第4話 レイ登場
サァ――――
静かな風が吹き抜ける草原を前に、俺は魔力を練り始めた。
目の前には魔法で作った木の人形が3体置かれている。
精霊の大木を使用した、特別頑丈な代物だ。
「古代炎魔法・炎帝の波熱!」
ボオォォォォォッ!!!!!
突き出す人差し指と中指から放出した炎の渦が、人形の体を燃やし尽くす。
次。
「古代水魔法・海割り!」
スパァァァァァァンン!!!!!
薄い水の刃が飛ぶ斬撃となって、人形を縦に真っ二つにする。
よし!ラスト!
「古代土魔法・巨人の怒り!」
人形の足元の大地が隆起し、5本の槍となって人形の体に穴を開けた。
「こんなもんかな……」
「何と……雷にも割れず、炎にも焼かれない精霊の大木がいともあっさり……古代魔法とはこれほど強力な魔法じゃったのか」
俺の練習の様子を見ていた長老は衝撃で、それ以上何も言えずにいた。
「古代回復魔法・女神の神風」
呪文を唱えると、2体の傷ついた木人形を黄金の光が包み、元の姿へと修復した。
炎で焼かれた木人形は燃えカスすら残らなかったため、修復は不可能だった。
――あれから15年が経過し、俺は40歳となっていた。
15年の月日を費やし、エルフのライネルが図書館に売ってくれた古代魔法本を全て読破し、俺は最上級魔法を50個ほど習得していた。
最上級魔法はとても強力な魔法なので、家や村の中で練習するわけにはいかない。
なのでこうして何もない開けた草原に来ては、木人形相手に日夜鍛錬を積んでいるのだ。
レイがこの村に戻るまで、あと20年。
それほどの余暇を残し、準備は万端すぎるほどに整ってしまっていた。
「シエン。もしかしたらお主は、月の精霊に手が届くほどの魔法の才覚を持っておるのやもしれんのぉ」
「月の精霊?」
「なんじゃ、月の精霊も知らんのか?」
俺が苦笑いをすると、長老は「はぁ」とため息をついた。
「いいか……月の精霊とは2000年前にこの世界に存在したといわれる最強の精霊のことじゃ。その魔法は大地を切り裂き、海を燃やし、天空を消滅させたと言われておる」
「凄いな……」
本当にそんな凄まじい精霊が存在するのだろうか?
海が炎で燃える光景を想像し、身が奮い立った。
「あくまで伝説上の話じゃがな。だが古代魔法を操る今のお主なら、月の精霊の影を追うことも可能かもしれん」
「どうかな……俺はまだこの村のことしか知らない。外の世界には俺よりも強いやつがきっとたくさんいるはず……それに、俺はとりあえずはレイさんの試練を合格しないと、旅人にもなれないよ」
「うん、その通りだよ、シエン」
ふと、涼しい風と共に声が舞い込んできた。
「え?……あっ、レイさん!?」
いつの間にか空中にレイの姿がある。
30年前と何一つ変わらぬ姿でレイはゆっくり下降してくると、そっと俺の隣に立った。
「あと20年は戻らないはずじゃ……」
「そのつもりだったんだけどね、待ち遠しくなって来ちゃったよ。……でも、早く来て正解だったみたいだね……」
レイはそう言うと、2体の木人形を指さした。
「炎と水と土の最上級魔法。しかも習得不可能と言われる古代魔法ときた。……私は君がこれほどの逸材だとは正直思っていなかった。どうやら50年は長すぎたみたいだね」
その時、彼女の持つ杖がピクリと動いた。
長老は気づいていない様子だったが、俺は確かに杖が動くのを目撃した。
「精霊族は元々回復魔法に長けた種族で、攻撃魔法や防御魔法なんかは上手く使いこなせない。しかし君は40歳の若さで、そのどれもが超上級レベルに達している。……魔法は十分に見せてもらった。ならば次にその実力、私に見せておくれ。試練開始」
「はい。もちろ――」
ドゴォォォォンンン!!!!!!
瞬間、レイの杖の下の地面から土の槍が現れた。
寸での所で俺はそれを避けるも、土煙が辺りを覆いつくしておりレイの姿は見えなくなっていた。
「うん、いい反応だね。でもこんな攻撃、外の世界じゃ皆避けてくるよ。中には反撃しながら避ける猛者もいる。強者が消え去っても、まだ次の強者が出てくる。それが世の理だからね。君はそれを知っているかい?」
土煙がはれると、レイは余裕の表情でこちらを見つめていた。
遠くの木の影に長老の姿が確認できる、きっとレイが逃がしたのだろう。
つまりここは危険地帯となる……ということだ。
「――はい、十分に。……だからさっき一撃を加えました」
レイが出した土の槍がぼろぼろと崩れ去る。
「古代光魔法・術式解除……術式を破壊し、魔法自体を解除させていただきました!」
「へえ……やるじゃん……」
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ちなみにレイが持っている杖はこの世界で一番堅い木、神樹ユグドラシルから作られています。