表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
WAO!  作者: 神楽
38/38

3ー7 (派遣聖女視点)

今日はエルシア帝国の第9都市に来ている。流行病の初期段階で、二週間前から急遽こちらに派遣変更されたの。今回の流行病は首が赤く腫れて熱を出すから、割とわかりやすく、いつも初期の内に対応出来るから助かる。症状がわかりにくく、広まった後の流行病だと、二月以上対応に掛り切りになるなんて事もざらにあるわ。


この国の野菜料理は豊富で、ヘルシーなのにとっても美味しいから大好き。街の人達も茶色系の髪が多く、働き者で、朗らかで、懐が広く、お父ちゃん、あんちゃんって感じの人が多い。


女性もそうだったら良かったのに。

と思いながら目の前の商家の令嬢に対応する。


「女性なのに毎日働かされて、聖女様達にはいつもご同情させられますわ。しかも今回は沢山の病人方の治療でしょう?うちの職員にも症状が出た者がいたとか?そんな人に近寄りたくもないし、別荘に逃げようと思っておりましたが、こんなに早く聖女様を派遣してくださった領主様は流石としか言えないですわ。とても素敵なご容姿ですのに、お仕事もお出来になるなんて、私以上に釣り合う女性なんていらっしゃらないと思いません?」


周辺の町や、村の治療も終わり、島に帰る前にお土産買っていこうと立ち寄ったお店で目の前の女性に捕まってしまったわ。貴族女性に比べれば、まだ可愛げがあるが、平民の裕福な女性から権力のある見目の良い男性を紹介してって言われるのは毎回の事で、疲れるが、この階層の女性達は貴族と平民、両方の情報を持っているので扱いに間違えなければ、なんでもペラペラと自慢気に話してくれるの。こんな噂があるとか、こんな物が今流行ってるとか、誰と誰が付き合ってるとか、別れたとか。愛想良く聞き手に回れば、聞いてもいない事を良く喋る事喋る事。

彼女達が扱いやすい大切な情報源なのは聖女達の常識だわ。

言われた通り、お仕事しまくりなので、なんでも喋ってくれる商家の娘達のお茶には付き合う価値があるの。所々イラッとくる表現があるけど、慣れたもの。まだ可愛い言い回しなので流せるけど、貴族女性の殆どは働くのが敵と思っているのか、聖女様と言いながら、働きながら良い男達と縁を持ちやがって狡いのよっていう態度と言葉を、貴族特有の表現で食らわせてくる。狡いって思うなら関心を持たれるようにすればいいのにって思うけど、自分で働くのは負けらしく、勝手に敵視してくるので治療以外では関わりたくない人種トップだわ。

そんな事を思いながらこのエルザちゃんの話に適当に相槌をうち、新商品だという野菜を使ったクッキーを頂く。あら、優しい甘さでとっても美味しい!今回のお土産これにしましょう!


「でも、領主様には婚約者のスカーレット様がいらっしゃるでしょう?ご自身以外に時間を割く領主様の邪魔ばかりされているそうですわ。大変なお仕事をされているご苦労にも気付かず、我儘ばかりなのですって。あの方にお忙しい領主様を癒せるとは思えませんの。」


たしかにスカーレット様は典型的な貴族女性だ。

プライドが山のように高く、自分中心でないと許せず、周りを巻き込む。今回の派遣に際し、そこは気がきくご領主様。お屋敷に入り浸る婚約者様を流行病があるからと、早々にご実家に帰らせてくれたから顔を合わせずに済んだわ。

仕事の都合上、人気のある殿方と接する機会が多いけど、それで一々紹介してって都合良く恋の仲介役に使われるのはたまったものじゃないわ。

そんな暇があったら自分の恋人探しの時間に使うわよ。

ここの領主様はモコ様のお孫様とご学友で、お孫様の影響で聖女に対して憧れが強い。尊敬していますっていうあの態度では、聖女全てがスカーレット様に敵視されるのは仕方ないわね。

