・・・・」

ほっかむりを被り、更に帽子を被り、なのにたっぷり日焼けをし、皺の深い初老の男性が、立て掛けた鍬に手を置きうんざりした顔で言った。

「ゴン爺さん。頼む!その壊れたリピート機能みたいなのやめてくれ!」

ゴン爺はゆっくりと見上げるとにっこりして言った。

「・・・・・ゴメンねw」


ここは、日本のとある田舎のとある村。

過疎化しているように見えて、けど何故か過疎化していない村。

しかも村は古い歴史を持つと言う。

なのに世界遺産のようなものは見当たらない。

そんな場所に年老いたお爺さんとお婆さんが住んでいた。


お爺さんには毎日の日課があった。

それは本人曰く、命の洗濯。

心が洗われる・・・と言うより、生命力を沸き立たせる事。

本人は洗濯と言っているが、側から見ると生命力を上げているかもしくは減らしているかに見える。

今日も朝からタンクトップ(けど単なる年寄りのインナーシャツにしか見えない)を着て、革ジャンを羽織り、少ない髪の毛を真ん中に寄せ、かつ無理矢理立たせ、真っ黒なサングラスをかけて玄関を出る。

「ちょっくら洗濯してくるぞい!」

そう家の中へ叫ぶと、庭の隅に止めてあるハーレーに向かい跨った。

キュルキュル、ブォン、ドッ、ドッ、ドッ、ドッ。

ハーレー独特の重低音のエンジン音が鳴り響く。

お爺さんはハンドルを握るとそのまま町へ向かって走り始めた。

町へ?

そう町へだ。

町に着いてからが日課の始まりだ。

町には小洒落たアパレルショップやお洒落な喫茶店が並ぶ通りがあった。

テレビやネットで紹介されている有名な通りだ。

JKやら若い女が大勢歩いている。

お爺さんはエンジンを吹かしながらその通りを進み、若者が集まっているクレープ屋の前にバイクを止めた。

当たりを見回し、若い女性の集団を見つけると・・・

「ヘイ!そこの女子!お茶しなーい♪」

ドン引きする通行人達・・・。


お婆さんにも日課がある。

お爺さんが出かけた後、お婆さんは身支度を始める。

まず腰まである髪を三つ編みにする。

そしてやや厚めのシャツの袖に腕を通す。

濃い緑色の厚手のズボンを履き、上から迷彩色のジャケットを着て、迷彩色の帽子を被り、硬そうなベルトを付ける。

更にベルトにはネズミ色のパイナップルのようなものとか、丸い黒光するものとかぶら下げ、そして銃を担ぎ玄関へ向かう。

玄関に向かうと置いてあるブーツを履き、庭に止めてあるハマーに乗る。

バタン。

キュルキュルキュルキュル。

ブォン。

エンジンが始動すると、ハマーは山の林道へ向かった。

ハマーが入れるギリギリまでのところまで林道を進んだところで、お婆さんはハマーを止めて降りる。

そして車内からM16を手に持ち、M3を肩に下げると、無言で山に入る。

草の折れ具合、木の削り具合、岩に付いた土を入念に確認して山の中を進む。

時々止まると静かに目を閉じて、何か聞き耳を立てるような仕草をする。

繰り返す事数回。

突然、お婆さんはM3を肩に担ぎ、そして叫んだ。

「そこか!」

引き金が引かれる。

チュドーン。

弾頭が白い煙を引きながら放たれた。

ドカーン!

