ターゲット1人目 恋に悩める男子高生
私は相沢奈々瀬十一歳、普通の女子小学生だが、恋に悩める相談を受けて私は今、走って男子高校生である大河原純君のラブレターを他校の女子高生の木之本小百合さんに届に行くところ。
事の始まりはこうだ。
私は一人で散歩している時、ベンチで俯いている男子高校生の大河原純君に出会った。
「お兄さんどうしたの?」
と聞いてみると、「いや、何でもない。ただベンチに座っているだけだよ」
その時奈々瀬は気がついたんだ。これはきっと恋のお悩み事だと。
「ねえ、お兄さん。恋にお悩みですか?」
「えっ!?何で分かるの!?」
「お兄さんそう言う顔をしている。恋愛相談なら、この相沢奈々瀬にお任せあっても良いと思うんだけどな!?」
「君みたいな子供に何が分かるって言うの?それに君に話したって何の解決にも繋がらないじゃない!」
「解決はしないけれども、思いは伝える事は出来るかもよ?」
「どうやって?」
「手紙で書けば良いんじゃない?」
「手紙って言ったって、どうやってこの思いを伝えたら良いのか分からないよ」
「とりあえず、紙と鉛筆さえあればそんな事たやすく出来ることじゃない」
「たやすくって言ったってどうやったらこの気持ちを小百合さんに届けられるか分からないよ」
「分からないじゃない。それは考えようとしていないからだよ。とにかく鞄からノートを切って、シャープペンシルで相手に伝えてあげなよ。そうすればその恋は成就するかもしれないよ」
「成就しなかったら?」
「そんな事を恐れてはダメ!とにかく相手にちゃんとその思いを伝える事が大事なんだって」
「そ、そうだよね、君、名前は?」
「相沢奈々瀬五年生です」
「とりあえず、ラブレター書いてみるよ」
すると大河原純は立ち上がり、早速家で書くつもりだが、
「書くなら今書いて」
と奈々瀬にそのベンチの上で書けと言われてしまった。
「とにかく気が変わらないうちに書くのがベストで書いたらすぐに思いを伝える。それが恋愛の必勝法よ」
大河原純は奈々瀬にそう言われて強制的に手紙を書くことを強要されてしまって、困惑した後に、大河原は思いきってその他校の女子生徒に自分の思いを手紙に託した。
大河原純はかなりの文才で次から次へと思いのたけを手紙に書き綴った。
「出来た!」
大河原純は手紙を書くことに成功したようだ。後はそれを他校の生徒である小百合さんに渡しに行くだけだ。
「その他校の生徒の名前と住所は?」
「名前は木之本小百合って言う人で、その人の住所までは分からないな?」
「じゃあ、その人の学校名は?」
「東高校の生徒なんだけど」
「なら、ここから近いじゃん。すぐに渡して来なよ」
「良くそんな簡単に言えるね。ラブレターを書いたのは良いけれど、とにかくこのラブレターを渡しに行くにはヘタレの僕じゃあ出来ないよ」
「大河原純君、君の学校は?」
「城東高校だけど!」
「お兄さん、あそこかなりの進学校じゃん。お兄さん以外と頭が良いんだね。もしかしたら、その恋成就するかもしれないよ」
「そうかな?」
嬉しそうに言う大河原純。
「とにかく今から東校に言ってその手紙を木之本小百合さんに届に行こうよ。お兄さんなら確実に彼女のハートを八十パーセントは叶えられる事が出来ると思うんだけどね」
「そんなに高確率なのかい?」
興奮している大河原純。
「ほら、純君、その手紙を木之本小百合さんに渡してあげなよ」
「無理だよ。僕みたいなヘタレがそんな勇気があると思う?」
「もうじれったいな」
そう言って、大河原純の手紙を奪い、東高に向かった奈々瀬であった。
「ちょっと奈々瀬ちゃん。待ってよ」
奈々瀬を追いかけようとするが、大河原純は奈々瀬を見失ってしまった。
そこで奈々瀬は木之本小百合に当てた手紙を読んでみた。
「へー学園祭の彼女のフルートを聞いてそれが虜になってしまったんだ・・・ってそんな事はしていられない。とにかくこの手紙をさっさと木之本小百合さんと言う人に会って、渡さなきゃ」
と言うことがあって、恋のキューピットである相沢奈々瀬は東高まで小走りで走り、この手紙を木之本小百合さんに渡しに行くのであった。
そして東高に辿り着いて、今生徒達は帰宅する生徒もいれば、部活で学校に残っている生徒達が窺える。
一人の女子生徒を見つけて奈々瀬は、
「あのー木之本小百合さんって人はこの学校にいるんですか?」
「あーあの吹奏楽部のエースの木之本小百合さん。彼女のフルートはここに響くのよね」
と女子生徒はときめいている。
もしかしたら、その木之本小百合さんはすでに彼氏が存在しているんじゃないかと危惧したが、とにかくこの思いを伝えないといけないと思って、
「あの、この手紙は大河原純って言う城東高校の人が当てた手紙です」
「手紙って誰に」
「それは木之本小百合さんに当てた手紙です。だから、この手紙を渡しに行ってくれませんか?」
「別に良いけれども、この手紙を木之本さんに渡せば良いのね」
「はい。よろしくお願いします」