領主様も、ご自身の態度がスカーレット様に益々執着心を生ませているのを御理解なさっているのかしら?まあ、人の恋は巻き込まれなければ面白いけれど。また何か仕出かしてくれたら土産話が増えるわ。


「私も貴族の方から縁談をいただくのですが、私の才能はやはり領主様の隣でこそ、より活かせると思うのです。スカーレット様では足を引っ張るだけで、領主様がお可哀想ですわ。

ここだけの話、父の取引先の娘が、商才を認められて第7都市の領主様の補佐のお一人と婚約しましたの。私でしたらその方よりも美しいし、流行にも敏感だわ。今日お出ししたクッキーも、私が発案したものですの。砂糖を使わず甘味のある野菜で代用したのですわ。

果物で代用したものは既にありますが、カロリーの事を考えると、砂糖とそう変わりませんから。

上品な甘さが出せていると思いますが、物足りない時は、一枚か二枚は別売りのディップクリームをつけて召し上がっていただくの。勿論クリームもカロリーは控えめにしていますわ。

ロザリー様の様にカロリー摂りすぎると、毎月の様にドレスをサイズアップしなくてはなりませんからね。お客様としては大歓迎ですが、あの様にはなりたくないという見本ですわね。」


ですから、領主様に私の才能をお伝え頂けると嬉しいですわ。と言って、別売りのディップクリームを全種類試食に出され、一つ一つ丁寧にアピールポイントを紹介された結果、全種類購入させて頂いた。



護衛の神殿騎士に、お時間です。とこれ以上詰め寄られる前に切り上げる良いタイミングで声をかけて貰えた。流石わかってる。

有益な情報も貰え、素敵なお土産も購入でき、また寄らせて頂きます。領主様にお伝えしておきますねと聖女スマイルで見送りに出てきた人達にお別れをし、店を後にした。


「ありがとう!今回もナイスタイミングよ!」


「そうでしょう。俺ってば女心知り尽くしてますからね、任せて下さい。」


「それにしても、沢山購入しましたね?チョロすぎじゃないですか?いくらカロリー控えめでも、そんなに何種類もクリーム食べたら同じでしょう?」


「わかってるわ。でも、あの子本当に商才あるのよ!女性はカロリーの事言われると弱いの!

それに、これはお土産よ?みんなでワイワイ言いながら食べ比べするのだからいいのよ。」


「確かに、話のもっていき方がこれぞ商人って感じで購買威力を掻き立てますね。」


「領主様の隣にいるより、今の方がご自身に似合ってると思うんですがね?」


「私もあの子にはこのまま商人でいてもらいたいわ。これからも色んなもの売り出してもらいたい!」


「カロリーを気にする女性向きですね。店頭にお酒を使ったケーキがあったので男性様に購入しておきました。後でクッキーと一緒に領主館に届くよう手配したので、領主館の方にもお渡し下さい。」


「あら、ありがとう!つい満足したお土産を購入出来て、忘れていたわ!私もカロリーさえ気にしなければそちらのが好きなのに。男性はお肉が付きにくくていいわよね。」


「俺は肉付きのいい女性のが好きですけどね?」


「お前、それは言っちゃダメなやつだぞ?異性目線と、同性目線は違うんだ。女性同士は太ったわねって勝ち誇り、痩せたわねって目を釣り上げるんだ。同性のが目が厳しいんだよ。男は太っても可愛いよって安易に言っちゃいけない言葉なんだぞ?」


「本当にあなた女性をわかってるわね!その通りよ!特に独身女性ね。既婚者で愛し合ってるご夫婦なら何を他人に言われても余裕でしょうけど、ハンター女性は大物を釣り上げるまで最高の状態をキープしなきゃいけないから、簡単に太っても可愛いよって言われたら普段の努力をバカにされたと怒るか、間に受けてバカを見るかだわ。」


