2ー9
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ん、んん。重たい雲に包まれてるみたい。
なんか、レイ君の声が聞こえた気がする。
何言われたっけ?
筋肉がどうとか?
それにしても、この雲ふわふわなのに重いよぉ。
「ルゥ様?ルゥ様?」
あ、モコさんだ。もう、起きる時間かぁ。
ゆっくりと重い瞼を開けると、心配顔で見ているモコさんが居た。
「んん。おはようございますモコさん。」
喉が引っ付いてるようで、喋りにくいな。
「嗚呼、ルゥ様!良かったです!目を覚まされて!喉乾かれているでしょう。
今、体起こしますからね!」
ケホケホ
熱でも出たのかな?体が重い。
モコさんが手伝ってくれて、体を起こすが、
ヒィィ!体が痛い!何これ⁉︎
口元に持ってきてくれた、さっぱりとした果実水をごくごく飲み干す。ぷはー。
「お代わりいりますか?」
ううん、もう平気と答えると、
「目が覚められて本当に良かったです。
心配したんですよ、あれから5日も眠っておられましたから。」
ん?あれから?首を捻って記憶を辿ると...
「あ!そうだよ!モコさん!ドルテミア帝国どうなったの⁉︎」
大事な事忘れてたよ!と寄りかかっていた体を起こそうとしたが、ビキィって痛みが走った。
ヒィィ!痛い!痛い!
「ご無理をされませんように。まだ目を覚まされたばかりですからね。」
再び寝かされ、布団を掛けてくれながら、慈愛の微笑み。素敵です。
「ドルテミア帝国の方は、無事難を乗り切りましたよ。崩された壁の修復を、ルゥ様がしてくださいましたからね、騎士達が壁と壁の間に閉じ込められた魔物を討伐して、なんとかなりました。」
危なかったですがね。と一声加えるも、ホッとしているのがわかる。
良かったぁ。ああ、私役にたったんだ。と目を瞑り、もう一度微睡みに身を任せた。
次に目を覚ますと、寝室にデン爺様がいて、詳細を教えてくれた。
ドルテミア帝国に、トロールを引き連れたコカトリスの群勢が、一気に押し寄せてきたそうだ。あっという間に壁が崩され、内側に侵入を許してしまった。
中にはバジリスク、ミノタウルスやオーガなんかもいて、数の暴力により、壁の修復が間に合わず、防戦一方になっていたとの事。
敵味方が入り乱れ、乱戦状態になっていたので、その中に聖女を入れる事が出来ず、保持していたポーション頼りになっていたそうだ。
でも、ポーションにも数に限りがあり、私が呼ばれたと。
ふむふむ。
私の参戦により壁が修復され、閉じ込められた魔物を自動治癒をされながら討伐でき、今回の騒動は収まった。と。
むふむふ。
私が倒れてしまった後は、魔物が減った事により、聖女が介入出来て、崩された壁も完璧に直されたそうだ。
ぐへぐへ。
「やったー!モコさん、デン爺様!私やれたよ!」
2人にも、良く頑張った!と、頭を撫でられ、交互にハグされながら沢山褒められた。でも、
痛い!痛い!
とゆう事で、改めて体の状態を確認された。
貯蓄魔力には一切手を付けていないので、いつも魔力を捏ねくり回してる器を確認したが、問題なく魔力が溜まっていた。でも、ピアスの方は貯めていた分がすっかり無くなってた。
体はまだ重く、あちこち痛い事を言うと、魔力切れの酷い状態と一緒の様だと言われた。
貯めてる分の魔力があるから、魔力切れはおかしくない?って言ったけど、多分、魔力を作る器と貯める器は別物なのだろうと推察された。
へぇ、そんな事もあるのか。
「そういえば、寝ている間にレイ君と話をしていた様な気がする。」
あやふやで、すっかり忘れていたよ。
「何⁉︎ミュラージェット様がおいでになったのか⁉︎」
ガタンっと椅子から勢いよく立ち上がったデン爺様が、キョロキョロ部屋を見渡している。
本当、お爺様達レイ君好き過ぎるよね?何時もは、ゆったりのんびりしているのに、そんな早く動けたんだね?
「違うよ、デン爺様。言ったでしょ?寝ている時に。だよ。何か言われたんだけど、なんだったかな?」
「何をやっておるんじゃ!ルゥちゃん!
ミュラージェット様との会話を忘れるなんぞ!
ほら、ほら、思い出すのじゃ!」
ほれほれ早く!何て急かされても...
ん〜と重い腕を上げて、手を顎に当てる。それにしても、いつまで体痛いんだ?ん?痛い?
