2ー17
「深淵の森ですか?」
呼ばれたのは、大会議室ではなく、小さな頃、フォース王国を訪れた時に謁見したような部屋だ。
王様も忙しい中、2.3ヶ月に一度、集まった王達と近況報告をする為お茶をしていた。
国と砦を結ぶ、通信魔道具のお陰で、以前とは違い、頻繁に連絡を取り合えていたが、更に今回、血の登録が出来る様になったお陰で、個人でやり取り出来る様になったと喜ばれた。
いえ?私、口にしただけで丸投げしましたよ?
お礼なら、是非お爺様達と開発部の方に!
出来上がった通信魔道具は、ピアスタイプで、水晶で出来ている。本人登録をすると、好きな色に変わると聞いたので、以前していたピアスに似た色にした。
魔力を判別するだけの、小さな陣で済んだので、ピアスタイプにしたそうだ。
既に身に付けていた王様達は、透明感のあるシルバーで、皆んなダイヤモンドに似せて作ったみたいだ。この場に一緒に来ていたモコさんも、エル君もダイヤモンド色にしていた。
何だ?流行りというやつか?
ダイヤモンドと言えば、以前、誕生日祝いに王様達からアクセサリーを頂いた事がある。
可愛らしいデザインのダイヤのネックレスとブレスレットと指輪だったけど、微妙だった。
モコさんには、部屋に戻ってから正直に、首も指も閉められているみたいに感じるし、手首も動く度にぶらぶらするから好きじゃない事を伝えた。
それからの誕生日プレゼントは、王宮のスイーツを、神殿の皆んなと食べれるように変えてもらったのだ。
因みに化粧も好きではない。
塗られると肌の息が出来ないみたいに感じて、ぬぬぬと苦しくなる。
でも、ピアスは小さい頃からしてたから、逆につけていないと落ち着かない。
外したピアスの代わりに、似たデザインの物を作らせると言われたけど、また高級な物になりそうなので全力で断った。
そして、約3年ぶりに身に付けた、水晶でできたピアスは、女神からもらったピアスと同じデザインだった。
きっと必要な事とはいえ、取り上げた形になったから気にしていたのだろう。
それがわかったから、色も同じにした。
現在、エル君が身につけているシンプルな指輪は、私がしていたピアスだ。
魔力の相性がいい人が手にすると、シルバーの指輪に姿を変えた、摩訶不思議アクセサリーだ。
そんな感じで、新たなピアスを受け取り、その場にいる人達と魔力登録をし合った。
そこで、個々での通信も可能になった事だから、王様達も砦にいる騎士達と、魔力交換をしに行く事になり、ついでだから私も。
更に、ついでのついでだから、森を見てもらおうとなったらしい。
「将軍達は秋を前に、砦を離れる訳にはいかないから、王宮の者が出向く事になったんだよ。
直接魔力交換をしなければならないから、一度で済むよう、今回は大所帯で行くんだ。
それと、森の浅いところは騎士でも入った事があるが、心眼のような魔法を使えるようになった騎士達が、森の奥を見たところ、瘴気溜まりに似た気配を、あちこちから感じると言うんだ。
ルゥちゃんの心眼みたいには、いかないからね。感じるだけで、はっきりは見えない。
どうかな?一度、森を見てもらえないだろうか?」
実は私も気になっていた事だ。
「瘴気溜まりが何なのか、私が見て、わかるものかどうか、やってみないとわからないけど、それでもいいですか?」
魔力溜まりはエル君からも聞いていた。
魔法訓練の日以外は、砦に行っていたから、早いうちから聞かされていたのだ。
レイ君が言っていた、秋に実りの季節を迎える為、多くの聖気が流れ、それを森が奪って、魔物が増える。
実際、魔物が劇的に増えるようになってから、実りが年々、少なくなってきているそうだ。
何故、森はそんなにも聖気を欲しがり、魔物を生むのか不思議だった。
何か、何か引っかかっているのに、その何かの答えが出せず、何とも気持ち悪い思いをした。
ので、とりあえず考える事を放棄した。
だって、モヤモヤして気持ちいいものじゃないもん。
でも、森を見たら何か掴めるかもしれない。
「構わないよ。今は、何でも可能性が少しでもあれば、試していかなければならないんだ。
見てもらえるかい?」
「わかりました。私も気になっている事があったので一緒に行きます。」
それから一度島に戻り、2日後から泊りがけで全ての砦を廻る予定で、モコさんと準備をした。
まず最初に訪れたのはドルテミア帝国の砦だった。
今回、王宮の上層部の全員が来たので、迅速な魔力交換をする為に、スケジュールが密に組まれているそうだ。
はい、交換して、はい、次の人、次はこの人と。
と、誰と交換しているのかもわからず、流れに沿って交換しまくった。
正直、誰から連絡あっても顔と名前が一致しない自信がある。
その事を後で言うと、ルゥに直接連絡入れる時は、なるべく役職無しのニックネームで言わせる。その方が覚えやすいだろう?