これで任務完了。
後はその木之本小百合さんに大河原純君の気持ちが伝わるのかどうか見当を祈っている。
その背後から、
「ちょっと奈々瀬ちゃん」
息を切らしながらやってきた。大河原純君。
「手紙なら渡して置いたよ」
「酷いよ。もしこれで破局を迎えたら、僕もう、恋なんて出来なくなってしまうよ」
「何を弱気な事を言っているのよ。とにかく思いは伝えたのだから、明日また、今日会ったベンチの上で待っているからね」
★
夜、部屋で奈々瀬は机の上で自身が設立しているサイトに目をやった。
サイトの名前はこうだ。
『恋愛お悩み相談室』
と言う。
今日はこのサイトには一人の女子がお悩みに相談してきた。
内容はこうだ。
『彼の事を思うと夜も眠れない毎日を過ごしています。この思いを伝えるにはどうしたら良いのか?こんな気持ちもう破裂寸前で壊れそうです』
「ふむふむなるほど、恋にお悩みに来たのね。早速私がそのアドバイスをして上げようと思っている」
『だったら、その思いを手紙に託して書くのはどうだろうか?一歩ずつ、一歩ずつ、彼に対する気持ちを伝えて行けば、距離は縮まります』
「そうだよ。何事も一歩ずつが肝心だよ。恋を実らせたいならまず、知り合いからでも良いもしくは友達からでも良い、それから恋は発展していくんだよ」
人知れずそう呟き、奈々瀬は部屋で再び人知れずため息を付きながら喋った。
「恋が成就しなかった時の気持ちって凄く分かる。私もこの年までに二回経験しており、それに一回も成就したことがない。
でも恋に破れたとき、憂鬱な気持ちにはなるが、そこからまた自分自身を強くさせてくれるんだもんな。
本当に恋愛は良い物だが、奈々瀬は一度も成就したことがない」
時計を見ると、十時を示している。そろそろ眠らなくては明日に響いてしまう。だから電気を消して眠りについた。
★
けたたましく目覚まし時計の音が鳴り、奈々瀬は目覚める。時計は午前六時を示していた。
いつもの朝のランニングに出かけて帰ってシャワーを浴びるのが彼女の朝の楽しみでもあった。
帰ってくると、お母さんは朝ご飯の準備をしていて、リビングにはお父さんが新聞を読んでいる。
「お母さん。お父さん。おはよう」
「「おはよう」」
と二人は口を揃えて挨拶をするのだった。
今日はケンカしていなかったな両親は。
時計は七時丁度を示している。
「さあ、奈々ちゃん。朝ご飯を食べたら学校に行くんでしょ」
「もちろんだよ」
奈々瀬にとって学校と言う所ほど楽しいところはないと思っている。
ちなみに彼女が恋のキューピットをしていることは誰にも秘密である。お母さんにもお父さんにも学校のみんなもそれを知らない。
奈々瀬は朝ご飯を食べて、学校に向かうのだった。
奈々瀬は歩きながら考えた。
昨日の大河原君に何か朗報があれば良いと思っている。
だって彼女は恋のキューピットなのだから。
学校に到着すると下駄箱の前で一番の友達の同級生の榊マリに出会った。
「マリちゃんおはよう」
「うん、奈々ちゃんもおはよう」
マリはボブカットの短い髪に、つぶらな目に、すらっと長い身長を誇る女の子だった。
「いつもマリちゃんはかわいいね」
「そんな事ないよ。奈々ちゃんだってかわいいじゃない」
奈々瀬はロングヘヤーにつぶらな瞳に背はやたらと小さいが、やたらと胸が大きい。よく男子にデカ乳女とからかわれたりしている。
奈々瀬は恋を二回程失恋した経験があり、その事について思うと、男子は奈々瀬の事が好きだと言うことの証でもあると分かっている。
どうしてもかわいい女の子を見つけるといじめたくなる男の子の悪い癖である。
奈々瀬は思っていた。そんなに私の事が好きならば、正面を切ってラブレターからでも良いから、その思いを私に伝えて来れば良いのにって。もちろん、答えはノーだけれども、失恋したことに寄って、人は強くもなれるし、逆にダメになるパターンもあることを彼女は知っている。
でも失恋して、涙が止まらない時は、いつも奈々瀬は涙を拭いて立ち上がるのだ。そうして闇雲に頑張り、今では、クラスの委員長まで登り詰めたのだ。
そして学校が終わって、マリに一緒に帰ろうと言われたが、「ちょっと今日は急用があって出来ないんだ」と言って、昨日、奈々瀬と偶然であった。大河原君のところに行かなくてはならない。
公園に行くと、大河原君は俯いている。
その様子を見て、もしかしたらふられたんじゃないかと思った。
でも奈々瀬はそのふられた時の対処法を知っているのでそれを大河原君に伝えてあげるつもりで行ったのだが、奈々瀬はそんな俯いた大河原君に声をかけた。
「大河原君。大丈夫」
すると大河原君はその瞳をキラキラと輝かせて、奈々瀬に興奮しながら言った。
「やったよ、奈々瀬ちゃん。木之本さんに昨日携帯に電話があって、とりあえずお友達からって言われたよ」
「そう。本当に君のおかげだよ、奈々瀬ちゃん。君はまさしく恋のキューピットだ」
そう相沢奈々瀬は大河原君の言うとおり、恋のキューピットなのだ。