第30話 襲撃
ギルドに戻ると、入り口の所に黒い馬車が停まっていた。
どこかで見たことのあるその馬車はグレゴリア公爵家のものだった。
「シエン……怖い……」
ハクが俺の服をぎゅっと掴む。
きっと中からグレゴリア公爵が出てくると思っているのだろう。
しかし中から出てきたのはグレゴリア公爵ではなく、ネイル一人だけだった。
「皆さま……」
ネイルの服は森の中を走ったようにボロボロだった。
所々擦り切れ血も滲んでいる。
「ネイル大丈夫か!? 待ってろ、今すぐ治療を……」
「いえ! 私なら大丈夫です! それよりお二人に今すぐ聞いていただきたいお話があります……」
ネイルは切迫した様子でそう言うと、ハクに聞こえないように俺の耳に顔を近づけた。
「ハク様のお父様の件です……」
ハクの父、グレゴリア公爵がどうしたというのだろうか?
俺はごくりと唾を飲み込むと、頷いた。
「……分かった。ハク……先に中に入っていてくれ」
「でも……」
ハクが不安そうに俺を見上げる。
「大丈夫、すぐに行くから」
「約束だよ……」
「うん」
ハクがギルドの中へ入っていくのを見届けると、ネイルは馬車の扉を開けた。
「ここではなんですので、馬車の中で……」
「ああ」
俺たちが馬車に乗り込むと、ネイルは茫然とした様子で話し始めた。
「……グレゴリア公爵が殺されました……」
「……え?」
「敵はすぐそこまで迫っています……」
「は!? ネイル! どういうことよ! ちゃんと説明しなさい!」
アカネが荒々しく声を上げる。
「……三騎士の一端ブリューナクが復活しました……この街はもう終わりです……ハク様を連れて逃げてください……」
「おい! ネイル! さっきから何を言ってるんだ!?」
「シエン様!」
ネイルは叫ぶと、俺の肩を両手でつかんだ。
「どうかハク様を頼みます……」
とその時!
ネイルの胸が空気をたくさん吸ったように膨張したかと思うと、パン!という破裂音と共に収縮した。
「え?」
「ぐ……がっ……」
ネイルが口から血を吐き、馬車の床に横に倒れる。
突然の出来事に思考が停止し、一瞬の間の後再び動き出す。
「ネイル?……ネイル!!!」
ネイルの体を起こすも、彼は既に死んでいた。
白目をむき、呼吸も心臓の音もしない。
「うそよね……冗談よ……ね?」
「違う……冗談なんかじゃない。ネイルはたった今死んだんだ……」
ネイルが吐血する前に聞いた破裂音。
おそらくそれがネイルの死に関係しているはず。
「古代光魔法・神の眼光」
これは物体の中身を透視することが出来る魔法だ。
俺は呪文を唱え、恐る恐るネイルの体の中を透視した。
「これは……うぅ……」
あまりの悲惨さに思わず吐き気をもよおしてしまう。
何とかそれに耐えると、魔法を解除する。
「心臓がない……心臓がなくなっている」
「え……うそでしょ……そんなことあるわけないじゃない!」
「本当なんだ!! しかもそれどころじゃない……心臓の周りがぐちゃぐちゃになってるんだ……まるで心臓が爆発してしまったように」
「そんな……」
考えたくはない。
しかし状況がそうだと伝えている。
ネイルは……心臓を爆破されて死んだのだ。
「こんなこと魔法じゃないとできない……誰かがネイルに魔法をかけたんだ……心臓を爆弾に変えたんだ……」
俺は自分を落ち着かせるように深く呼吸をすると、アカネの方を向いた。
「……とりあえずネイルの死体は彼の家に運んでもらおう。ハクには……まだこのことは伝えない方がいいな……」
「そうね……一旦外に出ましょう」
現実から目を背けるように馬車の扉を開け外に出る。
しかし次の瞬間、兵士の声が街にこだました。
「敵襲!! 逃げろおぉぉ!!」
人々の悲鳴も次いで重なり、緊急事態が発生したことを告げていた。
流れるように人の波が後ろへかけていく。
「何があった!?」
近くの兵士を捕まえて聞くと、彼は震えながら言った。
「に、西門から……敵が侵入しました……あれは、ば、化け物です……」
どうやらその兵士は西門から逃げてきたらしかった。
「化け物? 魔物か!?」
「い、いえ。敵は一人……姿は人間のようですが、あ、あれは人じゃない……」
「一人だと……」
「あなたたちも早く逃げて……し、死にたくないのなら……」
そう言い残し兵士は東の方へ逃げていってしまった。
ネイルの死に突然の敵襲、続けざまに起こった予想を超える出来事に頭が痛くなってくる。
だが、迷っている暇はない。
今の俺に出来ることをしなければ。
「シエン! なにぼーっとしてるのよ!? ギルドやハクのことは私に任せて、あなたは敵を倒してきなさい!」
どうやらアカネも同じことを思っているみたいだ。
こういう時アカネの性格に助けられる。
「ああ……行ってくる!」
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