第39話 時計塔の過去
『クバートの代わりに私が説明してやろう』
時計塔の低い声が頭に響いた。
『……その昔、魔王が隆盛を極めた時代。ここイリオス平原にはイリオスという街が栄えていた。多くの冒険者やギルドが集まる活気のある街だった。……だが、時代も時代。魔王軍の魔の手は例外なくこの街にも降り注いだ』
時計塔の話を聞いていると、不思議と時が止まっているような感覚に襲われる。
『多くの冒険者が住んでいたこの街も、三騎士ブリューナクの手によってあっけなく滅亡した。家々が破壊され多くの民が無残に死に絶えた。だが……千ほどの人間はその最期、魂となり私に触れた。……それは日頃から私のことを慕い大切に思ってくれた人間達だったのだ……』
時計塔の声に悲しみが混ざる。
『私はそれに応えたかった。不滅の時計塔として彼らの火を絶やしてはならぬと思った。友として……家族として。……結果彼らの時は止まったが、幽体にさせこの世に留めてしまった』
「だからそんなことは気にすんなって言っただろ? 俺たちはお前に感謝してるんだから!」
クバートが時計塔に向かって叫ぶ。
『……ふん、お前の意見など聞いておらんわ』
「なんだと!?」
「おいおい……喧嘩は止めろよ……。それで時計塔、お前がクバートを幽霊にした経緯は分かったが、俺には何をしたんだ?」
『さっきも言っただろ、時を限りなく無にしたと。つまり……お前の時間は、今とてもゆっくりと流れている。お前が過ごす一日は元の時間では一分といったところだろう。一分という時をお前の体は一日だと認識する……そう思えば簡単だ』
「そんなことが本当に……」
『だが、お前のような実力者に、私の力が作用するのはここイリオス平原内だけだ。ここから一歩でも出ればそこは外の世界、時の流れは再び元に戻り、お前は元の時の流れで生きることになる』
「なるほど……いつっ……」
突然足が痛み出し、俺はその場に座り込んでしまった。
話を聞いて忘れかけていたが、俺は今重症だったっけ。
『……今は休めシエン。今休んだところで王都の時はさほど変化はしない。休んで力を蓄えろ。ブリューナクを……倒すのだろう』
「そうだな……少し……休むよ……」
時計塔の壁を背に座ると、途端に睡魔に襲われた。
瞼が閉じ、音も消えていく。
「ほんの少し……だけ……」
次の瞬間、俺の意識はプツリと途絶えた。
――目を覚ますと、そこには寝る前と変わらない景色が広がっていた。
「目覚めたか、シエン」
クバートは火をおこし、魚を焼いていた。
棒に突き刺した魚を俺に手渡す。
「ありがとう」
そういえば体はどこも痛くない。
代わりにとてつもなくお腹は空いているが……。
「……クバート、俺はどれくらい眠っていたんだ?」
「んー、三日だな」
「三日!? そんなに眠って……いや、でも、今王都では三分しか経ってないのか……」
自身の体感では三日も経っているのに、この世界は三分しか経っていない。
にわかに信じがたい話だが、今はこれを信じるしかない。
『やっと起きたかシエンよ。体はまだ痛むか?』
「いや、全然。完全に回復した」
クバートから貰った魚を口に運ぶ。
「これを食べたら王都に戻る……できるだけ早くいかなければ……救える命も救えないからな」
『そうか。だが、今のお前にブリューナクは倒せるのか? クバートの話によると随分と手こずっていたそうじゃないか』
「それは……はっきり言って分からない。俺のスキル”鑑定”でみた能力値の差は約二倍。もしかしたら勝てないのかもしれない……だが、やるしかないんだ。挑まなければ勝利を手にするチャンスすらない」
「いいこと言うじゃねえかシエン!」
クバートが嬉しそうに俺に微笑む。
『ふっ……やはり似ているな。お前のその性格……あいつにとても似ている』
「あいつ?」
『……私が会った時は、まだ十ほどの幼き子どもだったが、後にその男はこう呼ばれた……勇者アーサーと』
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