忍び寄る悪意
外食で食べた盛りそばはおいしかった。
今日はダブルデートしたり、大介君と初めてのファーストキスをしたり、お母さんとお父さんの喧嘩の仲裁にも成功した。
本当に今日は色々な事がありすぎてヘトヘトだが、私は恋のキューピットであり恋愛相談室のサイトを運営している。
私は疲れていても、恋愛相談室に来る人の相談に目を向ける。
今日も恋愛相談室のメッセージが届いている。
中身を見てみると、いきなり恋に走って、告白したら振られてしまったりしたりしていたことにアドバイスを送る。
『いきなり告白したら、相手は困惑して避けてしまうよ。最初からいきなり告白することはよろしくないと私は思います。だから最初は手紙を書いて徐々に距離を縮める事をおすすめします』
とアドバイスをした。
『今日は眠れそうにありません、どうしたら良いのでしょうか?』
とメッセージが帰ってきて、『それは仕方がないことです。失恋は人生にとって一番の逆境なのです。だから眠れなくても、目を瞑っていればいずれ眠くなり、朝の光があなたの失恋の痛みを癒やしてくれます』
『ありがとうございます。失恋は人生に置いて一番の逆境なのですよね。分かりました。私も頑張ります。今は辛いけれど』
『その意気です。そうしていれば、またいずれ素敵な人に巡り会う事があります。私はあなたの事を応援しています』
それで一人目の恋の相談は終わった。
もう一つある。
『最近、誰かに見られているような感じがしてならないのです。何とかなりませんか。何か気持ち悪くて眠れません』
何だ?この相談は、私は恋のキューピットであり、事件性のある事には私の範疇に適していない。まあ、話は聞いてあげようと思っている。
『どんな感じなのですか?』
私がメッセージを送ると、しばらくして帰ってきた。
『何かに見られていて夜も眠れません』
『それは警察に相談した方が良いんじゃないですか?私は恋の相談には乗りますが、そう言った事件性のあることは私の範疇に適していない』
するとすぐにメッセージが帰ってきた。
『話を聞いてくれますか?』
『まあ、話だけなら聞いてあげても良いのですが?』
『以前、私は告白されたんですが、私のタイプの人ではなくて、私は振ったのですがその人ったら、何度も私の事にしつこく迫って来るんです。それでいったんひいたと思ったんですが、何かにつけ回されている様な感じがして私は怖いんです。それに警察に相談しても、事件性がないと相手にしてくれないんですよ』
奈々瀬は考える。事件性がないと警察は動いてくれないと。
『だったら探偵にでも頼んで見たらどうですか?』
『でも私にはそんなお金なんてありませんし、探偵はどこまでしてくれるのか分からないんですよ』
奈々瀬だって分からないと思う。仕方がないと思った奈々瀬は。
『じゃあ、一度私と会うのはどうでしょうか?』
『えっ解決してくれるんですか?』
『解決出来るかどうかは分かりませんが、とりあえず、そのしつこく迫ってくる男性から逃れたいんですよね』
『はい、いつも何かに見られているような感じがして気持ちが悪いんです』
『分かりました明日は学校休みだし、明日会いましょう』
そう言う事で明日、奈々瀬は恋の範疇ではない悩み事を引き受けてしまった。
彼女の名前は空井明美で、年はまだ分からないが多分高校生ぐらいの人だと思っている。とりあえず、私は白いワンピースを着てくると言っておいているので、待ち合わせ場所は彼女、笹塚に住んでいるらしく、私の最寄り駅の東大島まで着てくれると言ってたので顔を合わせることにした。
とりあえず今日は疲れているので、明日もまた仕事か、でも奈々瀬はこう言った色恋沙汰には目がない。
多分、そのストーカーの男はこの恋愛相談室にハッキングしているかもしれない。だから明日、その男性は東大島に来るかもしれない。
恋のキューピットも楽じゃない。ストーカーの撃退なら警察に任せれば良いと思うんだけれどもな。
★
次の日の日曜日、奈々瀬は白いワンピースを着て東大島までやってきた。
空井明美は藍色のワンピースを着てくると言っていたが、もう到着していた。
「空井明美さんですか?」
「もしかしてあなたが、恋愛相談室のサイトを運営している恋のキューピット?」
「そうですけれども、小学生だと思って頼りないと思っているでしょ」
少し間があって、「そんな事はないですよ。こんなかわいらしい恋のキューピットが味方なら頼もしいと思っていますよ」
奈々瀬は気づいていた。誰かに見られている気配を、どこかで誰かに監視されている。その事を空井明美に言った方が良いと思ったが、空井明美は何かに怖がっているような雰囲気だ。
空井明美二十二歳、大学四年生で、今は就活の最中だと行って、その就活も終わったと言っている。
空井明美さんは気がついていないのか?この不穏な気配に。
でも空井明美さんは怯えていた。怯えていると言うことは気がついてはいるのだろうか?
