第38話 クバートの秘密
「ここなら大丈夫だろ……」
――瞬間移動したここはイリオス平原。
不滅の時計塔のすぐ前。
隣を見るとクバートが驚いた顔で辺りを見回している。
「シエン本当に凄いな……一瞬でこんなところまで移動するなんて……」
「いや、そんなことは……ぐっ……」
体の力が抜けたように、その場に倒れこんでしまう。
瞬間移動の魔法を使って、回復した僅かな体力も無くなってしまったのだろう。
ブリューナクにやられた傷が再び痛み始めた。
「はぁ……こんなところで倒れている……暇はない……いか……ないと」
一旦逃げきれたのはいいが、すぐに戻らなければ王都は崩壊するだろう。
魔物の大軍に加え三騎士ブリューナク。
今の王都の戦力で勝てるとは到底思えない。
それに……アカネとハクも心配だった。
「おいシエン! 無理するな! 今はゆっくり休むんだ」
「休んで……なんか……いられないさ。はぁ……俺が……いかないと……」
体を動かそうとするもやはり動かない。
さっきの痛みよりも酷くなっている気がする。
「シエン……無茶だ。今のお前が戦えるわけがない」
クバートは悲しそうにそう言った。
「でも……行かなければ……いけないんだ……クバート、俺は……」
体を引き裂かれるような痛みの中、俺の脳裏には王都で出会った人々の顔が浮かんでいた。
ギルドの皆、マスター、ナタリー、ネイル、ハク。
「俺は……守りたいんだ……」
最後にアカネの顔が思い浮かぶ。
「シエン!」そう言うアカネの顔は眩しいくらいの笑顔だった。
「大切な……人達なんだ……」
腕を曲げ、体を起こすように手を地面につく。
痛みはあったが、それでも俺は無理やりに上半身を起こした。
足に力を入れ、よろけながらも何とか立ち上がる。
「嘘だろ……その傷でなんで動けるんだ……」
「クバート……俺は……行くよ。大切な人達を……皆を守りに」
『待て』
と、その時どこからか声がした。
低い男の声である。
『クバート……その者を私に触れさせるのだ』
「え? だが……いや……」
クバートは声の主を知っているようで普通に答えている。
『早くしろ。その者が死んでもいいのか?』
「それはよくないが……いいのか?」
『構わん。早くしろ』
クバートは誰と話しているのか。
さっと辺りを見回してみても俺たち以外誰の姿もない。
「……ということだ。シエン、ちょっとここに触れてくれ」
そう言ってクバートが指さしたのは時計塔の壁。
「どういうことだ……クバート」
「いいから、いいから」
「……?」
体の痛みに耐えながら時計塔の壁の前まで歩くと、騙された気分のまま壁に触れてみる。
冷たい感触がするただの壁だ。
『……触れたな。それでいい。これでお前の時は限りなく無になった』
「……え?」
一体今何が起こっているのか。
冷静に思考してみる。
声の主は自分に触れろと言った……それで俺が触れたのは時計塔の壁。
つまり……この壁、いや時計塔が声の主?
「シエン、俺も最初は驚いた」
クバートが横に立つ。
「この時計塔は意思を持っている。そして力を持っている、それもとてつもなく強力な」
「意思? 力?」
「俺は死ぬはずだった、いや死んでいた……だが時計塔の力によっ魂の時の流れが止められた。だから俺は今ここにいる」
「何言ってるんだ……クバート」
「シエン、俺はもう死んでいるんだよ。600年も前に既に……」
「クバート……」
クバートの目は真剣でどこか悲しそうだった。
話の内容はもちろん信じられないものだ……だが、それを裏付けるようにブリューナクの言動が思い出される。
まるでクバートが見えていないかのようなあの言葉……もし本当に見えていなかったのだとしたら?
「つまり……お前は……幽霊……なのか?」
「ああ。そうだよ」
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