1ー6
わたちは最年少で神殿で働く人達に仲間入りした。
他国のお話を聞いてる時に、あれ?そういえばと、自分が何処の国で産まれたのか、誰が親なのか知らなかった!
モコさんに1度聞いた事があるが、いつもの慈愛の微笑みでは無く、ちょっと困ったように小さく微笑み、わかりかねます。と言われたのだ。
困らせたかった訳じゃないし、知らなくても特に問題ないので、まぁいっかーとこの話はスルッと終わった。
神殿でお仕事してる人にはそれぞれ役割担当がある。薬草、作物を育てる人。
薬を作り、色々研究する人、運ぶ人、祝福を与えたり、他国の要請に応じて医療を施す人、それらを支え、円滑に回るようにしてくれる人。
自分は将来どの役割を担うのかと聞いたけど、それらとは違うのですよ。と言われた。え?違うの?じゃあ試食係かな?わたちってば知る人ぞ知る黄金の舌を持っているからね!任せて!期待して!と意気込んだ。
あれから自分では起きられないが、モコさんが見守る中お着替えは1人でしている。
瞑想後のお散歩時間でユーくんと出会う事があればお姉様ですよーと洗脳している。
相変わらず瞑想時間を使ってのグルメリサーチは続いている。
字が書けるようになってからはガイドブックを作り、拙い字で場所と店名だけを書き、後は忘れないよう絵を描いている。
いずれこの本に食べた感想などを書きあげ、新たに出会った食べ物なんかも載せて一冊の本にまとめ上げるのだ!待ってて!まだ見ぬグルメ達!必ず見つけてあげる!
妄想も膨らむ。鼻の穴も膨らむ。
偶に頭に浮かぶ見たことない料理なんかの絵も描いて、わたち料理の才能あるかも!なんておもいあがったりもしてる。
いや、だって完成図が見えるだけで作る工程わかんないじゃん。とは突っ込まないであげて。夢をみるお年頃。
そんなこんなでまったりした日々を過ごしていたある日、大好きなお布団が呼んでるーとベッドにダイブで乗り込みモコさんにおやすみの挨拶をして、さー寝ーましょっと目を瞑って眠りの世界へ落ちかける時体がふぁさぁってしたものに包まれた。
そりゃ、パチリと目が開くわな。
まず毛が見えた。
ワオ!金キラの毛だ。立派ですねー。
枕元の見上げた先には神々しいお顔。耳と口元を見てキツネさんかぁと判断。
見下ろしている目は濃厚な艶のある蜂蜜だ。見守ってくれるように、寄り添うようにしてくれているし、何か頭の先から爪先迄、なんなら心迄優しい何かに包み込んでくれてるみたいで安心する。
体がホヤホヤするー
きっとお母さんのお腹の中ってこんな感じなんだろーなー
気持ちぃー
「お休みー」
月明かりのもと、そのキツネさんは幼な子の体を包み込み、体全体を淡く光らせながらキラキラした何かをゆっくりと流し込み始め、そのまま寝顔を見、添い寝した。
「あや?」
やはり目の前に壁がある。物語りのお姫様のように仰向けでお腹の上で手を組んでなんて目覚められない。うつ伏せの日もあれば枕に足が乗っかっている日も、被っていた布団を離さないぞとばかりに抱き込んでいる日ある。
目覚めたルゥに気付いたモコさんが
「おはようございますルゥ様。どうかされましたか?」
部屋のカーテンはとっくに開けられて朝日が差し込んでいる。今日は気温が上がりそうと思う程薄い白のカーテンを揺らしながら部屋に運ばれる風は暖かかった。二度寝したら気持ちいいだろーなーと思いながらモコさんに挨拶を返した。
「おはようごじゃいましゅモコしゃん。
にゃんか、ええと、きちゅねしゃんとねたゆめをみましゅた。」
「きちゅねさん?」
「あい、毛のふしゃふしゃしゅた、こがねいろの
このくらいおおちいきちゅねしゃんでしゅ」
両手いっぱいに広げて大きさを教えてあげる。
すると、
「まあ、まあ、やっとお会いになられたのですね!」
手を胸の前で合わせて興奮気味に目を輝かせる。
寝起きには眩し過ぎる。
「あい、いっちょにねまちた。モコしゃんもしってるでしゅか?ゆめじゃなかったでしゅか?」
首を傾げながら聞くと、実在するし、ミュラージェットと呼ばれ、聖霊樹と共にある幻獣だと教えてくれた。ミュラージェットなら絵本に出てきてた。
「あのえほんの?」
「そうですよ。良く覚えておられましたね」
モコさんは褒めて伸ばす人なのだ!
ほけっとしてるとおしゃべりしながらも手は止まらない。最近は自分で着替えているが、無意識のように着替えさせ、顔をふき、髪をとかしながらも口も止まらない。
「ミュラージェット様は普段大気に溶け、聖霊樹からの聖気やナノを潤滑に送り出すためのお仕事をされています。
穫り入れ時のメルの様な豊かな黄金色のお体と目をお持ちです。
大気に溶けている為滅多にお姿を表さないし、運良くお姿を拝見出来ても透けて見える為、色をはっきりと認識する事すら出来ません。
お仕事がお仕事なので仕方ないのですが、やはり精霊島に住む者として一度ははっきりとしたお姿を拝見したい!」
おっと、話をしているうちに興奮が再熱されたぞ。
血圧が上がってしまう!
