ターゲット2人目 ストーカーの恋
カシャ、カシャとある男子高生が憧れの女の子の写真をスマホで撮っている。
「南亜紀、君は何て可憐な女性なんだ」
彼は高架下に隠れて彼女の帰り際に、隠れて写真を撮っている。
「今日も良い写真が撮れたぞ」
「本当に美しいお姉さんだね」
「そうだろ。彼女は僕の憧れの女性・・・って誰だお前は!?」
「あっ、私は相沢奈々瀬、十一歳小学五年生で自称恋のキューピットをしているのです」
「恋のキューピット?」
彼は奈々瀬の事をじっくりと見る。フリルの付いた白いワンピースに黄色い帽子にランドセルを背負った小さくても大きな胸をしている女の子、相沢奈々瀬。
「お兄さんのしている事って、これはストーカー行為と言う奴じゃないんですか?」
淡々と奈々瀬は言う。
「失礼な僕は可憐な亜紀さんの姿を見て、後から付けていって、写真を撮らせて貰っているだけだよ」
「お兄さん、お兄さん、それを俗にストーカーと言う奴になるのではないのですか?」
「僕はストーカーじゃない」
「じゃあ、お巡りさんにこの事を言っても良いですか?」
そう言って奈々瀬はスマホを取り出す。
「ちょっと、奈々瀬ちゃんと言ったね。分かった。何でもするからそれだけは勘弁してくれ」
「ところでお兄さん、名前は何て言うの?」
「藤原直己だが、それがどうしたの?」
「じゃあ直己お兄ちゃん。警察に連絡しないから、その代わりに、あの亜紀さんって人に思いを伝えればストーカーの事は黙っていてあげるよ」
「亜紀さんに!?僕が!?告白をしなきゃいけないの!?」
「だって直己お兄ちゃんはあの亜紀さんって人が好きなんでしょ」
「僕みたいなヘタレがそんな事を出来るわけないじゃないか!」
「じゃあ、お兄さん警察に行こうか?」
奈々瀬はスマホを立ち上げて、110番通報をしようとしたところ。
「分かったよ、奈々瀬ちゃん。僕があの亜紀さんに告白すれば良いんでしょ。するから黙っていてよ」
「じゃあ、その亜紀さんに直接告白をしに行きなよ。ほら、亜紀さん行っちゃうよ」
「分かった明日するから、とにかく警察だけは辞めて、そうしたら僕の進路に響いてしまうから」
「明日じゃなくて今してよ。お兄さん結構格好いいし、もしかしたら、その思いが実るかもしれないよ」
「今って心の準備が出来ていないからとりあえず明日にして欲しい」
「直己お兄さん、今告白するのか警察に行くのか、頭の良いお兄さんならどちらが良いと思う?」
奈々瀬は脅すように言う。
「分かったよ告白するから、警察には黙っていてよ」
「だったらほら、信号が青に変わっちゃうよ、早く告白しに行きなよ」
「分かったよ。告白すれば良いんでしょ」
そう言って藤原直己は彼女の方へ走って向かっていったところ、告白する勇気がないのか?すぐに奈々瀬のところに戻ってきてしまった。
「直己お兄ちゃん。タイムアップだよ。さあ警察に行こうか!」
すると藤原直己は跪いて、頭を抱えて突然大声を発した。
「終わったあああああーーー!!殺してくれええええーーー!!」
周りの通行人達は何が起こったのか直己の事を不審な目で見ていた。
直己は顔を真っ赤にして、その場で幼児でも滅多に見せないような泣き方をした。
「どうして、勇気が持てないかな?とにかく今度は手紙でその亜紀さんに思いを伝えに行きなよ。そうしなかったら、今度こそ警察に通報するから、制服からすると亜紀さんと直己お兄ちゃんは一緒の学校でしょ。その思いを伝えに行きなよ。そうすれば、ストーカーの事は警察に黙っていてあげるから」
「本当に!?」
「本当だとも、だから落ち着いて!」
「でも振られたら、僕一生立ち直れないよ。それにもうこんな事出来ないよ」
「こんな事って直己お兄ちゃんのしている事は犯罪だよ。私が警察に通報したら直己お兄ちゃんの進路に響いて、直己お兄ちゃん人生はめちゃくちゃになっちゃうよ」
「君、僕が破局することを分かっていて楽しんでいない?」
「楽しんでいないよ。それにどうして破局前提で動いているのよ。大好きな人がいるなら恥ずかしがってちゃダメ」
そう言って奈々瀬の前で跪いている直己に向かって人差し指を突きつける。
「告白なんて怖いよ!」
「でもストーカー行為をして人生がめちゃくちゃになっちゃう方がもっと怖くない」
「君は悪魔の子か!?」
「だから私は恋のキューピット何だってば、私はあなたの恋を全力で応援したいだけ。それにもし思いが伝わって亜紀さんと付き合えるようになったらどうする?」
「どうするもこうするも、彼女を一生幸せにしたいと思っているよ」
「何だ。ストーカーをしている割には、彼女の事をちゃんと慮っているのね」
「それは男として当然の行為だろ」
「だったら、今から私に付いてきなさい」
「どこに行くつもりなの?」
「公園よ。そこで彼女に当てる手紙を書くのよ。直己お兄ちゃんが」
「何で君とそんな事をしなくちゃいけないの?」
「だって私は恋のキューピットだし、それにこの事をばらされたくなかったら私の言うとおりにしなさい」
「はい。分かりました」
奈々瀬と直己はとある公園に辿り着いた。
