第25話 ハクの思い
――目覚めると、俺たちは時計塔の前に倒れていた。
ダンジョンを前にしたあの違和感はもう感じない。
「アカネ……」
アカネの体をそっと揺すると、程なくして彼女は目を覚ました。
「シエン……外に出られたのね……」
「ああ。ダンジョン攻略だ」
と、その時俺たちの声に反応したのか、ハクが体を起こした。
15歳だと聞いていたが、思ったよりも小さい。まるで小学生みたいだ。
「ここ……あれ……」
「あっ! 起きたのねハクちゃん!」
「え?……知らない人……何でハクの名前知ってるの?」
アカネの顔を見てハクが動揺する。
しかし俺の顔を見ると「あっ!」と言って駆け寄ってきた。
「この人は……知ってる! すごくかっこよかった! 私のことを助けてくれた」
「あ、ありがとう」
「名前は……なに?」
「俺のか? 俺はシエンだよ」
「シエン……うん、かっこいい。好き」
ハクはそう言って顔を赤らめると、突然抱きついてきた。
「は! ちょっと!」
アカネが焦るようにハクを引きはがす。
「ハクちゃん? 何をしてるのかなー? あ、そうだ! お姉ちゃんの名前も教えてあげようか。お姉ちゃんは……」
「いい……興味ない」
「な……」
衝撃で固まるアカネを見やることもなく、ハクはまた俺に抱きついてくる。
大人しい子だと聞いていたが……全然話が違うじゃないか。
でも好かれているなら悪い気はしないが……。
「ハク、俺たちはな君のお父さんから依頼を受けて、君を探しにきたんだ」
「え?……」
ハクがばっと俺から離れた。
恐怖の目で俺を見る。
「あ、ごめん! でも大丈夫だよ、お父さんの所に連れていったりはしないからさ!」
「ちょっとシエン、あなた何言って……」
「本当に?」
アカネの言葉をハクが遮る。
「うん、本当だよ。だから教えてほしいんだ。ハクがなぜこの時計塔に逃げ込んだのかを……」
ハクは考えるように手を絡ませていた。
「逃げ込んだってなに?」
アカネが俺に小声で聞いてくる。
「あくまで俺の予想だが、ハクは――」
「分かった……シエンのこと好きだから、全部話す」
ハクはそう言って、決心した目を俺に向けた。
「ハクは……もうすぐ16歳になるから結婚しないといけない……」
「け、結婚!?」
アカネが驚きの声をあげる。
「うん。でも相手の人とは一度も会ったこともないから、だんだん怖くなってきて……誰にも言えなくて、悩んでた……。執事も使用人も皆パパの決めたことに逆らえない……だからハクはいつも一人だった」
顔も知らない相手との結婚か。とても怖くて辛いだろうな。
その気持ちを誰かに話すことも出来ずに……今まで。
「そんな時ここに来て……こっそり時計塔の中に入った。時計塔に隠れれば見つからないと思った。……でも入ったらそこで気を失っちゃって、ずっと眠てた。……でも気づいたらシエンが戦ってた……それが何か希望に見えて嬉しかった……」
なるほどな。
つまりハクは偶然ダンジョンの中に入り、ずっと気を失っていたのか。
おそらくモーモスのやつがハクを仮死状態にでもさせていたんだろう。
魔法は……ハクが無意識に使っていたのかもしれない。
「でも何か違う声もしてた気がする……男の人の声……シエン、この女の他には誰かいなかったの?」
「ハクちゃん、私一応あなたより年上なのだけど!」
「ふーん……そうなんだ」
「くっ……この……」
「アカネ」
もう少しで子供に暴言を言いそうになったアカネを何とか制止させると、俺はハクに言った。
「それはきっとハクの命をつなぎ留めてた人だと思うよ。気づいてないかもしれないが、ハクが時計塔に入ってから二日が経っているんだ。二日間何も食べてないはずのハクが今もこうして元気なのはちょっと不自然だろ?」
「うん……おかしい……お腹もすいてないし、喉も乾いてない……その人が助けてくれたんだね……」
「多分ね」
モーモスがハクをなぜ助けたのかは分からない。
しかしそのままにしていたらハクは死んでいただろう。
モーモスもそのことは分かっていたはずだ。
それにきっとモーモスはハクの事情も知っていたのだろう。
「ハク、俺たちはギルドに所属する冒険者だ。しかし、お前が家に帰りたくないならそれでいい。俺たちはクエストを棄権する。な、アカネ!」
「え? うーん……しょ、しょうがないわね。いくら生意気な子でも無理に連れていくのはね……それに結婚なんてされたらなんか悔しいし……」
「……ということだ。ハクはこれからどうしたい? 自分で決めていいんだよ」
「ハクは……」
迷うように俯く。
15歳にして結婚を約束され、彼女はその後も家に縛られ続けるのだろう。
それは当たり前のことなのかもしれないが、どこか生きづらそうだ。
「ハクも……冒険者になりたい!!」
「そうか……うん、ハクならなれるよ!」
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