2-16
文字通り雷が落ち、冷静さを取り戻した会議室のメンバーは慌てて取り繕うも、アレイヤ騎士にしがみ付いて離れないゼロの子を見て、やっちまった!と思ったが時既に遅し。
これ以上は看過できない。後の事はお任せ下さいと、絶対的な守護神、モンシュリー殿に言われ、神殿騎士と共に消えてしまった。
会議室には気まずい空気が流れた。
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部屋に戻って、モコさんに紅茶を用意してもらい、落ち着きを取り戻す。
あの大挙する巨人共から、一言で救い出してくれたモコさんに、キラキラした目を向けてしまうのは仕方ないよね?
「落ち着かれました?あの人達には言って聞かせたんですがね、すぐ興奮して我を忘れてしまう。お爺様達のように、もう少し静かにお話し出来ないんですかね?」
「大丈夫か、シア?」
隣に座ったアヤちゃんに、心配そうに聞かれた。
「平気。アヤちゃんとモコさんが居てくれて良かった。
大量の魔物に襲われるってあんな感じなのかな?
私、何かマズイ事言ってしまった?」
「まあ、ある意味マズイ事かもな。
魔法剣なんて考え付きもしなかった。
魔法を打って隙を作り、そこを武器で倒す。
別に使うのが今迄のやり方だったんだ。
まあ、そこは鍛治師に任せるさ。
それにしても、薬師とは凄いのだな。
無限の組み合わせを試しているのだろう?
尊敬するな。」
苦笑しながら話していたアヤちゃんが、薬師の話に戻した。
「そうなんだよ!ね、モコさん?」
「そうですね。薬作りに関しては本当に尊敬出来ますわ。
あの方達、お料理も上手なんですよ。
薬作りと似ているんですって。息抜きに作って、偶にお裾分けしてくれますが、本当に美味しいんですよ。」
「そうか。物作りとは分野が違っても同じなのだな。我々とは違い過ぎて解らない思考だ。」
「ただ、会話していても直ぐ薬草の話にいくので、普通の会話をする事は難しいですね。
先程ルゥ様が仰ってた、薬師に相談するのも、武器の作り方では無く、研究している様子を見て、聞いた方が良いと思います。
直接、鍛治師の方に島にお越しいただいては?
島に上陸できる者なら悪い方はいらっしゃらないと思いますし。」
何より、ルゥ様の分野ではありませんよ。と苦笑した。
「わかった。武器に関しては物作り同士話し合ってもらう事を進言しておく。
それより、シアはこれから大変だな。」
アヤちゃんとはもっと話したかったけど、夕方を過ぎており、あの後少ししか話せなかった。
又手紙を書くと言って、お爺様達を置いてモコさん達と島へ帰った。
島に戻ってから、薬師に早速造血ポーションの事を伝えたが、興奮しながら話の途中で走って行ってしまった。
見学の話が出来なかったな…
私はというと、きちんと言われた通りに地に足をつけて歩いる。
が、すぐに疲れてしまい、魔法を使うのが当たり前過ぎて、サボっていた自分の体力の無さに泣きたくなった。
ユー君との薬草園では、水を持って撒く事が出来ず、今迄築いてきた、頼りになる素敵なお姉様像を壊してしまった!
でも、優しい弟は、そんな情けない私を見ても、一緒に持てば良いんだよ!と慰めてくれた!
ユー君!お姉様少しづつだけど頑張るよ!
水撒き以外に、薬草の運搬もした。
一般の薬草園で摘んだ薬草を、少し籠に入れて運ぶんだけど、転んでぶち撒けてしまい、すぐに蓋付きの籠に変わった。
それでも、一日、一日運ぶ薬草を微々たる量、増量していった。
他にも、魔法で洗浄していた服を、教わりながら手で洗ったり、食堂のおば様にお願いして、お皿洗いや、配膳の手伝いなどをしながら過ごした。
モコさんも、食堂のおば様も、私の体力作りに積極的に協力してくれた。
水を含んだ重たい洗濯物を干しながら、魔道具はあっても、魔力が少なかったり、不器用な人には、手作業は普通の事だと聞いた。
この神殿には、町の人より魔力が高い者が多いらしい。
だからこの人数で、神殿を廻せているだなぁって感心した。
後、神殿で働くおば様やお姉様にも、益々偶にしか会えなくなった聖女達にも、女友達に思われてなかったの⁉︎と愛あるお叱りを受けた。
だって家族だと思ってたもん!と答えたら、愛あるハグをいただいた。
魔法を使わずに一年程過ごしていたので、13歳になる頃には凄く魔力が貯まっていた。
最初は筋肉痛に悩まされていたが、今では、一人で薬草を持ちながら、階段を登り降り出来るんだぞ!