公園では子供達が遊具で遊んでいる。
奈々瀬と直己はベンチに座り、鉛筆と紙を用意して、奈々瀬は直己に対してラブレターを書かせている。
「どうしても書かなきゃダメ」
弱気な直己はラブレターなんて一度も書いたこともないし、作文は苦手だった。
「ダメ、それよりもさあ、もし亜紀さんと付き会う事が出来たら、あんな事やこんな事まで出来ちゃうんだよ」
「あんな事やこんな事・・・」
読者の皆さん、直己は嫌らしい事を考えています。どうか直己の考えている事はモザイクをかけてお楽しみください。
「ほら、早くラブレターを書きなさい!」
「は、はい」
直己はラブレターを書き始めようとすると亜紀さんに対する言葉が見つからないのか?ペンが動いていない。
「ほらほら、早く書きなさいよ。ただ好きだと言う気持ちを伝える事に文才なんて必要ないと思うんだけどな?」
「何か、書こうとすると振られる事を意識して硬直してしまう」
「ねえねえ、直己お兄ちゃん、亜紀さんとあんな事やこんな事をする事と、少年院で臭い飯を食べるのとどちらが良いと思う?」
奈々瀬は目を細めて直己の目を見つめ、脅すように言いかけた。
「それはもちろん亜紀さんとあんな事やこんな事をする事に決まっているだろ」
「だったら、もう躊躇せずに書きなさいよ。書かないとストーカーの事を警察にばらして、少年院で臭い飯を食べて貰うんだから」
そう言って奈々瀬は直己に脅すように言う。
すると直己はもう死ぬ気でラブレターを書き始めた。
「書けば良いんだろ、書けば」
人間と言うのは背水の陣に立たされた時に未知なるパワーを発揮することを皆さんはご存じだろうか?今直己はまさにその状態で亜紀にラブレターを書いている。
「そうよ。直己お兄ちゃん。その調子よ。やれば出来るじゃない」
「亜紀さんとあんな事やこんな事、それに少年院で臭い飯は食べたくはないからね!」
公園には子供達がキャーキャーとわめきながら遊んでいる姿が目撃されるが、直己はそんな事も気にせずに、ラブレターを必死に書いている。
「よし。書けた!」
直己は自分の書いたラブレターを掲げる。
「じゃあ、直己お兄ちゃん。そのラブレターをこちらによこして」
「君によこしてどうするつもりなの?」
「私が届けに行ってあげる」
「いや自分で渡すよ」
「直己お兄ちゃんにそんな度胸があるようには見えないんだけれども」
「・・・」
確かに奈々瀬の言うとおり、いざこれを亜紀に渡すとなると、気が引けてしまう。
「直己お兄ちゃん。少年院で臭い飯を食べたくないなら私にそのラブレターを届けに行かせて」
「分かりました」
そう言って直己は渋々ながら、奈々瀬に亜紀に当てるラブレターを託した。
そして奈々瀬はその手紙を胸のポケットにしまい込んだ。
「お兄ちゃんのその制服姿は東校だよね、今から、私が東高に行って、亜紀さんに当てる手紙を渡しに行ってあげるよ」
走り出して東高に向かおうとしたところ、直己は、
「ちょっと待って、奈々瀬ちゃん。僕もう心の準備が出来ていないんだけれども、もし振られたりしたら、僕はもう一生立ち直れないかもしれないよ」
「何今更弱気な事を言っているの、それに直己お兄ちゃん、私の体のどこをさわっているの?」
直己は奈々瀬が胸にしまい込んだ手紙に手を当てている、つまり奈々瀬の胸に手を当てている。奈々瀬は目を細めて。
「直己お兄ちゃん。ここで私が大声を出したらどうなると思う」
「君は本当に恋のキューピットなの?実を言うと悪魔の子なんじゃないの?」
「そんな事を言っちゃうんだ。じゃあ、お望み通り大声をあげたら、明日の朝刊に載るよ」
「分かったよ。もう好きにすれば良いじゃないか」
「うん。好きにさせて貰うよ」
そう言って奈々瀬は直己が書いたラブレターを胸のポケットにしまい。直己が書いたラブレターを読んで見た。
なかなかの達筆だ。本当に人間死に物狂いになると、底知れぬパワーを発揮するみたいだ。内容もなかなかの物だ。これなら八十パーセントの確率でこの恋は確実に実るのじゃないかと本気で思った。
そして東高に辿り着き、下校中の女子生徒に話をかける。
「あのー南亜紀さんってご存じですか?」
「ええ、私と同じクラスの子ですけれども」
「これを藤原直己さんって人が南亜紀さんに当てた手紙です。どうかこの手紙を南亜紀さんに届けといてくれませんか?」
「はあ、別に構わないけれど、お嬢ちゃん誰?」
「うぷぷぷぷ、私は恋のキューピットでも呼んでいただければ幸いだと思います」
「何それ?うけるんだけど」
「まあ、私の名前はさておき、その手紙を明日でも良いので、南亜紀さんに届けといてください」
「ええ、分かったわ、藤原君からの手紙で南亜紀さんに届ければ・・・ってこれってもしかしてラブレター。お嬢ちゃん恋のキューピットとか言ったわよね」
「ええ、言いましたけれども」
「藤原君、亜紀の事が・・・キャーーーー」
行きずりの東神の女子生徒は自分の事のように興奮している。そんな事はさておき、
「それじゃあ、よろしくお願いしますね」
「分かったわ」
そう言って、奈々瀬は東高を後にしたのだった。