もくもくと黒い煙が着弾点で上がる。

煙の中から人のシルエットが浮かび上がった。

男は真っ車な姿で唖然とした表情で突っ立っていた・・・・・。


林道に止めたハマーの近辺ではサイレンが鳴り響き、パトカーが何台も止まっていた。

煤で真っ黒になった男が、両手を手錠にかけられてパトカーに押し込まれる。

警官が敬礼してお婆さんに言った。

「山狩りへのご協力感謝いたします。」

お婆さんを知らない若い警官は、ただ、ただ唖然としてそれを見ていた。


ある日の事。

いつものようにお爺さんは町に「洗濯」をしに、お婆さんは山へ「狩り」に向かった。

お婆さんはいつものようにハマーを林道に止めると、山へ入る。

この山は深い森が広がるからなのか、それともそう言うスポットなのか、あるいは・・・まあ、何故か分からないが良く脱獄者だの指名手配犯が逃げ込んでくる。

なのでお婆さんは頻繁に「狩り」に来る。

しかし、今日はハズレのようだ。

気配が全くない。

仕方がないので、遥か昔から存在していると言う竹林の方へ向かった。

単なる気まぐれだった。

本当に気まぐれだった。

ガサガサと笹が混じった竹林を分け入って進む。

ん、何かの気配!?

お婆さんはこれまでの経験から何かしらの異常を嗅ぎとった。


鬱蒼と竹が茂る竹林の中で、一本の竹の節がささやかに光っていた。

お婆さんはそれに気づいているのかいないのか、M16のグレネードランチャーに擲弾を付けた。

神経を研ぎ澄ませ辺りを警戒する。

「・・・・・」

ゆっくりとお婆さんは竹林を進む。

ガサ、ガサ。

腰を低くする。

低い体制で、M16を抱え体を左右に向けながら前進する。

やがて光っている竹の付近に近づいて来た。

「・・・・・(・・;)」

竹の光がそれ程強く無いせいか、あるいは運良く(悪く?)光が当たっていたせいか、そのままお婆さんはスルーして遠ざかって行った・・・

「・・・・・(;´д`)」

と思ったその矢先!

「そこか!」

「!!!!!(゜o゜;;) 」

しゅぽーん!

グレネードランチャーから擲弾が放たれる!

ドカーン!

バキバキバキ!

光っていた竹が真っ黒になって途中からポッキリと折れた。

ちょうど光っていた辺りが割れて・・・。

「✴︎?ε!⊃◇!(*_*) 」

竹の折れた部分に、十二単衣のような着物を着た小さな女の子が、真っ黒になって目を回してひっくり返っていた。

一瞬、お婆さんは驚いた表情をしてその姿を見たが、やがて吐き捨てるように言った。

「チッ、ハズレかい」

お婆さんは、まるで見なかったかのように、そのままその場を立ち去ろうと・・・

「ちょっと、ちょっと〜ッ!」

「あ“〜?」

「あ、いや、その、何というか・・・」

「あたしに何か用かい⁉︎」

お婆さんが般若のような顔になる。

「(怖!)いえ、その何も思わないのかなと・・・」

「思わないねッ!じゃあね!」

くるっと背を向けたが・・・

「ええ〜ッ!ちょっと待ってくださいよー!」

「なんだい?こっちは用は無いんだよ!」

「そ、そんな〜。こんな小さな女の子を見捨てるんですか〜?」

「見捨てちゃ悪いか?」

「だって蛇とか狐とかに襲われるかもじゃないですかー!」

「襲われれば?」

「そ、そんな事言わないで拾ってくださいよ!」

「犬・猫は拾わない主義でね。」

「動物と同じにしないでください!これでも人と同じ知的生命体です!」

ああ言えばこう言う、こう言えばああ言う。

女の子はお婆さんに論破されまくる。

「ったくしつこい奴だね。拾ったらなんか見返りはあるのかい?」

小さな女の子は揉み手をしながら応える。

「そ、それはそれはもう・・・」

「・・・・・」

お婆さんはジッと小さな女の子を見た。

女の子にとっては、まるで般若に睨まれているようで生きた心地がしなかった。

けれども上からは「最初に出会った人間に面倒を見てもらえ」と指示されている。

なので縋るしか無い。

怖いけど仕方がない。

「ッチ・・・はぁーッ。大きな見返りが無かったら、すぐに橋の下に捨てるからね!」

まるで、捨て猫を拾って来た孫に説教するような言い方・・・と思ったのも束の間、突然、お婆さんは指で小さな女の子を掴んだ。

「ひ、ひえー」

お婆さんはまるで嫌な虫を摘むようにして女の子を指で持つと、ハマーまで戻った。

ポイ!