「あ!そうだ!そうだよ!少しは筋肉つけなよって言われたんだ!」
あースッキリした!やっと思い出したよ。
「何?筋肉じゃと?何でそんな事仰ったんじゃ?」
「ん?何て言われたっけ?」
痛みの残る腕を揉みながら、ん〜と考える。
何て言ってたっけ?声に呆れを含んでいた気がするのは覚えている。
それで、何でそんなに筋肉ないのって、目が覚めたら筋肉痛だろうねって...
「そうだ!起きたら筋肉痛が酷いよって言われたんだ。魔力切れを起こすと体が怠くなって、多少の筋肉痛に普通なるみたいだけど、筋肉無さ過ぎるから痛みが酷いよって。」
だから少しは筋肉つけなさいって言われたんだ。
そんなに筋肉ないかな?
再び腕をもみもみする。
ん、無いな。
「た、確かに無いですわね。」
失礼って、モコさんにも腕を触られる。
うん、無いよね。重いものとか持った覚えが無いもん。魔力操作の練習も兼ねて、全部魔法使ってた気がする。
自然にモコさんと目が合う。き、気まずい。
「何じゃ?ルゥちゃん筋肉ないのか?
まぁ、教えてもらったんじゃから、これから鍛えて行けば良いのではないか?」
そ、そうだよね。こ、これからだよね。ってモコさんと無言でうなずき合い、会話した。
「それよりもじゃ、ルゥちゃんの活躍で何とかなった今回の事で、ドルテミア帝国が直接礼を言いたいそうじゃ。後、何故いきなり大量に襲ってきよったのかわからん事には、今後、何処の国で起こってもおかしく無いからの、ちと、意見を聞きたいそうなんじゃが?」
どうかの?って伺う様に聞かれても、
「お礼は別に必要無いよ。やれる事をやったのは皆んな同じでしょ?
それと、襲ってきた理由?なんて聞かれてもわからないよ?」
上から砂埃越しに心眼使って負傷者を見てただけだから、魔物の姿も見ていない。
魔物になんか関しては、図鑑でしか知らないからど素人もいいとこだ。騎士様達のが一番良く知ってるのでは無いか?という事を言ったんだけど、
「それがの、落ち着いてから各国の将軍と、儂ら賢者も現地に行って確かめたんじゃが、良くわからんくての。なんせ、こんな事今迄一度も無かった。一点集中で大量に襲ってきたのには、何か原因があるはずじゃ。
それがわからん事には、今後の対策の立てようもない。
一度心眼で見てもらえると助かるんじゃがの?」
「ああ、心眼で見ればいいの?それなら出来るよ。でも、原因?を特定して見えるかどうかはわからないよ?」
「勿論じゃ、儂らには見えんかったもんを、ルゥちゃんなら何か見えるかもと思っただけじゃ。気負いせんと大丈夫じゃ。」
話がまとまったところで、
「でも、その前に筋肉痛を何とかしなければなりませんね。」
二の腕をツンツンしながらモコさんが言う。
うう、痛い。はい。仰る通りです。
それから2日後、薬師の人に筋肉痛に効く貼り薬を処方してもらい、何とか動けるようになった。
すいません。ご迷惑をおかけします。
治癒魔法かけようとしたんだけど、デン爺様に、筋肉痛にかけると、鍛える事に意味が無くなると言われ、ぎこちない動きで2日間耐え忍んだ。
まだ少し動きにくいけど、先延ばしには出来ないと、ドルテミア帝国の砦に足を運んだ。
これで、3度目の訪問だ。前回の慌ただしかった様子も見られず、落ち着いた普段の日常が過ごせている事に気付いて、モコさんと微笑み合う。
そこに、神殿騎士と共に島のおじ様達がいて、
「ルゥちゃん!良かった!動ける様になったんだね!この前はありがとう!魔力切れで倒れたって聞いて心配してたんだよ!」
もう何とも無いの?大丈夫なの?って心配してくれてた事に胸があったかくなる。
「ありがとう。うん、もう平気。」
何て話しながら、頭を撫で撫でしてもらう。
一通り無事を喜んだ後、
「聞いてると思うけど、各国の将軍達が集まっている。これから崩された壁に行って、心眼を使ってもらう。大丈夫かな?」
問題無い事を伝え、転移でパッと壁に移動した。
そこにはデン爺様を始めとした賢者達と、デッカい人達が50人程居た。
「よう、来た。ルゥちゃん。筋肉痛は大丈夫かの?」
ってお茶目に聞くのはデン爺様。
「ルゥちゃん、倒れた後に筋肉痛酷かったんだって?もういいのかい?」
いつも通りに話してくれているのは、この場の緊張感を和らげてくれているのだろう。
もう、動けるよ。平気だよーと話していると、
「此方の方達が各国の将軍様と、補佐の方達じゃ、人数も多いし、其々の自己紹介は後での。
皆様、此方が我々のルゥちゃんじゃ。」
では、早速見に行くかの。と、デン爺様が仕切ってくれた。正直助かる。デカイ上に圧も凄い。
ひぇ。これが将軍かぁ。なんてペコリと挨拶し、初めに崩された壁の残骸の所に移動した。
移動しながら周りを見渡し、あの時のむせ返る程の血の匂いが、もうしていない事に気付いてホッとした。未だ耳に残る戦場音も聞こえず、足音だけが響いた。
「どうじゃ、これが崩された壁じゃ。なんか見えるかの?」
そういえば、
「あの時、壁を直さなきゃ切りが無いと思って、崩れた壁を再利用して、作ろうとしたの。でも、良くない気配があって辞めたんだ。」
ちょっと待ってね。と心眼を発動させると、
オェ!やっぱり気持ち悪い。
「やっぱり、良くないのが混ざってるよこの壁。」
「良くない物とは何ですか?」
んん?何て言ったらいいのか迷っていたが、この気配は何だろと、ジィーっと見る。
「これ、呪いなのかな?何か悪い物が混ざってるの。ちょっと取り除けないか試してみるね。」
心眼に、この気持ち悪いのだけ集めてと魔力を流す。と、綺麗になっちゃった。
あ、あれ?失敗した?
