2ー8
フォース王国から始まった欠損再生の治療は、サイジェスト王国、エルシア帝国、ロノフ王国、ドルテミア帝国の順を、2年程かけて廻った。
その間に、心眼は開花出来なかったけど、祝福をかけた薬草の組み合わせと、水晶を浸した泉の水で、聖女でも再生が出来る様になったのだ!
これは、再生ポーションと呼ばれ、治癒魔法と掛け合わせて使われている!
良かった!これで聖女達の念願も叶った!
島の薬草オタク達って本当に凄い!
このポーションがあれば、力の弱い聖女にも腕一本くらいの再生治療が出来、前線が酷い時には応援に来れる様になったんだって!
心眼で、無くなった部位を見る事は出来ないけど、呼びかけてあげる事は出来る様になったと、凄い喜んでいた。
ただ、魔力の本人負担が大きいから、現場で施される事は少なく、一旦治癒院に寝かされ、魔力が満タンになってから治癒されているそう。
医療の大きな、大きな一歩だと言われた。
次は魔力を回復させるポーションだね!
って言っておいた!
ステータス手紙の通り、魔物が爆発的に増えてきてるみたいだけど、子供なんだから、大人に任せていつも通りに過ごせばいいと言われている。
聖女達も、益々忙しくしているので、モコさんにお願いして、薬草園での祝福がけをする事になった!
もう、5歳のお姉様だからね!
洗脳のお陰で、3歳になり、喋れる様になったユー君に、『ルゥねえしゃま』と呼ばれているのだ!
お姉様は、お手伝いも出来るのですよ!
ユー君も、草いじりが好きな様で、将来は神官になるのかなってママ聖女が言ってた。
それならお手伝いしますよ!と、草いじりセットをお爺様達にお願いして作ってもらった。
それを持ち歩くのが重そうなので、いっぱい入るバックもこんなのって言って作っていただき、ユー君に捧げた。
レイ君とは全く会えていないけど、こうやって草花が咲いて、季節が巡るのを見ていると、忙しく頑張っていてくれてるんだなって感じる。
薬師や神官も忙しそうだし、お爺様達ともあまり会えなくなった。
設置する水晶に、私の凝縮した魔力をブチ込み、各砦に6カ所づつ、転送魔法陣を増やせたのはいいんだけど、通話出来る魔道具は、細かい設定が上手くいってないみたい。
その代わり、王宮と砦だけを繋ぐ、通信魔道具は出来たんだって!
皆んな頑張っているなら、と私も瞑想の時間を再び設ける様にした。
決して、滞っていたグルメリサーチの為ではありませんよ!
そりゃ、ちょいちょい見ちゃうけど。
簡単に凝縮出来る様になったんだから、貯めれるだけ貯めてやろうと思ったのだ!
瞑想しながら体の中にある魔力をギュッギュッして、せっせ、せっせと貯めている。
祠にあったピアスにも貯めれるので、そちらにも貯めている。これは器の分とは違い、必要になったらすぐ使える私のぶんにしよう!
5歳になって、湖にも1人で行く様になった。
レイ君に、私は沈まないと言われたので、皆んなの前で、実際に波紋を浮かせながら歩いて見せてあげたら、めちゃくちゃ驚いてた。
なんの魔法も使わなくても、水の上歩いてる幼女は、さぞ珍しかろう。ん?不気味か?
初めは心配していたモコさんも、今では湖のほとりにある東屋で、お茶をしながら見守ってくれている。
レイ君に教わった様に、いくつもの魔力を広範囲で同時に使えるよう練習したり、お魚図鑑を、何でも入るポシェットに入れて、湖の上に持ち込んでいる。図鑑に載ってない魚を見つける度に、モコさんに、見て見て!と報告しに行き、食堂のおば様達に美味しく調理してもらったりと、中々充実した日々を過ごしていた。
ユー君と共に成長し、どんどん忙しくなっている皆んなの代わりに薬草園全体を積極的に育てた。
私が緑の手を使え、祝福を、効果増し増しでかけれるのを見ると、神官達も薬師の手伝いに駆り出される様になった。因みに、ユー君も、私の緑の手を間近で見ていたので、いつの間にか使える様になっていた。流石、私の弟!
そんなこんなと過ごしていた12歳の秋、薬草園で作業していると、聖霊島の北に位置するドルテミア帝国の、砦の一枚目の壁が広範囲にわたり攻撃され、大量の魔物が侵入してしまったと報告された。
ロノフ王国と、エルシア帝国の、余力があった所が応援に駆けつけているが、乱戦中で治癒が追いつかないと応援を頼まれたのだ。
正直ビビったけど、島の皆んなが日々頑張っているのを見てきた。
報告に来たのは、フォース王国で会ったおじ様達と、賢者のお爺様達だ。
隣に立つ、モコさんの抱きしめてくれている腕が震えているが、私、やるよ!
