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第1話 六原六伊死す

 六原六伊。34歳。

 俺は今、信号無視して突っ込んできた暴走トラックに轢かれました。


 体中の激しい痛みと流れ出る大量の血が、命の終了を残酷に告げていた。


 ――俺の人生、こんなあっけなく終わるのか。


 ふと思い浮かんだのは、波風のない平凡な人生。

 進学校ギリギリの高校に入って、大学はもちろん三流私立大学。その後は普通の会社に就職して、若干ブラックな業務をこなしながらも淡々と生きてきた。

 せめて彼女の一人でもいようものならそれが薔薇色に変化したのだが、そんなことあるはずもなく、味のない人生だった。


 ――もし来世というものがあるのなら、今度は何か才能がほしい。自慢できるような、波風を立てられるような何かがほしい。


 そんなことを願いながら、俺の意識は徐々に遠のいていき、やがて眠るようにストンと落ちた……。


 ****


「あなた、シエンったらまた本ばかり読んでいるのよ。しかも古代魔法の難しい本。もう10歳なんだし、そろそろ現代の魔法本を読んでほしいのだけど」


「きっと面白い絵でも書いてあるんじゃないのか。だって古代魔法の本なんて今の俺でも読めないぞ。この村でも読めるのは長老くらいじゃないか?」


 今世の両親はそう言って、俺の方に顔を向けた。


「現代魔法の本も読んだけど、さっぱりだったんだよ。まだ古代魔法の本の方が何となく分かる」


 俺の言葉に、父さんは「そんなわけないだろ」とバカにするように笑った。


「いいかシエン。古代魔法の本はな、俺たち精霊族が生涯を費やしても読めないくらい難しい本なんだぞ。それをまだ10歳のお前が読めるわけないじゃないか」


「それとねシエン。古代魔法なんて今どき誰も使ってないし、役に立たないわよ。精霊としての役割を果たすなら、風魔法とか回復魔法とかの方が必要なのよ」


「お前が頑張って読んでくれるのは嬉しいが、別に無理はしなくても大丈夫だぞ」


「そうそう。500年も生きるのだから、難しいことは後回しにしてもいいのよ」


 ――精霊族。それは寿命500年といわれる人間と瓜二つの種族。

 俺は何の因果か精霊族に転生をしていたのだ。


 六原六伊だった前世では、特に何かに没頭することもなく、無味な人生を送っていた。

 なので、500年もの寿命がある精霊族に生まれた今世は、全力で生を全うしたい。

 何も残せない人生はもう嫌だ。


「へえ。古代魔法本を読んでいるんだ。シエンはまた難しい本を読んでるね。うん、凄い」


 優しい口調で俺たちの元にやってくる一人の若い女性。

 先の尖がった大きな帽子をかぶり杖を持つその姿は、まるで魔女のようだ。


「レイさん、そんな褒めるようなことじゃないですよ。こいつも訳も分からず読んでいるだけでしょうし」


「だろうね。古代魔法の術式は難攻不落。色んな種族の天才たちが挑んだけど、解読できたのは、ニ、三人だけだったという。それにもし読めたとしても、術式の習得には何千年と時間がかかるらしい。精霊族のシエンに果たしてそれが出来るかどうか」


 この女性の名はレイ・サーヴァント。

 世界に三人しかいない賢者のうちの一人だ。

 

「シエンは他にやりたいことはないのかい?」

 

「他に? そうだなぁ……この村を出ていきたい!」


「ちょっとシエン! 何を言っているの!?」


「お前、本気で言っているのか!?」


 突然の家出宣言に、両親が慌てた様子で俺の肩を掴む。


「シエン。私は賢者となる以前からこの世界を旅してきたが、外の世界は危険がいっぱいあるよ。魔物だって普通にいる。この村は森の深部にあり結界が張られているから安全だけど、一度外に出たら君を守ってくれるものはなにもない。自分自身以外はね。……それでも行きたいかい?」


 両親が固唾をのんで俺の返答を待っていた。


 ――確かにこのままこの村で暮らすのもいいのかもしれない。

 精霊として森を修復したりしてれば、普通の生活は送れると思う。


 だが、それじゃあ前世と同じになってしまう。

 後に何も残らないような人生になってしまう。

 

「俺は行きたい。せっかく500年もの寿命を持って生まれたんだ、その人生を意味のあるものにしたい。外に出て色んな景色を見て、色んな種族と出会って、そういう人生を俺は送りたい。後悔はしたくないんだ」


「で、でも!!」


 母さんは何か言おうとしていたが、父さんがそれを止めた。


「母さん。こいつがここまで自分の意見を言ってくれたんだ。俺たちは親としてそれをしっかり考えてやる義務があるんじゃないのか」


「でもあなた……」


「大丈夫さ。これからたくさん魔法を覚えて強くなればいいんだ。だろシエン?」


 父さんが俺を見て微笑む。

 俺もそれに答えるように微笑んだ。


「はぁ……もう分かったわよ。その代わりちゃんと魔法の勉強するのよ! シエン分かった!?」


「は、はい!」


「うん。家族会議は終了したかな」


 レイは頷き、俺の頭を撫でた。


「でも外の世界は本当に危険だから、シエンには何かしらの魔法を覚えてもらわなきゃならない、死んじゃったら嫌だからね。……私の出す条件を聞いてくれるかい?」


「はい!」


「いい返事だね。じゃあとりあえず魔法を何個か覚えてもらおうかな。期限はそうだな……50年後にしよう。50年後にまた私がここに来るから、その時に覚えた魔法を見せてもらう。もしそれが合格点以上だったら君に試練を課す。それもクリアしたら晴れて自由人さ、外の世界を旅できる。二人はそれでいいかな?」


 レイが両親を見ると、二人は「とんでもない」と言うように笑った。


「レイさんが見てくれるなら文句なんて何もありませんよ」


「そうですよ! 私たちのことは気にせず厳しくしてやってください!」


「ありがとう……シエンもそれでいいかい?」


「うん!」

 

「よし。……覚える魔法は何でもいい。ただし、最低でも攻撃魔法、防御魔法、回復魔法をそれぞれ10ずつ覚えること。それが最低ラインだよ」


 ここから俺の精霊としての物語が始まるのだ……


ここまで読んでいただきありがとうございました!

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