第26話 父と娘
数分後。
馬車に戻った俺たちを見て、ネイルは歓喜の涙を流した。
ハクが見つかったのが本当に嬉しかったのだろう。
「ハク様!! ご無事で本当に良かった……」
馬車に乗り込んだ俺たちは王都への帰路につく。
しかしまだ全てが終わったわけではない。
「シエン様、アカネ様。本当にありがとうございました……報酬の方はギルドを通しまたお支払い……」
「いや、報酬はいらないよ」
「え?」
「そうね」
「ええ?? な、なぜですか??」
ネイルは訳が分からないといった顔をしている。
「でも代わりに一つ頼まれてほしいんだ。ハクの父……グレゴリア公爵をギルドに呼んでほしい」
「え……いやしかしご主人様も多忙で……」
「ネイル……ハクからもお願い。パパとちゃんと話がしたいの……結婚は嫌だって……冒険者になりたいって……今言わないとハクは一生後悔するの」
「ハク様……」
ネイルは少しの間押し黙っていたが、やがて何かを理解したように頷くと、言った。
「分かりました。このネイル、責任を持ってご主人様をギルドまで連れてきます。……ハク様、立場上私は何も言えないかもしれません。一人でお父様に立ち向かえますか?」
「一人じゃない……シエンとアカネがいる」
「左様ですか……ハク様、頑張ってください。シエン様、アカネ様、ハク様をよろしくお願いします」
「ああ、任せてくれ」
馬車はギルドに到着すると、俺とアカネとハクを下ろし、街へ去っていった。
ハクはギルドの様相を見て、きらきらした目をしていた。
「ここがギルド……ハクも冒険者になれる?」
「ちゃんと話せばお父さんも分かってくれるさ。大丈夫、俺たちがついてるから」
「ありがとシエン……やっぱりシエンと結婚する……」
「ちょっと! なにシエンに抱きついてんのよ! ほら、さっさと行くわよ!」
アカネは怒ったようにそう言うと、乱暴にギルドの扉を開けた。
――中で待つこと三十分ほど。
グレゴリア公爵が執事のネイルと共にギルドに入ってきた。
ハクを見るやいなや、俺たちの座っていたテーブルに駆け寄ってくる。
「ハク!! 無事でなによりだ!! ずっと心配していたのだぞ!! さあこんな所にいないで早く家に帰ろう」
「帰らない……」
「ん? ああそうだな。まずは病院に行って……」
「そうじゃない! ハクはもう家には帰らない! ここで冒険者になるの!」
「お前何言って……」
ハクの大声に茫然とする公爵だったが、すぐさま気を取り直し俺たちをキリッと睨みつけた。
「お二人ですね、ハクを見つけてくださったのは。しかし……もしや何かよからぬことを吹き込んだのではありませぬか!?」
「俺たちは何も言っていない。ハクが自分で決めたことだ」
冷静にそう言うと、それが気に入らなかったのか公爵が俺の胸ぐらを掴んだ。
「そんなわけないだろこの無能が! ハクに何を吹き込んだ!」
「パパ! シエンは何も悪くない!」
「そんなわけないだろ!! ……シエンといったか、もう一度聞く。お前はハクになにをした?」
「だから何もしてないって言ってるだろ」
「平民の分際で生意気言ってるんじゃねぇ!!」
公爵はそう叫ぶと、俺の頬を思い切りグーで殴った。
非力な拳だったが、痛みは感じる。
「パパ……やめて!! もう言うこと全部聞く……結婚もする……だからシエンを傷つけないで……」
ハクは泣いていた。
公爵は乱暴に俺から手を離すと、ハクに向き直った。
「そうかそうか……それでいいのだぞ、ハク。俺はなお前の幸せを考えて言っているんだ……」
急に優しい口調になり笑顔になる。
一連の出来事に我慢の限界が来たのか、アカネが短剣を抜こうとした。
それを横目に見た俺は、剣を抜く手をさっと止める。
「アカネ……抑えるんだ」
「でも……」
「いいから、ハクを見ろ」
ハクは確かに涙を流していた。
しかしその目には闘志が宿っていた。
「パパは……私のためにシエンを殴ったの?」
「そうだよハク! 誰だって大切なひとが傷つけられたら悲しいだろ。あの男は俺の大事なハクを変な風にしてしまったから、あれは当然の罰なのだよ」
「そっか……じゃあ……」
ハクはそう言うと、公爵に手をかざした。
「ん? あっ分かった! ハイタッチだな! イエーイ!」
公爵がハクの伸ばした手にハイタッチをしようとした瞬間。
「拒絶……」
ドガァァァァァン!!!
突然公爵の体が吹っ飛び、近くのテーブルに激突した。
衝撃でテーブルが真っ二つに割れる。
「うう……一体なにが……」
公爵は困惑した様子で痛む体をさすっている。
「パパがさっきシエンを傷つけた時、ハクは決めた……私の大事な人を傷つける人とは一緒に暮らせないって……だからもう家には帰らない!」
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