2ー7
オルさんに、目の治療を受ける人を10人連れてきてもらったけど、壁だ壁!
最初の熊さんよりかは小さいが、デカイ事には変わらない!入り口に10人も揃って並べば圧が凄い...
モコさんが心配そうに見てくれてるのがわかる。
頑張るよと、無理して作った笑顔で答える。
入って来た人には一人づつ、並べられた椅子に腰掛けてもらう。
そこからは、さっきの人と同じ事をしていく。
慣れてくると流れ作業だ。
オルさんが一人づつ前に連れて来て、症状を説明して包帯を外す。
私が癒す。
モコさんやお爺様達が確認する。
オルさんが目にタオル当てたままの人を、部屋の外に居る人に引き渡す。
出て行った人と入れ違いで、一人部屋に連れてきて、椅子に座らせる。
またオルさんが、また次の人を前に連れてくる。
といった感じで、いい流れで治癒を施していき、あっという間にお昼休憩を迎えた。
誰も彼もが、泣いてお礼を言ってくれた。
何度も魔力負担の確認されたけど、私は呼びかける時にしか使ってないから、あまり減ってない。治療を受ける側の人のが、相当魔力使っている筈だ。
用意された部屋に、転移で連れてきてもらうと、皆んなで眩しさに目を瞑った。談話室が暗かったから、いきなりの明るさに驚いてしまって、皆んなで笑った。
昼食をとってお昼寝をし、おやつを食べながら、初日だし午後は休むかと聞かれたけど、無問題!
だって思ってた程魔力使ってないもん!
いつもより短いおやつタイムを済ませ、午後からはモコさんと、神殿騎士のみで移動した。
サリーさんは、午前中のうちに前線からお呼び出しが掛かり、お昼休憩の前には既に居なかった。お爺様達も、大丈夫そうと分かって、将軍の元へ行くそう。
お爺様達の代わりに、オルさんの部下と紹介された2人が加わった。オルさんと似たような背格好で、ウィルさんとソルさんだ。
午後の治療を再開してすぐ、今日砦に来てた、残りの聖女2人もやってきた。
呼ばれる迄の短い時間だけど、と。
実際に目で見ながら、治療する感覚をあれこれ質問された。
聖女達にも出来る様になってもらいたいな。
午後も、午前中の流れのまま処置を施し、今日はここまでにしましょう。と、モコさんに声を掛けられるまで、夢中でやっていた。
喜んでくれるのが嬉しくて、時間を忘れていたようだ。
だって、部屋の中の雰囲気が明るい!
暗いのに明るい!
見える様になった人達は勿論、お手伝いをしてくれているオルさん達、神殿騎士達、勿論モコさんも、皆んな笑顔だ。
見えないけど、期待をして座っている人達は、治る可能性にソワソワして待っているのが伝わる。
最初は怖かった大きな騎士様達にも、だんだん慣れてきた。
やって良かった!とモコさんと共に一足早く島に帰った。
良かった、良かったと布団に入る迄興奮していたけど、布団を掛けてもらった途端、コトンと寝れた。
その夜はユー君に、流石お姉様!って言われる幸せな夢を見た。
翌朝、体調を確認されたけど、絶好調なので行きますよ!
同じメンバーと、同じ流れで治癒を施し、治療を始めてから11日後には目だけを治す人は居なくなった。
次はいよいよ欠損患者だ。まずは腕の人から始めるらしく、またお爺様達が見届けに集まってくれた。
オルさんに呼ばれて部屋に入って来た人達は、目の患者さん達とは違って、私を見て、目を見開きながら自分の足で入って来た。
こんなちっこいのに治せるのか、驚いてるのだろう。
大きな騎士様に慣れたとか言ってたけど、嘘です。ごめんなさい。調子にのりました。
「大丈夫ですよ。ルゥ様、この方達も大きな熊さんです。島で熊さんのお人形の治療をしましたね。痛い、痛いと泣いてる熊さんを、私が直したら喜んでくれました。
今度は、ルゥ様が痛い痛いしてる熊さんを治してあげれるでしょうか。」
目線を合わせて落ち着かせる様に話してくれる。
いつでも、どこでも、モコさんは安心感を与えてくれる。
「あい、モコしゃん。こんどは私がなおします。」
ちゃんとモコさんの目を見て宣言し、腕を無くした熊さん達を見上げる。
砦に来て、初めて治した人を熊さんみたいだったと言ったら、モコさんが、皆んな熊さんだと思えばいいのですよと教えてくれた。
そして、熊さんのお人形を使って、人形劇をやってくれた。治癒士はモコさんで、助けを求める熊の人形の手足を、チクチク縫って治療し、仲良く暮らしました。というお話だった。
見上げた熊さん達に、
「いたい、いたい?」
と、聞けば、
「あ、ああ、とても痛いんだ。小さな妖精さん、お願いします、わたし達熊には、まだやるべき事があるので治して下さい。これでは、蜂蜜も集められない。」
ん、熊さんだ。
「あい、いたい、いたい、治しましょう。」
離れてしまった腕は、ずっと近くにいたの?