「な、何をしたんじゃルゥちゃん?」
恐る恐る目を開け、壁の残骸を見ると、嫌な気配が綺麗サッパリ無くなってた。
「い、いや、何か綺麗にしちゃった?」
「なんぞ黒いモヤっとしたのが浮いて出てきよったぞ。あ、あれはなんじゃ?」
「その悪いのを集めようとしたんだけど、魔力に触れたら綺麗になっちゃった?」
感じ?
でも、これは呪いみたいだけど、思いに近いかな。
周りをキョロキョロして、
「あ、あっちの瓦礫にはまだ残ってるから、もう一度試してみようよ。」
瓦礫の塊があちこちにあるので、名誉挽回とばかりに、そちらへ誘導する。
さあもう一度と、今度は心眼で見るだけにする。
「これは、かけら?何かのかけらが混ざってる。それが悪い気を生んでるみたいだね。」
心眼を止めて、しゃがみ込んで肉眼で確認する。
触りたくないな。ん、これかな?
「これだと思うよ。これなんなの?」
比較的わかりやすい、かけらを指で指して教え、場所を譲ってモコさんの元へ行く。
「鑑定をかけても小さ過ぎて出来ません。ルゥちゃん、もう少し教えてもらえる?」
その一言で、皆んなで瓦礫を漁り集めてもらった、かけらを鑑定する事が出来た。
「コカトリスの卵の殻だ...」
卵?
「これは、卵を盗られたコカトリスが、取り返そうと攻めてきたという事か?」
「至急、壁を建設した者と、強化修復した者に確認を入れろ!」
「我が国もだ!」
騎士様達が慌しくしている間に、お爺様達に頼まれ、他に気になるのが無いか聞かれたが、特に何も見えなかったので、このまま瓦礫の浄化をする事にした。
どこに混ざっているかわからないから、今日、この国に来ている聖女達にも神殿騎士が連絡に行き、手分けして浄化にあたった。
流石に放置はできないよね。
浄化しながら、強い思いを感じる事を伝えた。
今後、食べるにしても、卵の殻だけは土に還した方がいいと進言しておいた。
心眼で魔力を飛ばし、もう嫌な気配は無いと確認出来た後、城塞都市の一室に移動した。
迅速な聞き込み後にわかったのは、確かにコカトリスの卵を見つけ、食べてしまった騎士達がいたそうだ。それ自体、珍しい事では無く、運が悪かったとしか言いようがない。
騎士達が食べた後、殻を捨てた場所の土が偶々、壁の強化修復に使われ、今回の騒動になった。
確かに、コカトリス側からしたら、これ見よがしに壁に卵の殻があったら、喧嘩を売られたと思っただろう。
普段は聖女が壁に聖結界をかけているが、殻が混ざっていた所は、あの騒動の次の日にかけられる予定の場所で、浄化に間に合わなかったのだ。
殻が混ざった壁を中心に、数で襲ってきた結果、壁の崩壊が広範囲に渡ってしまった。
不運に不運が重なった今回の騒動は、湧きのピークを迎える良い予行練習になったと言ってた。
だが、問題点も沢山あり、ドルテミア帝国の王城で合同対策会議を開くそうだ。
まあ、頑張って下さい。と、思っていたのだが、
「あ、ルゥちゃんも参加じゃからな。」
ワオ!?