「ええ!俺にはわからない感覚ですね。ギスギス痩せた女性より膨よかな女性のが温かみがあって男は好きなはずですよ?」


「だから、そこが異性と同性目線の違いだっての。ライバルだから女性同士のが厳しい目線なんだよ。体型は勿論、肌や髪、アクセサリーに服装。あの子には勝ったけど、この子には負けたわって。見た目は身分や言葉を交わす前の前哨戦だからな。男でいったら剣を交わす前の筋肉の付き方か?」


「なるほど、あなた言い方うまいわね?女性からしたら筋肉の付き方なんて、よくわからないけど、同性同士なら厳しいんでしょう?私の好みはゴリゴリの筋肉マッチョより、細マッチョのが好きだわ。」


「何言ってるんですか!?筋肉こそ至宝ですよ!立っているだけで従わせる存在感!威圧感!あれぞ漢って感じで憧れます!」


「存在感あり過ぎるのも困りそうだけど?」


「同性と異性では目線が違うよなって話なんだから、平行線ですよ?」


「それもそうね。嗚呼、でもいいわよね恋してるって。私達なんて、いくら出会いがあってもすぐまたお別れだもの難しいわぁ。」


「恋も大事ですけどね。それより大事な自分達にしか出来ない仕事があります。」


「わかってるわ。私だって誇りをもってやってるもの。もっと魔力増やして色々出来るようになりたいし、砦の聖女の様に役に立ちたいわ。

これからどうなるのかわからないけど、力を付けて備えておきたいと思うもの。」


「そうですね。魔物も年々増えてきています。こうして内陸にいると忘れがちになりますが、無視できないほど増え続けている。」


「やる事やりながら魔力を増やすのも忘れずに備えておきましょう。」


「また先程のお店の新商品を買いに行けるように。」


「ふふ、そうね。後、スカーレット様に絡めとられた領主様を見にもね?」



そんないつもと変わらない派遣期間を終え、島に帰り、また次の派遣先に仕事をしに行く。

それぞれが聖霊島を背負って、聖女や神殿騎士の仮面を被り、自分に出来る事をして日々を過ごす。そんな何気無い日常も、ルゥちゃん様が来られた時から少しづつ変化が生まれ、力の使い方を教わり再生魔法まで出来るようになった。

これから人類の生存をかけた戦いが起こる。

文字通りの意味での人類が勝つか、魔物が勝つかの争いだわ。

私達も砦の聖女の補佐にあたるため国々を巡る事は無くなった。

実りの減った山を背景に、魔道具や神殿騎士によって次から次へと運ばれてくる騎士達の治療に当たる日々。

元々いた砦の聖女達は聖結界を重点的に掛けて回っている。結界杭と発見した共鳴石でより広範囲にかけられるようになったそうだ。

城塞都市の協力もあって、皆一丸となって戦っているわ。

だから安心してねルゥちゃん様。

貴方が目覚められるその日まで、必ず守り切ってみせますわ。


何気無い日常。

朝のおはようから、聖女仲間や食堂のおば様達との遠慮のない愚痴の言い合い。

気を許せる担当神殿騎士達との連携。

話は通じないけど、薬草を愛してやまない変人天才薬師達には、これからも良いものを作ってもらいたい。

麦わら帽子の似合う、優しい目をした朗らかな神官達にも美味しい果物を育ててもらうの。

身分ある殿方達との完璧聖女仮面を被ったままのトキメク駆け引き。

街の人々への聖女スマイル。なんならマウント貴族女性や、ハンター女性とのやりとりすら守りたい。

こう思ってるのは私一人じゃないもの。魔物が数の暴力でくるなら、こちらは思いの暴力よ。

何でもないない日々を返してもらうわ。

素敵な恋人との甘い時間を過ごしてみたいもの!

まだ成人前のルゥちゃん様にさえ文通相手がいるのに、ルゥちゃん様のウン倍は生きてる私にこそ必要なレンアイ!


絶対乗り切って素敵な旦那様ゲットするわよ!










評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