第19話 本当の気持ち
――その後特に会話はなく、2体のスライムを倒し、とうとう残り1体となった。
日が落ちかけて空がオレンジ色に染まっている。
「この5日間はとても楽しかった。シエンといられる時間がもっと続けばいいのにって思ってた……あっ……別に変な意味じゃないからね!」
「ははっ……うん。俺も楽しかったよ」
「ありがとう……だから、本当は少しだけ王都に行くのが嫌だったんだ。……王都に行けば私たちの道は違うものになっちゃうから」
……と、その時草むらからスライムが飛び出してきた。
アカネがさっと短剣を構える。
「アカネ、ここは俺が……」
「いや私にやらせて」
「でも……」
「お願い」
アカネは決意の籠った目で俺を見つめていた。
「分かった」
俺はそれ以上は何も言わず、頷いた。
アカネが短剣を握る手に力を込め、一気にスライムを切りつける。
スライムはそれを軽々と避けたが、アカネも素早く動き、二撃目を放っていた。
「クルルルルゥゥ……」
スライムの体が二つに割れ、魔石が落ちる。
それはアカネが初めて魔物を倒した瞬間だった。
「倒せた……やった……やったぁ!!!」
「うん、おめでとう! アカネ!」
アカネの嬉しそうな顔を見ていると、こっちまで笑みがこぼれる。
しかし程なくしてアカネは静かに泣き始めてしまった。
「え? だ、大丈夫か?」
突然のことに急いで駆け寄る。
「大丈夫……だから。心配しないで……」
「でも……」
「大丈夫よ……ただ、嬉しかった……だけだから……」
「そっか。分かった」
数分が経ってアカネが泣き止むと、クエストも完了したので俺たちは帰路についていた。
王都までの道のりを引き返す。
「……これでもう一人でも大丈夫かも。さっき鑑定で見たらレベル1つ上がってたし」
「そうかな? すごく心配だが……」
「大丈夫よ! ここからシエンより強くなってやるんだから! すぐに追い抜くわよ! 覚悟しなさいね!」
魔法なんて使わなくても、アカネが無理して笑っているのが分かる。
無理矢理に強がって俺に心配させまいとしているのだろう。
俺の人生を邪魔したくないと思っているのだろう。
「アカネ、俺考えたんだけどさ。やっぱりしばらくは王都にいることにするよ。2人でパーティー組んでクエストでもこなして……」
「は? 何言ってるの?」
アカネの眼が少し強張る。
「もしかして私に気を遣ってる? そういうの全然嬉しくないから。私なら一人で大丈夫だから……」
「……そうじゃないよ」
俺は精霊族で寿命は500年。
今40歳だからあと460年くらいは生きるだろう。
しかしアカネは人間で、あと100年も生きられないはずだ。
俺たちに与えられた時間は平等ではない。
「俺はただアカネと一緒にいたいんだ」
「……え?」
アカネの顔が赤らむ。
「アカネも思ったように俺もアカネと一緒にいるのが楽しいんだ。それに俺は生き急いでるわけでもないし。……ゆったりとした、だけど意味のある人生を……俺は送りたいだけなんだ」
世界を旅するのは一つの手段である。
意味のある人生を送るための手段にすぎない。
一緒にいたいと思った人と一緒にいる……それが意味がないなんてありえない。
「でも……」
「大丈夫だよ!」
アカネの肩に手をおく。
「精霊族は長生きなんだ」
「ふっ……なにそれ……」
アカネが微笑む、しかし両目からは涙がこぼれ落ちていた。
「まずは王都でクエストをたくさんこなして、お父さんと同じAランクの冒険者になろう。そしたら世界中のギルドを回ってクエストを受けながら旅をしよう。もちろんお前と一緒に」
「うん……」
「世界はとても広いから全部を見るのは不可能かもしれない。それでもいいかな?」
「うん……シエンと一緒にいられるなら……いいよ」
「……ありがとう」
――俺たちの時間は平等ではない。
だからこそ、今の気持ちを……本当の気持ちを大事にするんだ。
「シエン……」
「ん?」
「ありがとう……」
オレンジ色の光を受けたアカネの笑顔は、より一層輝いて見えた。
――この時間がいつまで続くのかは分からない。
ならば、この時を大切にしよう。
アカネと過ごすこの時間を……
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