そういえば容姿の話をしていなかったな。誰に?
モコさんはモンシュリーって名前だけど、小さい頃から凄い癖っ毛で髪の毛がモコモコしてたんだって。それでモコって呼ばれるようになったらしい。
元々は茶色の髪だったが白髪も混じり、くるくるしてておっとりした柔らかな性格そのものの色合いだ。
短い髪型に憧れて若い頃顎のライン位まで切ったことがあったらしいが収まりきらない程広がったらしく、モコモコなんて可愛いものではなかったそうだ。
子供の細い毛だからモコモコで済んでたみたいで、大人の太い髪では正にボンって爆発。
短くて結べないし、結べる長さになるまで布を巻いて抑え込んでたんだって。
最初帽子の中に髪を押し込んで被ったらしいが、徐々に帽子がズレ上がり、最後はポンっと音が聞こえそうな程の勢いで飛んでいったんだって!
やだ、超ウケる!見て見たかった!
わたちがモコさんの毛くるくるで可愛いって言った時教えてくれた。
歳をとって前髪のくるくるはそのままだけど、後ろの毛は少し癖が落ち着いてきたらしい。また短い髪型に挑戦しようかしらってお茶目に言ってた。
深い緑の目に笑い皺もあって余計に優しそうに見える。大分お年を召されているようだが流石に年齢は聞けない。
でも、シワはあるが、姿勢もいいし、あまり年齢を感じさせない。品の良いお婆様ってかんじだ。
次にわたち。本名はゼロ ルゥティシア。
他の人には名前の前に何もないのに、何でわたちには?
名前の前につくゼロは始まりと終わりって意味があるらしい。髪の毛は薄いプラチナゴールドのホワホワした癖っ毛。陽に当たると金色に輝やいて見える時もあるんだって。初めて聞いた時うわ、マジでって思った!え、禿げて見えるって事?え?まだ2歳ですけれど?
目は髪より少し金が濃いグリーンゴールド。
ようするに銀の髪に金の目だ。
いや金さん○さんかよ?誰か知らんけども。
顔はわからん。ふつーなのだろー。聖女達には可愛い可愛いって言われるけど子供は皆んな可愛いのだ。それに、聖女達も皆んな綺麗だし、見つめられると照れちゃう。
綺麗なお姉さんは好きですか?はい!大好物です!
薬師や騎士の人達とは顔をはっきり見れるほど身近で接した事無いけど、離れた所から見る限り皆素敵だ。逆に醜い人を見た事ない。
偶にお話するお爺様も、おじ様も素敵だ。このお爺様達は週一でおやつを食べながらお話する茶飲み友達だ。因みにモコさんの旦那様も、この頭脳集団の方だったりする。頭使うから甘いのが欲しくなるのだろう。
うんうん、わかるよ。大人にも息抜きは必要だよね。
朝晩髪を整えてもらう時鏡の前にいるが、足をプラプラ、鏡越しにモコさん見ながらお話している。
自分の顔はいつでも見れるし、見るなら大好きなモコさんを見るのだ!お話するなら鏡越しにでも人の目を見ながらじゃないとね。
肌も合わせて全体的に白い。そのくせ唇だけが赤いから余計にオバケみたい。夜一人の時に絶対会いたくないな。
と、ゆーことでふつー顔の金さん○さんだ。
その日の昼食前のお話は、またミュラージェットの絵本を読んでもらって、100年に1度程、大陸の何処かに姿を現わす時があり、多分聖霊樹から流れ出た聖力や、霊力の調整を行なっているのだろう、と考えられている。
その他にも、国から薬が回りきらないスラムの人に魔法をかけてくれたとか、色々な話を聞いた。
いい子だ!
その日もまた寝ようと目を閉じると、ふぁさぁってした。
「ミュラージェットしゃんていうんだね?
わたちはルゥだよ。きょうもいっちょにねてくれりゅの?」
返事は無かったが見下ろす目は優しく、何となくそうだよって言ってくれてる気がして安心して身を任せて目を瞑る。
言葉が通じなくてもあなたが優しいのが温もりから伝わるよ。
ほわっほわの尻尾でトントンしてくれる。
それにこんな極上もふもふをもつやつに悪い奴なんかいないよ。
知ってるよ。
「おやしゅみー」
そして、この日から当たり前の様に包まれながら毎晩一緒に寝ることになった。
夜はモコさんが部屋を出て行ってから姿を現わし、朝は起こしに部屋に入ってくる前には居なくなってるらしく、毎日落胆している。
一緒に寝る様になってから魔力の質が変わった様に感じる。瞑想時、いつも捏ねくり回してる魔力が白銀に輝き、練ると黄金色に変わる。捏ねるのも今ではこねこね、ぎゅっぎゅっくらいで済んでいる。心眼が届く距離が伸び、より鮮明に見えるようになった。
メル 麦のようなもの