第3話 超上級魔法
「古代回復魔法・女神の神風」
魔力を集中させ、目の前の枯れ木に回復魔法を施す。
黄金の光が木を包み込み、枯れる前の姿へと元に戻していく。
生気の無かった枯れ木に命が芽生え、裸になった枝にたくさんの葉が生い茂る。
「信じられん! 既に枯れ果てた大木を一瞬で元に戻すとは! グル、お前の息子は一体何をしたのじゃ!? あれは古代魔法でも超上級クラスのものじゃろ!?」
たまたま俺の魔法の訓練の様子を見に来た長老は、動揺を隠しきれないようだった。
隣に立つ父さんは口をぽかんと空け、緑生い茂る大木を見上げていた。
レイがこの村を去って15年が経過し、俺――シエンは25歳になっていた。
精霊族は500年も生きる種族だが、その見た目は人間と瓜二つで、成年期がとても長い。
人間でいう20歳の見た目のまま、精霊族は20歳~400歳の間を生きるのだ。
400歳以降は人間と同じように見た目にも老いが現れるようになる。
「長老、俺は特に何かをしていたわけじゃないんだ。ただ本を読んでそれを実践しただけだよ。おかげで現代魔法は一つも使えないけどね」
「い、いや! そんなことよりも今、本を読んだと言ったか!? まさか古代魔法本を読んでその内容を理解しとるとでも言うのか!?」
「もちろん」
初めて古代魔法を使ったあの日から、俺は古代魔法本を読み漁っていた。
家に置いてあったのは一冊だけだったので、日夜村の図書館に籠っては読書に明け暮れていた。
最も簡単な下級の魔法から始め、それが全部出来たら中級魔法、それも出来たら上級魔法……というように順番に俺は魔法を習得していった。
その時点で俺は20歳。生涯かかっても習得できないと言われている古代魔法の基礎と応用を、俺は5年で習得してしまった計算になる。
だが、その上の超上級魔法だけはどうやっても習得することが出来なかった。
困った俺は魔力についての知識を再度深める必要があると思い、今度は魔力についての本を読み進めた。
すると、一週間ほど経ったある日、『魔法とは、自身の体内の魔力をエネルギーとし使用するものである。強力な魔法を使用するためには、多くの魔力が必要となる』との記載がある本を発見した。
次いでその本には『魔力を増加させる訓練の一つとして、限界まで魔力を消費するというものがある。限界まで消費することで体が危機を感じ、防衛のために体内の魔力量を増加させるのだ』ということも書かれていた。
その本を読んだ俺は、超上級魔法を使えないのは自身の魔力量が足りないからだと推測し、魔力を増やす訓練を行うことにした。
限界まで魔力を消費し、回復してはまた消費するという毎日を送り、気づけば5年。
俺の魔力量は桁違いに跳ね上がっていた。
――そして現在。
俺はこの10年の下地を得て、超上級魔法を使うるに値する体となったわけだ。
「――それでさ長老。図書館の古代魔法本なんだけど、超上級魔法について記載されているものが一冊しかなかったんだ。レイさんがここに帰ってくるまでに後30年くらいあるから、もっと古代魔法を使えるようにしておきたいんだけど……どこかにまだ本あったりしないかな?」
「……どこかにはあるとは思うが、今現在この村にはないぞ。ライネルに注文しておいてやろうか?」
ライネルとはこの村に本を売りに来る男のエルフである。
もう500歳近いエルフで、長老が生まれる前からこの村に本を届けているらしい。
本を売ったお金で生活をしているのだ。
「ありがとう長老! 助かるよ!」
「いやいや……グルの息子シエンよ。お前がここまでの存在になるとは思ってもみなかった。賢者レイを失望させることのないよう、魔法の鍛錬に励むのじゃぞ」
「うん!」
レイがこの村に戻るまで後35年。
彼女が出した条件はもうクリアしてしまっているが、その先の試練の全貌は謎のままである。
準備しすぎるということは決してない。
「長老……俺の息子、どうなっちまうんですかね?」
「分からぬ。だが、もしかしたら2000年振りに月の精霊と同等の者がこの村から誕生するやもしれぬ……」
目の前の大木を満足そうに見上げる俺の後ろで、長老と父さんが静かにそう言っていた。
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ちなみに長老は458歳です。