と、出来の悪い子扱いされたが、とても助かった。
どこどこ国の、何番砦にいる、誰々さんとだけ覚えればいいって。
本来なら、どこどこ国、誰々将軍、第何番騎士団、誰々団長配下、何番隊隊長、誰々となるらしい。
何番どれだけあるの?と思ったけど、受け持つ砦の位置をわかりやすくする為と、シフトをわかりやすくする為に必要なんだって。
護衛にあたってくれるエル君が、何でも知ってるから、わからなかったら聞けと言われた。
王宮側は、王様と宰相様だけで良くてほっとした。大臣達も、それぞれの補佐も沢山いたが、そちらは落ち着いてからでいいと。
大勢の人と交換しながら、これ、戦闘で壊れたら、またこの人数と交換会するの?
予備作っておいた方がいいんじゃないの?
と、思いついた事をボソっと呟いた声に、周りの空気を凍らせた。
そうだ!壊れた場合どうするのだ!
誰とも連絡つかなくなるぞ!
と、慌しくなったが、一斉に視線を向けられ、コメントを求められた。
え?私が答えるの?
お爺様達に視線を向けたが、逸らされので、仕方なく、ううむと考える。
「そこは、お爺様達に、反転して魔力を移せるような陣を開発してもらいましょう。」
「ルゥちゃん、どう言う事じゃ?」
「だって、水晶自体に呼び合う力があるんだよ?
前から思ってたんだけど、闇魔法で、書類とか移せるなら、魔法も移せるんじゃないかなって。
後、文章だけじゃなく、景色や、人物なんかも写せないかな?」
「なるほど!闇魔法か!移すに写すか、これはやってみる価値がありそうじゃ!」
「陣を刻むのとは違うんだな?」
そこからは、賢者の皆さんで集まって、あーだこーだと難しい事を話しながら、目の前に来た人と事務的に魔力交換していた。
これで、スペアの問題も無くなるだろう!
何人と交換したのかもわからず、言われるがまま交換し終え、いよいよ森を見る事になった。
上空に移動したのは、10人の将軍達と、それぞれの団長さん、そして、王様達と護衛役のエル君だ。
モコさんは地上で、本来の目的を忘れ、盛り上がってるお爺様達のお目付け役になっている。
いきなりの高い所にビビったあの日から、湖の上で自由に飛び回り、克服した。
今では、私は鳥よ!と思えるくらいには飛ぶのが大好きだ。
魔法の中で一番好きかもしれない。
一緒に上空に来た人には、離れてもらい、エル君に護衛されながら、何か、良くない物に焦点を合わせ、錬った魔力に心眼をのせ、森に飛ばした。
途端に見えた蠢く黒い悍ましい物にギャア!と言ってエル君にしがみついた。
降りよう!とりあえず降りよう!
あれ?この展開前回と一緒じゃない!?
でも、仕方ない!あれは無い!
あまりの私のテンパリ具合に、エル君はサッと地上に転移してくれた。
エル君から離れ、安心するモコさんの胸に飛び込む!モコさん!モコさん!モコさん!
「どうした!?
ルゥちゃん、何が見えたんだ!?」
いきなり地上に転移した私達を追って、上空組も転移で戻ってきた。
何も言わずにごめんなさい!
でも、あれは無い!
「あ、あれが、し、瘴気溜まりなの?
あ、あれは何?うごうご、ベチョベチョしてそうな黒いのが、たくさん這い出てた!