「あれ〜」

女の子はハマーに無造作に投げ入れられた。


「婆さん。今帰ったぞ。」

お爺さんは玄関の引き戸をガラガラと引き、家に入った。

今日の収穫はゼロ。

ま、いつもの事。

こんな変態爺さんに引っかかる女性は滅多にいない。

ん?

お爺さんは玄関を上がったところにいた者を凝視した。

何かが座っている。

チョコンと・・・。

「?????」

「えっと・・・あの・・・その・・・」

着物を着た小さな女の子?

モジモジとしながら上目遣いでお爺さんを見ている。

若干黒ずんでいるようだが?

それよりも・・・・・えッ?

なんじゃこれ?

いや昭和の刑事ドラマでは無く・・・。

えッ?

えッ?

分け分からんぞ?

何故?

突然?

「ほげ?ほげ?ほげーッ?おおおおおおおおオオオオ!?」

お爺さんは思わず手を伸ばした。

パコーン!

「このロリコンジジイ!」

お婆さんが鍋でお爺さんの頭を叩いた。

「婆さん何しよる!」

「いくら女好きでもそこまで落ちるな!このエロジジイ!」

「誰がじゃ失礼な!そこまで落ちとらんわ!それよりなんじゃこれは?」

「竹藪で拾ったんじゃ。」

「た・竹藪でじゃと?」

お爺さんはマジマジとその女の子を見た。

そして手を顎に当てて上を見たり、下を見たり・・・。

「とにかく暫くうちに置いとくでの。よろしくな!」

「よ、よろしくなって・・・婆さん・・・・・いいのか?」

お爺さんはお婆さんをジッと見た。

「ああ、それからこの子を預かると大きな見返りがあるそうじゃ。」

「・・・・・」

爺さんは再び上を向きジッと天井を見ると、大きな溜め息をついた。

ガラガラ。

再び玄関の引き戸が動いた。

「タダイマ〜・・・・・それ、ナニ?」

ゴン爺が玄関に入って来た。


女の子はお爺さんお婆さん夫婦に「かぐや」と名付けられ、“厄介”になる事になった。

そして・・・彼女はすくすくと・・・3ヶ月で・・・と言うよりもサイズが3ヶ月でそれ相応になった。

元々の見た目は高校生の女の子。

それをそのまんま小さくして、フイギュアのような大きさだったのが、日毎にサイズが大きくなり、今ではそこら辺のJKと変わりは無い大きさとなった。

服は最初の頃は十二単衣だったが、サイズが大きくなるにつれ、ゴン爺が今風の服を用意してくれてそちらを着るようになった。

が、サイズが大きくなると、お婆さんのとてもとても優しい“ご指導・ご鞭撻”が始まった。

「こら!気合いを入れて雑巾掛けせんか!ここホコリ溜まっとる!もう一度やり直さんかね!あと、ゴン爺の食事を早く用意せんか!」

「ひい〜」

かぐやは涙目になりながら、お婆さんのとても親切で身になる教育を受け続けた。

何故?どうして?まるで嫁いびりみたい・・・と思いつつ。

上からの指示で「出会った人に世話になる事」と言われているし、この老夫婦に厄介となる以外、選択肢は無い。

けどね・・・この状況は・・・。

・・・我慢、我慢よわたし!

でもなんでこんな目に遭うのよ〜。

もういや・・・・・。


そしてかぐやは、いつしか現実逃避して妙な妄想に走るようになった・・・。

私は不幸の星に生まれた悲劇のヒロインよ。

いつか王子様が白馬に乗って助けに来てくれるの・・・。

どんなイケメン王子様かしら。

或いはカボチャの馬車が迎えに来てくれる筈よ・・・。

「グフ、グフ、グフ、グフフフ。」

変な笑い声を上げながら、かぐやは与えられた仕事をこなして行く。

実は家事一切をした事が無いので、要領が悪いだけだったりするのだが・・・。

そう言えば・・・お爺さんはどこ?


