第33話 戦いの後
――腕を抱えながらギルドに戻ると、そこにはもう馬車はなかった。
その代わりにアカネとハクが心配そうな顔でギルドの入り口に立っている。
「シエン!!」
アカネは俺を見つけると、駆け寄ってきた。
「そんなにボロボロで……でも……無事でよかった……」
「シエン……」
遅れてきたハクが俺に抱きつく。
体が少し痛むが、痛いとは言えなかった。
「……敵は……倒したのね?」
「ああ、もう大丈夫だよ」
「よかった……本当によかった……」
アカネが嬉しそうに俯いた。
「あっ……でもシエン、ごめんなさい。その……ネイルのこと……ハクは……」
アカネの言いたいことが何となく伝わる。
要するにハクはネイルの死を知ってしまったのだろう。
「そうか……」
ハクの頭を撫でてやる。
「辛いか? ハク」
「うん……」
黙ってハクが頷く、目には涙が浮かんでいた。
俺はハクと同じ目線になるよう腰を屈めると言った。
「それなら……良かった。……辛いのなら、それはハクがネイルのことをそれだけ大切に思っていたっていうことだから」
「うん……」
「残された俺たちはネイルの死を忘れないようにしよう。この辛い気持ちを背負って生きていこう。……ネイルの死を意味のないものにしないためにも」
それはハクに言っているのか、それとも自分自身の願望なのか。
前世での俺の死は、誰かが悲しんでくれていたのだろうか。
「シエン……ありがとう……」
ハクは声を上げて泣いた。
俺はそんなハクをそっと抱きしめた。
アカネも悲しそうにそれを見つめていた。
――翌日になると、バルモンドに破壊された街の修復作業が始まった。
しかし突然の襲撃と叫ばれた魔王軍の名に、街を出ていく人も見受けられた。
恐怖が街を支配し、どことなく緊張感が漂っている。
バルモンドとの戦闘で受けた傷は一日経つとほとんど治った。
他人の傷ならば回復魔法で治せるのだが、自身のものはそうはいかない。
自然治癒能力が高い精霊族に生まれて本当にありがたかった。
――俺たちがギルドに到着すると、そこはいつもより閑散としていた。
冒険者の数が半分ほどに減っている。
昨日の襲撃で街を出て行ってしまったのだろう。
「おお、やっと来たか。お主らを待っていたぞ」
と、突然背の低い老人に声を掛けられた。
目はほとんど閉じて髪は白くなっている。
「……えーと……」
俺が戸惑っていると、その老人が「かっかっか」と笑った。
「そういえば初めて顔を合わせるかのう。わしはここのギルドマスター、ボンじゃ」
「ギルドマスター!?」
ギルドマスターとはギルドを運営している社長みたいなもの。
「……ちょっと上で話そうかの」
ボンに連れられて二階の部屋に入ると、そこは机と椅子と本棚しかないシンプルな部屋だった。
「殺風景な部屋ですまんな……わしは物を置くのが嫌いでの」
「いや、いいんだ。それより俺たちに何か用でも?」
「そうじゃった……そうじゃった……」
ボンはそう言うと椅子に腰かけ、笑顔で言った。
「三人とも、昨日は大変じゃったな。シエンに至っては敵を撃破したとか……」
ボンは何が言いたいのだろうか。
ただ労うためだけにここに呼んだというのだろうか。
「アカネとハクも、避難誘導助かったわい。おかげで多くの民が命を救われたことだろう」
「え? お前たちそんなことしてたのか?」
「うるさいわね。別に私がなにやったっていいでしょ!」
アカネが照れくさそうにそっぽをむく。
どうやら戦っていたのは俺だけではなかったようだ。
「シエンの戦闘、そしてアカネとハクの冷静な対応。ギルドマスターとしてお前たちに褒美を与えたい」
「褒美? いや、俺たちは……」
「当たり前のことをしたと?」
ボンはそう言うと椅子を降り、俺たちの前に立った。
「……恐怖に立ち向かうことは当たり前のことではない。とても勇気のいることだ。冷静になることも然り。お前たちはそれだけのことをやったのだ……自身を誇れ!」
数秒の間の後、ボンが「ごほん」と咳ばらいをし、続ける。
「……してお前たちに与える褒美だが……昨日の出来事を緊急クエストとし、お前たちはそれをクリアしたとみなす。クエストの難度は……A!! これでいいかの?」
「A!?」
アカネが大きな声を上げる。
「これでお前たちはAランククエストを二つクリアしたことになる。あと一つで皆そろってAランクに上がれるのお。期待しておるぞ」
「ありがとう……マスター」
「話は以上じゃ。もう帰ってよいぞ」
「……あっ、ちょっといいかな? 実は聞きたいことがあるんだけど……」
帰りかけたアカネとハクの足が止まる。
「二人は大丈夫だよ。俺が気になるだけだか……」
「何言ってんのよ!」
アカネが人差し指を俺の顔に近づける。
「聞きたいことってネイルが言ってたことなんでしょ?」
「まあ……」
「それなら私たちも聞いてく。ねっハク?」
「うん……」
ハクも頷く。
その目にはもう涙はなかった。
俺は嬉しそうに頷くと、マスターに向き直った。
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