「モコさん、私行ってくる。正直怖いけど、レイ君にも私の力は皆んな為になるって言われた。
思うようにやってごらんって。」
ギュッと抱きしめる力が強くなる。
ありがとう。大好きだよ。
「たくさん練習もしてきたよ。私行けるよ。
だって、ユー君のお姉様だからね!頑張らないと!」
「ルゥ様...。
そうですわね...。一生懸命、練習していたのを見てきました。一番間近で見てきた私が信用しないでどうするのです!
ええ、ええ、私のルゥ様はやれますとも。」
それからは、一刻も争う!と、そのまま神殿騎士に転送魔法陣でドルテミア帝国に送られた。
着いてすぐ、以前来た時と空気が全然違う事に、嫌でも気付かされた。
転送陣は要塞都市の中にあって、この都市のもっと向こうに砦があるのだ。なのに、喧騒がここまで聞こえる。もくもくとした土煙が上がり、爆発音も聞こえる。都市内部の人も慌ただしく走り周っている。
初めての戦闘音に、ガタガタ震えが来た。
一緒に来てくれた人達が心配そうに見てくれている。
「神殿騎士が2人付き添うから、もしもの時は逃げれる。治癒を最優先でやってくれればいい。」
そう、私のやる事は治癒だ。でも、
「多方面に、心眼を使いながら魔力を飛ばすから、上空からやります。近くに居られると心眼の妨げになるので、離れた所にいて下さい。」
神殿騎士を見て言う。
「わかりました。身の安全はお任せ下さい。
では、今から戦場の上空に飛びます。」
よし!と両頬に気合いを入れ、
「行ってきます!」
神殿騎士に転移で連れて来られた場所は、崩された砦の上空だ。沢山の瓦礫の塊がうっすら見える。
着いた途端に襲ってきたのは、凄まじい戦場音。
爆発音に、怒号、震えが走る様な魔物の咆哮。
音もだが、爆風によって砂や小石が飛び散り、土煙が辺り一面を覆い、視界は良くない。
よし!頑張る!モコさん見てて!
「始めます!離れていて下さい!」
戦場音が凄まじいので、大声で知らせる。目を庇いながら頷いたのを確認し、更に上空に飛ぶ。
音や土煙は勿論だが、戦場に着いて、汗や土の匂いに混じり大量の血の匂いがしていた。
そう、血の匂いだ。
戦ってくれている人がいる。
神殿騎士が守ってくている。
なら私に出来るのは治癒だ。集中できる。
戦場の端の方で、治癒魔法がかけられているのを感じる。
壁があった辺りで聖結界の力も感じる。
聖女達だ。
大丈夫。私だけじゃ無い。
全ての音や風を遮断する。
さあ、瞑想の時間だ。
心眼で怪我をした人に焦点を合わせていく。
沢山沢山いる。
もっと、もっとと、右手で魔力を練り上げ、左手で治癒魔法を付与していき、心眼に乗せて飛ばす。
さあ、行って。どんどん飛んでいけ!
魔力を飛ばしながら、治癒だけでは駄目だとすぐに気付けた。毒を受けてる人や、麻痺、石化の呪いをかけられている人も沢山いて、解毒と解呪魔法も付与し、飛ばしていく。
魔力を飛ばしながら、怪我人が減らないのは壁が無いからだと気付いた。
直さないとキリが無いと、聖魔法を付与し、土魔法と錬金を組み合わせ、壁を直していく。
上から心眼で見る限り、怪我人が減ってきたのがわかる。
では、直した壁の向こう側は?と見ると、そっちの人は心眼に映らないから怪我は大丈夫なのだろう。
どれ位そうしていたか、わからないが、誰かに肩を叩かれるまで心眼に集中していた。
目を開けて叩かれた方を振り向くと、見守ってくれていた神殿騎士2人が居た。
「大丈夫です。終わりました。かなりの魔力を使われていましたが、体は平気ですか?」
え?終わった?終わったの?
確かめる様に下を見ると、ぎゃっ!?って神殿騎士にしがみついた!
高いじゃない!!なんで今迄気付かなかった!?
「た、高い!高い!なんで、こんな高い所に!?お、終わったのなら降りましょうよ!」
抱きついたままでいると、ピカっと光り、足が地に着いた!
嗚呼!大地よ!ただいま!
「ルゥ様!!」
モコさんだ!モコさんだ!
「ただいま!モコさん!私出来たよ!やれたんだよ!」
ぎゅーっ抱きしめながら安堵感に包まれ、お爺様達にも、無事な帰りを喜んでもらっていると、ふと確認したくなった。
「あれ?私出来てた?」
「何をおっしゃっていますか!素晴らしいご活躍でしたよ!まるで救いの天使様の様で見惚れてしまいました!」
そう言ってくれたのは、同行してくれていた神殿騎士だ。
「ほ、本当?私ずっと心眼で見てただけだから、この目で確認してなかった。」
ちゃんとやれていた様で今度こそ安心した。
「ご立派でした!相当魔力使われた様ですが、体調はいかがですか?」
ん?体調?と言われ、自分の内側を確認しようとしたところで、暗転した。