その頃、お爺さんは毎日の日課、洗濯をしに町に出向いていた。

バイクを降りて「洗濯」のために物色していたのだが・・・。

「おい。本当にあの爺さんか?」

「ああ。そうだ。」

「年甲斐も無く、あんな恥ずかしい格好してナンパしまくっている、あの爺さんが?」

「ああ、そうだよ!」

怪しいサングラスをかけた黒いスーツの男が二人、遠くからお爺さんを見つめていた。

「信じられないが、取り敢えず仕事しよう。」

「なんか気が進まん・・・」


ゴトッ。

お爺さんの横で音がした。

見ると茶色をした皮のスーツケースが置いてある。

まるで風天のオッサンが持つようなスーツケース。

お爺さんはそれをジイーッと見て・・・ジイーッと見て・・・ジイーッと・・・。

怪しい二人組は思った。

『何をしてる?さっさと持って行け!』

『この仕事やだ・・・』

クンクン。

「「???」」

ガリガリ。

『何故齧る!』

『それ美味いのか?』

お爺さんは再びスーツケースを見つめると、今度はサングラスを取り、革ジャンを羽織るようにして着て、片足をカバンに乗せて・・・

「遅ればせの仁義、失礼さんでござんす。」

「「?????」」

「わたくし、生まれも育ちも東京葛飾柴又・・・」

「誰が寅さんの物真似しろと言った!面白くねーし、だいたいその格好全然似てねーだろう!」

「あ、おい!ちょっと!」

「あんたら誰?」

「「あっ・・・」」

・・・・・数秒の沈黙。

怪しさ満天の二人組は慌てて繕った。

「い・いや、爺さん、そ・その鞄で何してるんだ?」

「遊んどるんだが?」

『『そのまんまか!』』

「その鞄は?」

「知らん。」

『あれ?誘導催眠が発揮されて無い?』

『本来だったら手に取るはず』

「そのまんま貰ったら?」

「ダメじゃろ」

『ですよね〜』

「贈り物かも知れないよ?」

「誰のじゃ?」

「えッ?それはその・・・」

『どうする?どうする?どうする?』

『誘導催眠をこの場でかけては?』

『この場では他の人にも影響を与える!危険だ!』

お爺さんは二人をジイーッと見た。

『やばい!めっちゃ怪しまれている!』

『ど・どうする?』

「プ」

「プ?屁か?」

「プ・プ・プレゼント、フォー、ユー」

『おま、何を言って!?』

そう言うと二人組の片割れは、スーツケースを取ると無理矢理お爺さんに押し付けた。

「あっ、あーでいおーす」

「あ、ちょっと待って!」

訳の分からない言葉を残して、怪しいヘタレの二人組は逃げ足早く、姿を消した。


ちゃぶ台の周りを年寄り三人、少女一人が囲んでいる。

ちゃぶ台の上には茶色のスーツケース。

「貰ってしまったのかい?」

「ああ。押し付けられてしもうた。」

ゴン爺はキョロキョロと老夫婦を見ている。

「あんたのお仲間の仕業だね。」

「は、はい・・・多分“見返り”だと思います・・・。」

「何が入っとるか想像はつくんじゃが・・・開けてみるかのう。」

「はあ・・・」

お婆さんは大きな溜め息をついた。

かぐやには訳が分からなかった。

なんで開けても無いのに中身が分かるの?

分かったとしても何故そんな残念そうなの?

見返りなのに?

お爺さんがトランクを開けた。

ぴか〜ん。

中から光が漏れ出し、金の延棒がいくつも出て来た。

「ざっと10億じゃの・・・」

「こんなもん、貰ってものー・・・。」

えッ?えッ?えッ?

かぐやにはますます分からなかった。

普通だったら喜ぶものでしょう?

なのに何故?

