第24話 もう一人のシエン
目を覚ますと、そこは石造りの正方形の部屋だった。
やはりガーネリア森林のダンジョンと同じく電気もないのに明るい。
さっと辺りを見回すと、右隅の方で壁を背に寝ている少女の姿があった。
長い白銀の髪……おそらく彼女が探していたハクだろう。
アカネは隣で倒れているようで、まだ目覚めていない。
「しかしこの部屋……窓も階段もない……どうやって攻略するんだ?」
「……んん……シエン?」
アカネは俺の声に目を覚ましたようで、上半身を起こした。
「ここ……私たちダンジョンには入れたのね」
「ああ、そのようだ。それに……」
部屋の隅で寝ているハクを指さすと、アカネは嬉しそうに言った。
「ここにいたんだね……良かった。やっと見つけられた……」
『二人とも起きたみたいだね。早速だけどダンジョンの説明をしちゃおうかな』
突然モーモスの声が聞こえ、話し始める。
『このダンジョンから出る方法は二つ。一つは死んでしまうこと、そしてもう一つはダンジョンを攻略すること。まあどうやら君たちは初めてってわけでもなさそうだから、その辺は大丈夫だよね』
「へえ、そんなことまで分かるんだな」
『うん、二人からは神の力を感じるからね。ところで誰のダンジョンを攻略したんだい?』
「メーティスって言ってたかな……」
『メーティス! 彼女のダンジョンを攻略したのかい!? やっぱり凄いね君たちは……おっといけない、話が逸れてしまった。それでこのダンジョンを攻略する条件だけど……』
モーモスの声が低くなる。
『こいつを倒せたら攻略だよ』
次の瞬間、部屋の中央の地面から黒い靄のようなものが飛び出した。
それは形を変えだんだんと人間のようになっていく。
顔がつき、色がつき、服がつき、どこかで見たような姿に変化していく。
「なんだと……!!」
最終的に黒い靄は……俺と同じ姿になっていた。
表情や服装、背丈まで一緒で、まるで自分が二人に増えたような感覚だった。
『ははっ、驚いてるね。これは言うなれば君の分身。今の君と能力値は全部一緒に作られている。さて……君にこれが攻略できるかな?』
まさか自分自身と戦う日が来るとは思ってもみなかった。
能力値が同じということは単純に考えて相討ち。
確かにそれなら俺以外の二人はダンジョンをクリアできるが、逆に俺はここで死んでしまう……。
嫌な手を使ってくる……。
『じゃあ検討を祈るよ』
その言葉を最後にモーモスの声は消えた。
一方、俺の分身はさっきから一言も話さず、立ったまま動かない。
「シエン、どうするつもり? 普通に戦っても……」
「ああ、分かってる。だがどうにかしてこいつを倒さないとダンジョンをクリアすることはできない。さて、どうす……」
『古代水魔法・海割り』
と、その時!
分身が突然呪文を唱え、水の衝撃波を飛ばしてきた。
「……っ!! 古代水魔法・海割り!」
パサァァァァァン!!!!
魔法がぶつかり合い、水飛沫が辺りに飛び散る。
「アカネ! 下がっていろ! ハクを守るんだ!」
「分かった!」
『古代炎魔法・炎帝の波熱』
ゴアァァァァァ!!!!
アカネを見やった一瞬の隙をつき、体程の大きさの炎柱を分身が放つ。
「古代光魔法・閃光!」
シュン……。
かろうじて呪文を唱え、光速移動で回避する。
目標を失った炎は壁に激突し、辺りに火の粉をまき散らした。
「くっ……このままじゃだめだ……一体どうすれば……」
頭の中で今まで習得した魔法を振り返る。
この危機を打破できる魔法はないのか?
――ん?待てよ、もしかしてあれなら……。
「古代光魔法・聖者の均衡……」
俺は呪文を唱えると、右手を分身へ、左手をアカネへ伸ばした。
するとその手の先から光の矢が飛び出し、二人を貫いた。
「アカネ、お前が魔力が無くて助かったよ」
「きゃぁぁ!!……って痛くないじゃない。一体何が起こったの……」
『ぐっ……』
アカネは矢に貫かれても平気な顔をしていたが、分身は苦しそうに片膝をついた。
「――これは、光の矢で貫いた二者の魔力量を統一する魔法。多い方が少ない方と一緒の魔力量になる。つまりアカネの魔力量に統一され……分身の魔力量はたった今0になったということだ」
俺はゆっくりと分身の正面に立つと、魔力を集中させた。
「今のお前は魔力を全て使いきったのと同じ状態。まともに動けないはずだ。……終わりにしよう――古代風魔法・無限風神!」
呪文を唱えると分身の頭上から、無数の風の衝撃波が降下してきた。
避ける力など残っているはずもなく、それはまともに当たった。
「命を刻め……」
ヒュンヒュンヒュンヒュン……ドドドォォォォォン!!!!!
風が空を斬る音の後に衝撃音がし、煙が舞った。
……それが明けると、そこにはもう俺の分身の姿はなかった。
しかしその代わりに、オレンジ色の髪の青年がそこに立っていた。
「おめでとうシエン! まさか自分の分身をこんなにあっさり倒してしまうとは、やっぱり君は凄いねえ」
「……その声、お前がモーモスだな。ダンジョンはこれでクリアでいいんだよな?」
「もちろん、でもその前にちょっといいかな……」
モーモスはそう言うと、ハクにすっと近づいていった。
まだ目覚めないハクの頬にそっと触れる。
「シエン、アカネ。君たちには申し訳ないけどダンジョンクリアの報酬……僕の能力はこの子にあげてもいいかな? 僕の力自体があまり強くないから、どっちみち誰か一人にしかあげられないんだ」
「は? 何言って……」
「アカネ」
モーモスに突っかかろうとするアカネを声で止める。
「それは別に構わないが、……モーモス、お前はもしかしてハクを守っていたんじゃないのか。二日も飲まず食わずでこんな所にいたんじゃ、ハクの状態はもっと……」
「ははっ……どうかな」
そう笑うとモーモスはハクから手を離した。
「この子には僕の能力”拒絶”を受け渡した。自分の身に降りかかる危険を払いのけることが出来る力さ。この子には自分の運命に抗ってほしいな」
「……なるほど。ありがとう、モーモス」
「あなたたち何の話してるの? 全然意味分からないんだけど!」
「ふふっ……シエンに教えてもらうといいよ。きっと正解を掴んでいるから。後は頼んだよシエン」
「……ああ、任せろ」
「ありがとう。じゃあね」
モーモスのその声と共に、俺の意識は消えた。
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