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ターゲット3人目 聴覚障害者の恋

 数日後、夜、ネットで奈々瀬自身が立ち上げている恋愛相談室のサイトに目を通しているところに、一本の電話が鳴り響いた。


「はい。もしもし」


『奈々瀬ちゃんですか?』


「その声は直己お兄ちゃん?」


『そうだけれども、あの後、亜紀さんに手紙が届いて、僕達は付き合い始めることになったよ』


 直己は嬉々とした口調で奈々瀬に伝える。


「それは良かったね。直己お兄ちゃんならきっと亜紀さんと八十パーセント付き合えるって確信していたから」


『本当にありがとう。僕は本当に世界一幸せ者だと思っているよ。さすがは恋のキューピットの奈々瀬ちゃん』


「じゃあ、直己お兄ちゃん。彼女の事を本気で幸せにしてあげるのよ。そうしなければ、少年院で臭い飯を食べて貰うんだから」


『そんな事言われなくても分かっているよ。とにかく本当にありがとう。機会があれば今度お礼がしたいんだけれども』


「直己お兄ちゃん。お礼なんて良いよ。とにかく私が無償で恋のキューピットをしているだけだから」


『そうなんだ。本当にありがとう。感謝しているよ』


「そう言われると私も冥利に尽きるよ。亜紀さんとお幸せに」


『うん。それじゃ』


 そう言って奈々瀬は電話を切ってパソコンの画面に目を落とした。


 今日も奈々瀬が立ち上げた恋愛相談室は後を絶たない。


 とにかく奈々瀬は好きになった異性に対して、いきなり言葉では伝えずに、手紙を書くことから一歩ずつ一歩ずつ進めるように伝えている。


 でも今日のサイトにはあるトヨチンと名乗る女性が、


 トヨチン『彼の事を思うと夜も眠れません。この思いを伝えるにはどうしたら良いのか分かりません』


 奈々瀬『とにかくいつも言っているでしょ。彼に手紙を出すところから始めれば良いんだって』


 トヨチン『そんな勇気私にはありません。一度私に合っていただけませんか?恋のキューピットさん』


 奈々瀬『分かりました。トヨチンはどこに住んでいるのですか?』


 トヨチン『東京に住んでいます。奈々瀬ちゃんはどこに住んでいるんですか?』


 奈々瀬『私も東京に住んでいます。トヨチンは東京のどの辺に住んでいるんですか?』


 トヨチン『東京の森下に住んでいます』


 奈々瀬『じゃあ、明日は土曜日なので明日会いませんか?』


 トヨチン『えっ!明日ですか!?』


 奈々瀬『何か都合でも悪いのですか?』


 トヨチン『分かりました。明日どこで待ち合わせします。ところで奈々瀬さんの最寄りの駅はどちらですか?』


 奈々瀬『東大島ですけれど』


 トヨチン『だったら私が東大島で待ち合わせしましょう東大島に午後一時に。お互い面識がないので何か目印みたいな物を作った方がよろしいんじゃないんですか?』


 奈々瀬『じゃあ、私が白いワンピースを着てくるので、それを目印にしましょう』


 トヨチン『白いワンピースなら私も持っています。私も白いワンピースを着て来ますので』


 奈々瀬『分かりました。明日また会いましょう。それではお休みなさい』


 トヨチン『お休みなさい』


 そう言ってパソコンの電源を切り、明日の為に目印である。白いワンピースをハンガーに掛けて置いた。


 時計を見ると、午後十一時を示している。そろそろ眠っておきたいが、とりあえず宿題を終わらせて、時計は零時を示している。そろそろ眠くなってきたので、奈々瀬は眠る。


「トヨチンってどんな人なんだろう」


 と人知れずベットの上で呟き、明日が待ち遠しくなってしまう奈々瀬であった。


 次の日になり、朝のジョギングをして朝ご飯を食べて、午後一時にトヨチンと待ち合わせをしている。


 午前中は暇なのでとりあえず本を読んでいた。読んでいる本は恋愛小説だ。


 奈々瀬も恋愛小説のような恋がしてみたいと思っている。奈々瀬は失恋の痛みを知っている。二度の失恋により、もう恋なんてこりごりだと思っていたが、失恋は人間を強くさせる事もあり、その逆も然りであり、ダメにする事を恋愛を経験して、恋愛小説を読んで学んだ事だった。


 時計を見ると正午を示していた。


 お昼にカップラーメンを食べて歯ブラシをして、シャワーを浴びて、最寄りの駅の東大島に辿り着いた。辿り付いたのは午後一時五分前で、そこには白いワンピースを着た女性が立っていた。


「あのートヨチンですか?」


 トヨチンは白いワンピースに華奢で奈々瀬の目を見て驚いている様子だった。トヨチンは高校生か大学生に見えるほどの長身で、スタイルも良く、紙も長くてそれに整った顔をしていてとてもかわいい女性であった。