ゴン爺は下を向き始めた。

「仕方がないの。このお宝で商売するかのう。」

「そうせい、そうせい。好きに使うがええ。」


 数ヶ月後・・・お爺さんがいつも「洗濯」をする町の通りに新しい喫茶店が出来た。

それも美人でニーソを履き、ミニスカを着て、ケモ耳を被った給仕さんがいっぱいいる・・・。

「お帰りなさいませ。ご主人様〜。」

「うぉ〜かぐやちゃん!今日も来たぜーッ!お給仕してくれ〜。」

かぐやはこの店の看板娘になっていた。

お婆さん仕込みのスパルタドリル・・・ではなく今節丁寧な指導により、お客さんの評判はすこぶる良かった。

店は連日満員御礼、笑いが止まらない・・・筈だったが経営者の老夫婦は案外冷めていて、かぐやから見ると、全く喜んでいる様には見えなかった。

トランクに入っていた金の延棒を担保にメイド喫茶をしてみたが、現在のところ稼ぎに稼いでる。

しかし、お爺さんとお婆さんは溜め息をつくばかり。


「グヘヘへ、かぐやぢゃ〜ん」

テンプレ姿のキモヲタが、かぐやの絶対領域に脂ぎった手で触った。

「キャッ!」

驚いたかぐやが声を上げる。

すると般若に変化したお婆さんが、スーッとテンプレキモヲタの背後に音も無く近づく。

お婆さんはサバイバルナイフを手に取り、背後からキモヲタの喉元に刃を突き付けた。

「お客様・・・お触り禁止ですよ・・・。」

まるで背後霊のようなオーラを出している。

それも誰もが身震いするような凄いオーラで・・・。

ルール違反をしたキモヲタは、脂ぎった顔から更に脂をダラダラと出した。

「は、はひ、す、すびません」

かぐやは思った。

な、なんでわたしこんな事してるの?


更に時間が経った、かぐやは店では絶対的な人気を誇るようになっていた。

当然だが、女性が多い職場、それも人気が商売の職場では嫉妬で陰湿ないじめが・・・あってもおかしく無いのだが、何故か起こらなかった。

それは恐らくお婆さんがかぐやに常にやさーしく、スパルタ(コホン)・・・適切な指導をしているのと、お婆さんのブラック企業を思わせる・・・じゃなくて、家庭的な雰囲気で従業員に接して教育しているのが原因だ。