日常生活に問題がない程度に、体力がついたので、王様達に言われていた、心眼を使わない魔法訓練も始めた。
その際、先生になってくれたのが、私の魔力と相性が良く、ピアスを問題なく持てるエル君だった。
エル君は、フォース王国の騎士様で、以前再生治療に行った時の患者さんだったらしい。
魔力の器を壊し、ポーションや治癒魔法では治す事が出来ず、前線を離れる事になったと聞いた。
無理な魔法の使い方をすると、器が壊れ、再生魔法じゃないと治らないそうだ。
治した人は沢山いたから、一人一人は覚えていなかったけど、エル君は覚えていてくれたそうだ。
今回、護衛を募集したところ、ピアスに受け入れられたので、護衛任務に就いてくれる事になった。
艶のある紺色の長い髪を後ろで一つに結び、以前モコさんに見せてもらった貴重なバイオレットサファイアみたいな、水晶とはまた違う、煌めく紫色だった。
目元にホクロがあり、綺麗な目で微笑まれると、お姉様!とお呼びしたくなる。
これは、理想のお姉様の見本になります!
アヤちゃんは、初めて会った時、女の子に間違われる程の可憐さがあったのに、今は赤い髪も片側を刈り上げた短いヘアスタイルで、デッカくなり、すっかりお兄さんになっていた。
女の子だったら、エル君の隣を歩いてほしいぐらいの美女になっていただろう。
綺麗な涙を流していた姿を覚えていたので、すっかり立派なお兄さんになって。と思っていた。
そんな男の子になっちゃったアヤちゃんにも、負けない程の魔力の圧を感じるのが、エル君だ。
アヤちゃんと一緒で、圧はあっても、魔力の相性が良いからか、嫌な感じはしない。
因みに、アヤちゃんにもピアスを持てたんだけど、自分の力を最大限に活かせる所にいる。
魔法剣の事もあるし、と手紙に書いてあった。
エル君は、実践経験が豊富で、元団長だそうだ。それも、攻撃魔法が得意で、今回の先生役は適任だし、私の魔法にも興味があったから、喜んで立候補してくれたそうだ。
始め、すごく近くで教えてくれるので、見上げなければならず、首が痛くなるからと、少し離れてもらうようになった。
魔法が得意な事もあり、私の魔法との違いを直ぐ理解し、わかりやすく説明し、打ち方のコツを教えてくれる。
エル君も、凝縮はできなくても、心眼に近い事が出来る様になって、更に攻撃魔法が磨かれたそうだ。
2人で、お互い学び合って成長した。
元団長と聞いて、今更だか、騎士団の事をよく知らないと言ったら軽く教えてくれた。
会議で勢揃いしていた将軍を筆頭に、それぞれに6人の団長さんが就いているそうだ。
その団長さんの更に下に、20人づつの隊長さんがいると教えてもらった。
一つの砦に40万人前後の騎士や戦士がいると聞いて驚いたが、魔物は昼夜関係なく襲ってくるので交代制をとる為、一度にその人数が働いている訳ではないんだそうだ。
夜は聖女達、島に帰ってくるよって聞いたら、聖女は島で休んだ方が魔力の回復が早いし、かけてくれた聖結界もあるから、夜はポーション頼りで乗り切る事になっていると教えてもらった。
騎士団に属した者を騎士。
臨機応変に対応できる者を戦士、もしくは兵士と呼ぶそう。
それだけの人数を支える城塞都市も凄いよなぁ。
規模が違う。
活躍している騎士の殆どが、初めから森に接していた国の人達で、5つの国として纏まった時も、脳筋だから、誰が王様をやるか、なすり付け合いをしたそうだ。
結局、統治に向いている人が王に就き、大国だから頭脳派の宰相を3人就け、その下にそれぞれ20人の宰相補佐がいると聞いた。
なんだか、砦も王宮も規模が大き過ぎて、ほぇぇっと驚いて聞くしかなかった。
「まあ、脳筋が砦。頭脳が王宮だと思った方が簡単だよ。」
エル君はお姉様の微笑みで、簡潔に、キレイに纏めてくれた。
そんな雑談も含めた週2回の魔法訓練以外では、エル君は各砦に出向き、実戦で、心眼のやり方を教えて廻っている。
私は島で、女性陣と魔法を使わない生活を送り、基礎体力を身に付けつつ、魔力を着々と貯めた。
そんな日常を過ごし、私が15歳の秋を迎える頃、王様達に呼ばれた。
通信魔道具も出来上がり、魔法剣も試行錯誤しながらも、順調に作れているそうだ。
そして、秋になると、やはり魔物がより増えるらしく、4年後を見据えて、秋を迎える前に、心眼で深淵の森を見てくれないかと頼まれたのだ。