第34話 再び
「マスター。……昨日ハクの家の執事ネイルが、何者かに殺された。外傷はないが心臓が爆発でもしたかのようだった。そのネイルは死ぬ直前、三騎士の一端ブリューナクが復活したと言って……」
「なんじゃと!?」
マスターは驚きの声を上げ、目を見開いた。
「本当にブリューナクと……そう言っておったのか!?」
「あ、ああ。それに昨日戦ったバルモンドも……」
「は!? バルモンドじゃと! まさか……いや、でも……」
マスターはそう言うと、おもむろに本棚から一冊の本を取り出した。
題名は『勇者史』。おそらく魔王を倒したという勇者の伝説が書かれたものだろう。
「三騎士とは……魔王側近の三人じゃ」
本を開き、ページをペラペラとめくる。
「宣告のブリューナク……伝説にもたびたび登場してくる。魔王軍の攻撃の要を担い、奴が現れた場所は跡形もなく破壊されたそうじゃ。まるで死の宣告の如き攻撃力から、奴には”宣告”という異名がついた」
マスターは震えた手つきで再び本のページをめくる。
「ブリューナクと共に名を上げたのが鬼人バルモンド。その名の通り鬼をも凌ぐほどの攻撃力を持つ、ブリューナクの攻撃部隊の長だったらしい」
そういえばバルモンドは、自分が魔王軍の第一部隊隊長だと言っていた。
つまりあいつはブリューナクの部下だったわけか。
「……で、でもマスター。どういうことよ? 魔王軍って勇者に全部倒されたんじゃないの!?」
「それはわしにも分からん。伝説では敵は全て打ち滅ぼしたと書かれておる。しかし現実がそうでない以上、何かの事態が起こっているのは明白。何かの方法で魔王軍が今復活しているのやもしれん……」
「そんな……」
アカネが不安そうな顔をした。
ハクも俺にしがみついている。
ネイルの死……バルモンドの襲撃……それらがブリューナクの復活を裏付けていた。
「マスター、ブリューナクについて書かれていることは他に何かないのか? 例えば弱点とか……」
「すまんがない……残念なことじゃが、ブリューナクについての情報はここまでじゃ。使う魔法も姿すら分からん」
「そうか……」
ネイルの心臓とバルモンドを爆弾に変えたのがブリューナクだとしたならば、おそらくブリューナクは”指定のものを爆弾に変える”魔法を使う。
しかしそんな魔法聞いたこともない。もしかしたら俺たちのようにダンジョンを攻略してスキルを手に入れたのかもしれない。
「とにかくわしが教えてやれるのはこれだけじゃ。すまんの」
「いや、十分だよ。ありがとう」
マスターに礼を言い、背を向ける。
だが扉に手をかけた所で思い出したように、振り向いた。
「マスターは……この街どう思う?」
「……いい街じゃと思うぞ。人は少ないがの」
「……そっか」
それだけ言うと、俺たちは部屋の外に出た。
「シエン、さっきの何なの? この街がどうかしたの?」
階段を下り切った所でアカネが問いかける。
「いや俺は……」
「お話はお済ですか?」
言いかけて横から声がした。
声の主はナタリー、このギルドの受付をしている女性だった。
「ああ終わったよ。ナタリー、どうかしたのか?」
「いえ、たいしたことでもないのですが。その……皆さんはこれからどうするのかな……と。昨日のこともあるので……」
なるほど、ナタリーは俺たちが街を出て行かないか心配をしているのか。
……いや、優しいナタリーの性格からして、もしかしたら逆かもしれないが。
「俺たちは……もう少しここにいるよ。ここでAランクの冒険者を目指したいんだ」
アカネとハクを見ると、二人とも頷いた。
「そうですか……良かった。でも無理だけはしないでくださいね」
「ああ」
ナタリーに笑顔を向けると、ハクが俺の服を急に掴んで、怒ったように顔を膨らました。
「……ん? どうかしたのか?」
「別に……何でもない……」
そうは言うものの、そんなわけはない。
助けを求めるようにアカネを見ると、彼女も冷たい目を俺に向けていた。
「アカネ……お前までどうしたんだ?」
「別に……何でもないわよ」
「ふふっ……シエン様は人気者ですね!」
ナタリーは笑顔でそう言うと、受付へ戻っていってしまった。
「どういうことだ? まあいいか……」
気を取り直してアカネとハクを見やる。
「今日はどうする? 昨日の今日でクエストはさすがに疲れてると思うし、たまには街でも回るか?」
本当は疲れているのは俺のほうだけど。
「いいわよ。そうしましょ」
「それなら……ハクは……シエンと結婚式場の下見に行く……」
「ちょっとハク、まだそんなこと言ってたの? いい、夢は諦めるのも肝心なのよ」
「じゃあアカネは諦めてて……ハクは諦めないから……」
だが、二人もいつものように元気そうでよかった。
二人の小言を背に受けながらギルドの外に出ると、太陽が俺の顔を照り付けた。
空を見ると、雲一つない青空が海のように広がっている。
綺麗な光景に思わず息をのむ。
「さあ行こ……」
バゴォォォォォォンンン!!!!
「え?」
瞬間、突然の爆発音と共に、遠くで高い火の手が上がった。
ドゴォォォォォォン!!!!!
今度は違う家が爆発し、人々の叫び声が聞こえた。
「敵襲ぅぅぅ!!!! 敵襲ぅぅぅ!!!! 魔物の大軍が襲撃!!」
次いで兵士の叫び声が東門の方から聞こえてくる。
「……なにが起こってる……アカネ! ハク! お前たちはギルドの中に……」
と言いかけたところで言葉を止める。
アカネとハクの目がそれ以上言うのを許さなかった。
「……行くんでしょ!! 私たちも行くわ!」
「シエン……ハクも行かせて」
「……だが……いや、分かった。でも危険なことはするな。危ないと思ったら逃げるんだ。それだけは約束してくれ」
「もちろんよ!」
「うん!」
「よし……じゃあ行くか。緊急事態だし人目がどうとか言っている場合じゃないよな……瞬間移動を使う。掴まってろよ」
アカネとハクが俺の服に掴まる。
それを見届けると、俺は呪文を詠唱した。
「古代空間魔法・瞬間移動!!」
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