た・ぶ・ん。


人気者がいる店は、噂を聞きつけてIT企業の社長とか、FXで運良く成功した勘違い成金どもが大挙して押しかける。

どう言った影響力があるのか、お爺さんは店が出来た時からマスコミを一切シャットアウトしていたのだが、このご時世、ネットに戸は立てらない。

有象無象の輩は毎日大量にやってきた。

「かぐやちゃーん。好きです♡」

「あは。あ、ありがとうございます。ご主人様♡」

『ま、まだマシね』

「かぐやちゃーん。俺のよ、嫁になって。」

「じょ、冗談がお上手ですね。ご主人様。」

『こ、これはなんとか躱せそう』

「かぐや様。プレゼントです。先日ヨーロッパに行った時に購入した一品です。」

『うう、お、重い。重過ぎる・・・。』

「あ、ありがたいですが、そ、そのような高価な物、受け取る事は出来ませんわ。ましてやこの様な下賤が働く店の従業員には過ぎたる物です、ご主人様♡」

『げ、現実を見てよ!』

「かぐや。今度うち来いよ。楽しい事しようぜ!」

『な、な、何このど勘違い上から目線野郎は!?』

「あ、あの・・・親が厳しいもので・・・」

男の背後には般若面のお婆さんが、凄いオーラを出して立っていた。


あまりにもアホ面の輩がしつこく迫ってくるので、かぐやは勘違い成金五人衆に無理難題を突き付けた。

いつも軽口を言って迫って来るチャラ男の有名ユーチュバーには、一年以内に金星の有人探査をしてねと伝えた。

偉そうにして迫って来る有名ブロガーには、一年以内に地球のコアの写真を撮ってねとお願いした。

金をチラつかせる、最近人気が出てきた勘違いお笑いタレントには、宇宙ステーションからのスカイダイビングを一年以内にしてとお願い。

世界情勢やら何やら、エリートでも無いのにやたら知識をひけらかすFXの成功成金には、南極の地下から謎の物体xを掘り出してと伝えた。

そして上から目線で威張りちらし、誰彼構わずマウントを取りたがるネットショップの社長には、一年以内に有人火星探査をしないと嫌いになると伝える。

半分冗談。

半分断りのつもりだったのだが・・・。


言われた五人衆は色めきたった。

なんとかハートを掴もうと・・・そしてありとあらゆる手を尽くし、財産を注ぎ込み・・・・・結果、全員破産した。

最も酷かったのはネットショップの社長だった。

金を注ぎ込み、宇宙まで行ったまでは良かったが、火星に降り立つのは到底不可能と勘付き、全財産を使ってフェイク動画を作り始めた。

ハリウッドやらなんやらを使って・・・。

金をふんだんに使ったおかげで、本物と信じるに足るような凄い動画が出来上がった。

あまりにも出来栄えの良かった完成した動画によって、本当に火星に行ったと世間では信じられ、マスコミからネット民までが大騒ぎする事態になったが・・・。

しかし・・・嘘はすぐに暴露された。

金を支払わない社長に業をにやしたハリウッドのプロダクションに訴えられ、敢えなく嘘が露見。

挙句に全てを失い、今は詐欺罪で檻の中にいる。

「カプリコン?」

「カプリコンじゃな」

「ウン、カプリコン」

「くだらんワイ」



そんなこんなで月日は瞬く間に過ぎた。

竹藪の爆破から「救い出されて」から漸く三年が過ぎた。

地球でのスパルタドリル、では無く上から指示された研修期間もやっと満期だ。

もうすぐこの地獄、では無くて涙が出るほど楽しかった研修も終わる。

かぐやは縁側に座りながら月を見て、この三年の月日を思い返した。

「ゲヒ、ゲヒ、ゲヒヒヒ。」

満ちつつある月を見ながらかぐやは下品な微笑みを溢すのであった。


一方、お爺さんとお婆さんは複雑な心境だった。

かぐやからは先日、十五夜の日に地球を離れる、自分の星へ帰ると告げられた。

そうか・・・お爺さんはそう答えたが・・・。

お爺さんとお婆さんは部屋の襖を開け、月を見た。

いよいよか・・・。

長い長い、それでいて短くもあった月日であった。

ゴン爺はそっと老夫婦に寄った。

そしてお婆さんの肩を揉んだ。

「ゴン太・・・お前は昔から優しい子じゃの・・・」

お婆さんはそっと俯き、お爺さんは憂うような表情で月を見た。

「来るかも知れんの・・・婆さん。覚悟はええか?」

「とっくにしとるわ。馬鹿もん。」


十五夜が近づいたある日、夜だと言うのにサングラスをかけた黒いスーツを着た二人組が訪ねて来た。

お爺さんにスーツケースを押し付けたあの二人だ。

「あのー、こんばんは・・・」

「だーれ?」

ゴン爺が応対に出た。

「“かぐや”様の関係者なのですが・・・お爺さまとお婆さまはご在宅でしょうか?」

かぐやが後から出てきた。

「あれ?6,111,561,365号さんと156,567,593,238号さんじゃ無いですか?良いんですか私と会って?」

『言い切った!つーか、良く覚えていたな!』

「もう明後日が期日ですし、大丈夫です。」

156,567,593,238号と呼ばれた男が答えた・・・本当はちゃんと本名があるのだが・・・。

「その前にお渡しする物とかあるので・・・」

6,111,561,365号と呼ばれる男が答えた。

「誰じゃ?誰か来たのか?」

奥からお爺さんも出て来た。

「なんじゃ。お前さん達か。久しぶりじゃの。」

「あの時は、その・・・」

「ええよ、ええよ。ひとまず上がらんか。」

「いや、我々はここで・・」

156,567,593,238号が玄関先で済まそうとするが、

「ええから上がれ!」

更に奥からM16を手にしたお婆さんが現れた。

「「はい・・・」」

二人はまるで脅迫されたかの様に、家の中に無理矢理入らされた。


ちゃぶ台を囲んで6人が座る。

一人は武装した老婆。

一人は難しい顔をした老翁。

一人は人の良さそうな老人。

一人は緊張した顔の少女。

そして小さくなったサングラスの男二人。

「で?何しに来たんじゃ?」

「そ、その、“かぐや“様の面倒を見て頂いたお礼の品をお納めしたく・・・」

「フン・・・」

お婆さんが鼻を鳴らした。

お爺さんはそれを横目で見て言った。

「どうせ遺伝子改造の薬とか最先端技術の詰まった服とかじゃろ?もうとっくにもらっとるわ。1200年前に。」

「「へッ?」」

「えッ?」

サングラスの二人とかぐやは驚いて声を上げた。

1200年前に?