あの、黒いのは何!?」
「黒い蠢く物が這いでる!?やはり、瘴気溜まりか!?」
怖くてテンパる私をぎゅーっとモコさんが抱きしめてくれて、
「ルゥ様、瘴気溜まりだそうです。這い出ているのは魔物で、お化けではございませんよ。」
いつもの優しい声でモコさんが言うので、モコさんの胸から恐る恐る顔を上げる。
「お、お化けじゃないの?魔物なの?」
「ええ、そうですわよね、皆様?」
「そ、そうだよ!瘴気溜まりから魔物が生み出されているのを、ルゥちゃんは見たんだ!」
「そうだぞ!お化けでは無い!」
と皆んなが、お化けを否定してくれたので一安心だ。魔物なら倒せる!
「なんじゃ、ルゥちゃんまだお化けが怖いのか?
小さい頃から変わっておらんのぉ。」
揶揄いながら言うデン爺様に、
「お爺様こそ、わかってない!魔物は倒せるけど、お化けは倒せないんだよ!
そもそも、私がお化け嫌いになったのデン爺様のせいでしょう!?」
「な、何を昔の事を掘り出すんじゃ!あ、あれはちと揶揄っただけではないか!」
「違う!あの後だって!」
言い合いをしていると、モコさんが参戦してくれ、
「そうです。あれはお爺様が悪いのです。
お可哀想に、あれからずっとお化けが怖くなってしまって。こってり叱ったつもりですが、又、揶揄うおつもりですか?そうですか?そうなんですね?」
島組で盛り上がっていと、
「ルゥ様、決してお化けではございませんので、先程見た物をご説明頂けますか?」
将軍に声を掛けられて、舌戦は一旦タイムをとった。
モコさんの隣に立ち、さっき見た物を思い出して鳥肌が立ち、両腕をさすった。
そうだ!
あの気持ち悪さをお爺様にも味わってもらおう!
「モコさん、少し目を瞑っててくれる?」
「何をなさるのですか?」
「さっきの気持ち悪いの、是非ともお爺様にお見せしたくて。」
「まあまあ、それは素敵な案ですね!
わかりました。私は目を閉じていますので、たっぷりお見せしてあげて下さい。」
モコさんが目を閉じてくれたので、お爺様の手をとり、少し離れたところに移動した。
さっき思いついた事をしよう。
三方を土で覆った壁を作り、壁の内側に闇魔法を掛け、暗くする。
お爺様には、特等席になるよう、土魔法で椅子を用意し、座ってもらった。
「な、何をするんじゃ、ルゥちゃん?
嫌な予感しかしないんじゃが?」
ニッコリ笑って、問いに答えた。
「お爺様、正面の壁を見ていて下さいね?」
エル君を連れて上空に飛び、再び目を閉じた。
心眼で先程見た気持ち悪いのから、より気持ち悪いのを探し、
ーーアップで写しだせーー
ギャア!!ギャア!!なんじゃァァ!!
はっはっはっ!
見てみなさい!お爺様だって怖いんじゃない!
「な、なんだ!どうして土壁に瘴気溜まりが写ってる!?」
「ルゥ!?これが森で見えた物なのか!?」
おっと、お爺様が座ってた椅子の後ろから、皆さん見ていたの?
皆んなに聞こえるよう、誰かが風魔法で声をやり取りしてくれている。
「さっき言ってた闇魔法の応用です。心眼で見た物を写し出しました。
このまま広範囲で写しても平気ですか?」
流石に騎士様は平気みたいだ。
賢者組は、気持ち悪さに顔を青くしている。
悪い気配に焦点を絞り、もっと広い範囲を壁に写し出す。
蠢く気配がいたる所にある。
「これが、瘴気溜まりと思われる気配と同じ物です。」
ん?何か感じる。
「ちょっと視点を変えます。」
次々と流れ込む気配があるので、今度はそれに焦点を合わせる。
「瘴気溜まりに流れ込む気配があったので、今はそれを写しています。
これは…
これはレイ君と似た気配がする。
これが聖気なの?」
流れ込む気配の元を辿ると、確かに森とは逆の方に行く。
そこでエル君に肩を叩かれ、目を開け下に目を向けた。
地上の皆んなは難しい顔をして、絶句しているようだ。
そういう私も、今見た光景に黙り込んだ。
あんな量の聖気を盗られて、
レイ君は?聖霊樹は大丈夫なの?