奈々瀬は感じている。空井明美と会った時に不穏な気配に。
「とりあえず、あそこのファミリーレストランでドリンクバーでも頼んで、いったん落ち着きませんか?」
「そうね」
ファミレスに入ると、先ほどまでの妙な気配は感じられなかった。
とりあえず私と明美さんはファミレスの窓際の席に座った。
「気配が感じられませんね」
「こういった所に行くと気配が消えるんですよ。でも夜私は誰かに見られているような気がしてならないんです」
「気のせいなんじゃないですか?」
「いや確かに感じるんです。私が一人暮らしで、ご飯を食べているときや、お風呂に入っているときなんか、誰かに見られている様な気がしてならないんです」
奈々瀬は思った。この人は何か精神的な病気を抱えているんじゃないかと。
でも先ほどあったときに奈々瀬も感じた。何か不穏な気配に。
何なのだろう?奈々瀬には手に負える事件ではない気がしてきた。
奈々瀬はあくまで恋のキューピットでありそう言った事件性のある事には関与はしていない。
ファミレスに入って一時間ぐらいが経過した。
これでドリンクバーだけでしのぐのは、店員の目が引っかかる。
「そろそろ、ここから出ませんか?ここにあまり居座ると店員の目がきつくなるので」
「そうね」
明美は納得して、明美は奈々瀬の分のドリンクバー代も払ってくれた。
それはさすがに悪いと思ったが、別にたいしたことではないと明美はそう言って払ってくれた。
明美と奈々瀬は外に出ると、何の気配も感じられなかった。
「さっきは何かに見られているような気配は感じられたのですが、今は何も感じられないですね」
「そうね。本当に何も感じられないわ」
「もしかしたら私達の気のせい何じゃないですか?」
「本当にそうかもしれないね。恋のキューピットさん、とりあえずLINEの交換をしませんか?」
「はい。また何かあったらLINEかそれか恋愛相談室にまたメッセージを出してください」
「じゃあ、今日はこの辺で」
「はい。また会いましょう」
そう言って空井明美と別れたのであった。
時計を見ると、午前十一時を示している。
今日の事が奈々瀬と明美の勘違いだと良いと思いながら、奈々瀬は帰路につく。
家の中に入ると、お母さんとお父さんはラブラブな感じで接していた。
そんなラブラブな両親を見て奈々瀬はホッとする。
「あら、奈々ちゃんお帰り。お昼は済んだの?」
「いや、まだだけど」
「じゃあ、焼きそばでも作ってあげようか」
「うん」
奈々瀬はお父さんと一緒にテレビを見ていた。
そのテレビの内容は集団ストーカーの事だった。
ある時は姿を消して、そして一人になったところでどこにも行き場を無くなったら、現れて淫らな行為をされてしまうという事だった。
まさか明美さん集団ストーカーの的になっているんじゃないかと思った。
いやそれは考えすぎだと奈々瀬は思った。
とりあえず、お母さんが作ってくれた焼きそばを食べて部屋に戻って、行ってパソコンを広げて恋愛相談室のサイトに目を通すと、明美さんのメッセージは来ていなかった。それに今日は日曜なので、何人かの恋愛に関するメッセージが送られてきた。
それはいつもの事で恋に成就した者や、成就しなかった人に対して質問を返してあげた。これはいつもの事だった。
それよりも、何か明美さんの事が心配だった。
まさか集団ストーカーと言う奴に巻き込まれてしまったんじゃないかと心配になった。
集団ストーカーとは先ほどテレビでやっていたが、集団で特定の人物を狙って、一人一人関係性を失わせてそして完全に一人になったら、集団ストーカーは姿を現して、その女性を・・・。
考えただけでも怖かった。明美さんまさか集団ストーカに狙われているんじゃないかと思った。
とりあえずLINEでも送ってみるかと思って明美さんにLINEを送った。
『先ほどはどうも、あれから何もありませんか?』
しばらくしてLINEは既読にならない。
何か心配になってきた。
これは恋のキューピットの範疇に適してはいないが、こうなったのも何かの縁、明美さんを分からないが集団ストーカーから、救ってあげたいと思っている。
一時間が経過して、LINEには既読にならない。
じゃあ、いっそ携帯に連絡を入れてみるのはどうだろうと思って、電話をかけたが、出なかった。
何か恐ろしく心配になってきた。
でも奈々瀬には関係のないことだが、そうは言い切れなかった。
そう言えば言っていた。彼女は彼に告られて、その告白を断ったと。それでしつこく連絡をしてきたりしていたと言っていた。
心配になった奈々瀬は恋愛相談室にメッセージを送ってきた事で、クラッキングしてみた。すると彼女の住所が分かった。
とりあえずここからかなり遠いがそこまで言ってみようと奈々瀬は思った。
明美さんに何もなければ良いけれど。