という事は?

あれ?

どゆこと?

えッ?

えッ?

という事はこの人達は!?

「竹取の翁と嫗!」

思わずかぐやが叫んだ。

「遥か昔の名前じゃ。」

お爺さんは俯いて応じた。

えっ、でもでも1200年前よ?

そもそも不死の薬は、帝が富士山の頂上で燃やしたんでは?

だから富士山は不死の山でフジサンと・・・。

「帝に渡された薬はのう・・・」

お婆さんは溜め息混じりに語った。

「富士山で燃やした筈じゃった。ところがのう・・・」

お婆さんによると話はこうだ。


先代のかぐやから不死の薬、お爺さんが言う遺伝子改造の薬をもらった帝は、あまりの悲しさに倉庫の奥深くに仕舞われたそうだ。

やがて日が経ち、心の整理が付いた帝は未練を断ち切る為に家臣に命じて薬を燃やす事にした。

同時にお優しい帝は、心の傷を負った竹取の翁と嫗を労わろうと贈り物をすることを思い立った。

「これを竹取の翁夫婦に渡しておくれ。そしてこれを駿河のお山の上で燃やしてたもう。」

そう言って、間違って不死の薬を家臣に渡し、下賜する筈だった高級な漢方薬を燃やすように命じ・・・。

それから更に年数が経ち、何故かなかなか死なず、ピンピンしている老夫婦を見て、帝は初めて間違って薬を渡した事に気づいたそうだ。

「すまぬ。間違えてしもうた。(=´∀`)テヘ」と謝られたとか・・・・


「おっちょこちょいなお上じゃった・・・」

お婆さんが遠い目をして言う。

「「「( ゜д゜)・・・・・」」」

かぐやとサングラスの二人は開いた口が塞がらなかった。

ま、天子様とは言え、人の子ではある。

お間違いもされるだろうが、ちょっと壮大過ぎませんか?

そ、それにしても・・・?

「・・・それにしても・・・性格が凄く変わっていませんか?」

6,111,561,365号が突っ込む。

「ゴン太。あれを出しておくれ。」

お婆さんはゴン爺に何かを出すように言った。

ゴン爺は押し入れの襖を開け、中から葛籠をゴソゴソと大事そうに引っ張り出した。

葛籠を開くと、触ったら崩れそうな古い木の板や、巻物、それに白黒の写真があった。

木の板には薄くなった墨で、優しそうな老夫婦が描かれていた。

恐らくお爺さんとお婆さんだ。

その次の板も。

その次も。

やがてそれは掛け軸に描かれようになり、それが何本もあった。

そのうち、それは写真に変わり、優しそうな老夫婦が写っていた。

その次の写真も、その次も・・・。

そして最後の写真には・・・

「な、な、な、な、何これーーーーーーッ!?」

かぐやが卒倒しそうな表情で写真を見た。

そこにはサングラスをかけ、アメリカ軍の軍服らしき物を着てポーズを取っているお爺さんと、側にはケバケバしい化粧をしてド派手な服を着て片目を瞑ったお婆さんが映っていた。

「ノリじゃよ、ノリ。」

「いや、そーゆー事じゃないでしょ!変わりすぎよ!」

あまりにも衝撃的な写真だった。

ノリ?

ノリでこんな格好普通するかーッ!

かぐやはマジマジと写真を見た。

あれ?

