第6話 家族の時間
レイの試練から数日が経った。
両親の少し不安そうな顔が俺を見つめている。
「母さん大丈夫?ちょっと痩せた?」
ここ何年かは図書館に籠ったり魔法の練習をしたりで、ろくに実家に帰っていなかったので、両親の顔は久しぶりに見る。
「何呑気なこと言ってるのよ! レイさんから全部聞いたわよ! 明日にはここを出るのでしょう!?」
「うん」
「そうよね……本当に行ってしまうのね」
「ごめん、でも昔からの夢だったんだ。外の世界をたくさん見てくるよ。またいつかお土産でも持って帰ってくるね」
お土産と聞いて、押し黙っていた父さんの顔が柔らかくなる。
「それなら俺はチョコレートというやつが食べてみたい。どこかの国の名菓らしいんだ」
「分かった。もし見つけたら買っておくよ。母さんは?」
「私は……あなたが無事で帰ってくるのなら、それが一番のお土産だわ」
「うん、分かった。絶対に帰ってくる、約束するよ」
母さんが微笑みを見せると、機を狙ったように父さんが「あっそうだ」と言って家の奥に消えていった。
「……二人とも! ちょっとこっちに来てくれ!」
言われるがまま家の奥にいくと、そこには大量の木箱が積み上げられていた。
「大体3年分の食糧だ。旅のお供に持っていってほしい。サラ魚にケル肉、お前の大好物のヤムの実まであるぞ。この日のためにちょっとずつ蓄えておいたんだ。お前が天井に穴を開けたあの日からずっと……」
「え?」
俺が天井に穴を開けた日――それは、俺が初めて古代魔法を使った時のことだろう。
てっきりあの時はまだ、俺が古代魔法を使ったということは信じられていないものと思っていた。
しかしそれは違ったのかもしれない……父さんは俺よりも俺のことを信じてくれていたのかもしれない。
「お父さん、そんなたくさんの荷物持っていけるわけないでしょ」
「だが……うーん……」
父さんが悲しそうにうなる。
「父さん、これ本当にもらってもいいの?」
「ああ、でも持ちきれない……よな?」
「ううん、大丈夫。――古代空間魔法・超空倉庫」
ヴァァン、という音と共に紫色のゲートが開く。
この先は何でも保存できる超空間となっていて、無限とも言えるほど物を貯めておくことが出来るらしい。本で読んだだけの情報なので、この空間の終わりをこの目で確かめたわけではないが。
「ここに入れれば全部持っていける。父さん、本当にありがとう」
「いやいや、本当にお前は凄いな……。天井に穴を開けたのが可愛く思えてくるよ」
「……ん?さっきから気になっていたけど、シエン! あなた穴を開けたの!?」
「まぁ……でも塞いだし」
「そういう問題じゃありません! はぁ……せっかく見直しかけてた所だったのに、また心配になってきたわ」
「まあまあ、昔のことなんだし、少しはおおめに見てやっても……」
「お父さんは黙ってて!!」
「は、はい!」
父さんが慌てたように背筋を伸ばす。
(シエン、見ての通り女はおそろしい生き物だ。外の世界で女に会ったら気を付けろよ)
(分かったよ、父さん)
母さんに聞こえないように小声で話す。
「何話してるの?」
「い、いや何でもないよ。なあシエン」
「うん! そ、そうだよ! 何でもない」
賑やかで温かい家族。
またいつかここに戻りたい。
俺はそっとそう思った。
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ちなみにシエンは暗めの青い髪をしています。