 するとトヨチンは鞄からノートを取り出して、『あなたが恋のキューピットさんですか?』と書いて奈々瀬に見せる。


 奈々瀬は驚いた。まさか聴覚障害の人がトヨチンだったなんて。


 奈々瀬はペンとノートを受け取って、『そうです、私が恋のキューピット、相沢奈々瀬です』


『意外です。もしかして奈々瀬さんって小学生ですか』


『はい。あの恋のサイトを運営しているのはこの奈々瀬です』


『私が聴覚障害を負っている事に少々驚いたでしょ』


『確かに驚きましたけれども、恋の相談室サイトの運営しているのが小学生だと言う事にもトヨチンは驚いているんじゃないんですか』


『正直驚きました』


 それは驚くよね恋のキューピットがこんな幼気な小学生だなんて知ったら。


『とりあえず、ここでは何ですから、どこかでお茶でもしながら、あなたが好きな人について語り合えいませんか?』


「そうでふね、いひょにかたひあいまひょう」


『トヨチンは一緒に語り合いましょう』と言っているのか、精一杯の声を乗せて語りかけてくる。それにしてもトヨチンが聴覚障害者だったなんて。




 私とトヨチンは共にファミレスに入り、ドリンクバーを頼んだ。


『トヨチンはお名前は何て言うの?』


 トヨチンは聴覚障害なので、ノートと鉛筆で語り合う。


『豊田礼子と申します』


『じゃあ、トヨチンの事を礼子さんと呼ぶね。ところで礼子さんはどんな人に恋をしたのですか?』


『私みたいな声も耳も聞こえない壊れた女に何て、恋愛何ておこがましい事が出来るはずないじゃないですか』


『どうして、そんなに自分の事を卑下するの?礼子さんは背が高くてスタイルも良くて顔もかわいいのに、だから自分をそんな事を言わないで、とりあえず彼は何て名前でどこの人なの?』


『彼は私が通う手話教室の講師をしています。私に優しくしてくれて、でもそれだけで、何も成就していません』


『礼子さんは手話で会話をするの?』


『そうです。耳も口もろくに出来ない出来損ないです』


『だから、自分をそんなに卑下しちゃダメって言っているでしょ。とにかくその講師に手紙を宛てるのはどうでしょう?』


『そう言えばネットでもそんな事を言っていましたね。彼はとても優しいけれど、私の事を恋愛の対象にはならないと思うんですけれども』


『そんな事分からないじゃないですか?好きな人がいることは本当に素敵な事なんだから』


 私と礼子さん、私は手話が出来ないので、ノートに書いて語り合っている。


『私振られたらどうしよう。生きていけなくなってしまうほどのショックを受けてしまう』


『でも、まだ振られた訳じゃないでしょ。とにかく手紙を彼に書くことを私はおすすめします』


『手紙なんて、どうやったら彼の私の思いが伝わるのか分かりません』


『どうして、最初からそんな弱気でいるの?』


『だって私は耳も口も聴けない壊れた人間なのだから』


 さすがに自分の事をそんなふうに卑下する礼子ちゃんに私の堪忍袋の緒が切れた。


「どうして、自分を卑下するような事ばかり言うの?」


 ノートではなく今度はテーブルをバンッと叩いて礼子ちゃんに伝える。


 そうだ。礼子さんは耳が聞こえないが私が怒っている事は伝わったらしい。


 私は礼子さんが書いているノートを取り、


『とにかく彼に自分の思いを伝えてあげないとダメ。そうしないとその人誰かに撮られちゃうよ』


 すると礼子さんは顔面を蒼白させて、泣きそうな顔をしていた。


『とにかく聴覚障害が何だ。礼子さんは素敵な女性だよ。だから彼に思いを伝えに行こうよ』


『本当に私ってそんな素敵な女性に見えますか?』


『私には分かる、礼子ちゃんは可憐で心が純粋で今時には珍しい人だと思うよ』


『じゃあ、思い切って手紙を書くことにします』


『その粋よ』


 礼子ちゃんは流れそうな涙を拭って、ノートの切れ端に自分の彼に対する気持ちを綴った。

 まさか礼子さんが聴覚障害何て思っても見なかった。


 礼子さんは聴覚障害にコンプレックスを持っている。でもそんなコンプレックスなど吹き飛ばしてしまえば良いんだ。


 私は頬杖をついて向かいにいる礼子さんが真剣な瞳で彼に対するラブレターを書いている。


 そうだ。その粋だ。もしかしたら、今回の恋愛は成就しないかもしれない、でも私は恋のキューピットだ。その思いをちゃんと彼に伝えに行かなくてはいけないと思っている。


 そして礼子ちゃんは手紙を書き終えた。


『じゃあ、これを私が明日、彼に渡してきます』


『本当に彼にその思いを伝えるの?』


 そう言って私は礼子ちゃんの目をひたむきに見つめた。

 礼子ちゃんも私の目をひたむきな目で見ていたが、何故か途中で反らしてしまい、私は彼女のノートに、


『手紙を貸して』


 そうノートに書いて伝えると、彼女はノートに、


『どうしてですか?』


『どうしたもこうしたもないよ。信用出来ないよ。だからその手紙は私が渡しておきます』


『そんな事までして貰わなくても』


『とにかくその手紙を渡しなさい。私がその彼にあなたの思いを伝えに行きます』


 すると礼子さんは渋々ながら私にそのラブレターを差し出した。


『じゃあ、その手話教室ってどこなの?私が直に直接渡しに行ってあげる』


 すると礼子ちゃんは胸に手を当てている。


 きっと胸がドキドキしているのだろう。


 私も十歳の時に彼に当てた手紙を送ったときも同じ感じだった。


 とにかく礼子さんにその手話教室を案内して貰った。


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