この最後の写真・・・・・。

「・・・・・そう。そう言う事・・・・・優しいのね・・・。」

聴こえるか聞こえない声でかぐやは呟いたが、その言葉は老人達には聴こえたらしい。

三人とも黙ってしまった。


十五夜が来た。

そう待ちに待った十五夜だ。

けれどもかぐやは何とも複雑な気分だった。

真実を知った事で余計に気分は複雑だ。

老夫婦が本当に欲しい、けれども当事者としては贈りたくない、悲しい贈り物を望んだ。

一応交渉はして見ると伝えたが、やりたくない。

先代のかぐやに取っては受け入れ難い。

その前に1200年ぶりに先代に再会させてあげたい。

恐らく迎えと一緒に来るであろう。

話はそれからだ。


夜空には大きな月が浮かんでいた。

珍しく晴れて、中秋の名月にふさわしい、いい夜空だ。

かぐやは庭先に出てジッと月の方を見た。

側には護衛のようにサングラスの二人が立っていた。

お爺さんとお婆さんは少し離れた後方で、同じように月を見ていた。

傍らにはゴン爺もいる。

驚いた事に、この家は1200年前に帝から下賜された屋敷と同じ場所に建てらたとの事。

道理で再び出会う事になる筈だ。

けど必然だったのかしら?

そんな事はないわね。

だってあの竹藪で私を見つけたお婆さんは、驚いた顔をしてたもの。

そう思いながら、かぐやは迎えを待った。


所定の時刻になった。

一本の光の筋が、庭先に差した。

その光の筋が徐々に大きくなり、やがて辺り一面が光に包まれた。

目が開けられないくらい眩しく輝いた光は、やがて徐々に収まって来た。

同時に牛車と平安時代の装束を身に纏った護衛が現れた。

「お久しぶりです。お迎えに参りました。」

一人の男がかぐやに近づいた。

「研修はいかがでしたか?これであなたも一人前の皇帝候補になりました。この後、第一線で働く事になります。ご活躍を期待しています。」

「ありがとう10号さん。」

かぐやは深呼吸した。

「先代も来られているんでしょ?お願いがあるのですけど?」

「来られていますよ。なんなりと。」

「お爺さんとお婆さんに会っていただけませんか?」

10号と呼ばれた護衛は牛車を見た。

言葉は発していないが、恐らくテレパシーで許可を求めている。

「お会いになられるそうです。」

「ありがとうございます。」

かぐやは振り返ると、サングラスの二人を伴ってお爺さんとお婆さんの方へ歩み寄った。


「お爺さん、お婆さん・・・・・。」

老夫婦はジッとかぐやを見た。

「先代があちらの牛車に乗っておられます。お会いになりますか?」

「ああ・・・」

老婆はゆっくりと頷いた。

「婆さん先へ行ってくれ」

「ったく爺さんは・・・」

そう言って老婆はよろよろと、ゆっくりと、牛車に向かって歩き出した。

かぐやはその姿を見て、体を支えようとするが・・・

「いらん、いらん!あんたらのおかげで足腰は元気じゃ!」

ニカッと笑ってお婆さんはそれを制した。

牛車の周りには護衛が囲むように立っていた。

その間を抜け、お婆さんは牛車に近づいて行く。

そして前から乗ろうと・・・

「あ、お婆さんそっちから入っちゃダメーッ!」

かぐやは慌てて叫んだ。

「え?」

お婆さんはそう言って止まろうとしたが、足が滑り牛車に取付けられた紐を引っ張った。

カチンッ。

ピカッ〜!

ヒュンヒュンヒュンヒュンヒューン。

再び辺りが光だした。

そして驚いた表情のお婆さんと、慌てた顔の護衛の人達の姿が徐々に光で見えなくなり・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・シーン。


光が収まると・・・辺りは月に照らされた庭があり、そして静まり返った。

牛車も護衛も忽然と消えてしまっていた。

残されたのは老人二入とサングラス二人、そして美少女一人。

「・・・・・・・・・・・・行っちゃった・・・・・」

かぐやが茫然として呟いた。

「・・・・・直ぐに・・・戻って来るんじゃろ?」

唖然とした表情でお爺さんが言った。

「うん・・・・・・・途中の500光年離れた中継用量子転送所で引き返すと思うから・・・・・・1000年程で戻って来ると思うわ・・・・・・。」

引き攣った顔でかぐやは答えた。


ゴン爺がそばでボソっと呟いた。

「めでたし、めでたし・・・」


かぐやとお爺さんは顔を見合わせた。


えっと・・・宇宙に実際に行ったお金持ちをモデルにしたつもりはありません。

思いつきですよ。

そう思いつき・・・。

♪(´ε` )


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