戻りたかったんだね。
まだやりたい事あるもんね、戻っておいで、
おいで、おいで、
帰っておいで。
呼んであげた腕は光に包まれ、元に戻っていった。
骨から再生されていったら怖かったけど、光に包まれていて、何も見えなくて良かった。
「あ、嗚呼、何て事だ!奇跡だ!妖精さんありがとう!」
大きな声と、いきなり立ち上がるからビビったけど、泣いて喜んでる。泣きながら腕を振り回し、動作の確認をしている。うんうん、良かったね熊さん、と思って見ていたけど、他の熊さんから熱い視線を感じる。
うん、任せない!蜂蜜取れなければ大変だもんね!
それから腕の再生の人に3週間程かけ、耳や指、足と続いた。足の欠損の人は部屋のベッドに寝てもらって治した。
大変だからと、部屋に来てもらうより、私が行った方が良いのでは?って聞いたんだけど、騒がしいから行かない方が良いと言われた。再生されたところは元に戻る訳ではないから、鍛え治しと、リハビリが必要になるようで、この部屋付近以外は煩いらしい。
私が呼んでるのは、離れて行ってしまった箇所の想いだけで、再生されたところとは、これから新たな付き合いになる。
最後は一番見た目が酷くなってしまった人達で、最後迄、小さい子に見せるのは酷だって、迷っていたらしいが、本人に一度聞いてみようとなったらしい。
「ルゥ様、このふた月、良く頑張りましたね。大変、素晴らしかったです。目の前で起きる奇跡に日々感動しておりました。」
うん、皆んな笑顔になってくれて、私もとっても嬉しかった!
モコさんが両手を握って笑顔で話してくれる。
でも、
と、先程迄浮かべていた笑顔の代わりに、悲しそうな顔で、
「次の方達で最後になりますが、この方達は、はっきり申し上げて傷が酷いんです。
火魔法を使う魔物によって受けた傷で、皮膚は勿論、耳や目、毛根が溶けてしまったり、腕と、胴体が溶けたままくっついてしまった方達です。
治癒魔法やポーションで、表面だけは良くなりましたが、溶けてしまった箇所は治りませんでした。
いかがされますか?怖いとお思いなら、無理にとは申しませんし、誰も責めたりは致しません。
もう少し大きくなってからでもいいんですよ。」
私の事を思って、気を使ってくれてるのが、握られた手と、向けられた目から伝わってくる。
ありがとうモコさん。
「だいじょうぶ。モコしゃんだってくましゃん治してくれたもん。みんな治してあげて、なかよくくらすんだよ。なかまはずれはかわいそうだもの、さいごまでやれるよ。」
モコさんは涙を浮かべながら、頭を撫でてくれた。
「そうですね。でも、時が経てば仲良く暮らせます。今が無理でも、きっと仲間は待ってくれていますから。」
「みためで決めたら、ダメなんだよ。モコしゃんが読んでくれた、ぶくぶくガエルも、なかまはずれでかわいそうだったもの。ぶくぶくガエルにいじわるしてた、女の子みたいになりたくない。」
「ふふふ、あのぶくぶくガエルですか?
確かに、あの絵本に出てきた女の子は酷かったですね。ルゥ様絵本読んで差し上げた時、初めて怒っていらっしゃいましたもんね。」
そうなのだ、モコさんに読んでもらった絵本に、顔に生まれつきブツブツがある男の子が、意地悪を言う女の子と、その友達のせいで、仲間に入れてもらえずイジメられる。
家の外に出る事も出来ず、更に太って、ぶくぶくガエルと呼ばれる。
毎日1人、泣き暮らしていると、女神様が現れ、清らかな心を持つものであればたどり着ける、精霊の泉があると教えてくれた。
その泉の水ならブツブツも治ると言われ、旅に出る。その旅の途中に出会った女の子は、見た目に惑わされず、男の子の優しい心が好きになり、一緒に泉を目指す。
そして、力を合わせて旅をしている間に、体も痩せ、やっと泉に辿り着いた。
そして、精霊がくれた水により、ブツブツも治ると、王子様のように素敵な男の子に。
ぶくぶくガエルと呼ばれた男の子は、一緒に旅してきた女の子と幸せに暮らしました。
その頃、意地悪をしてきた女の子にも、顔にブツブツが出来、男の子を真似して、泉を目指して旅に出るが、心が汚いから泉にたどり着く事が出来ず、かつての男の子の様に、1人家で泣いて暮らしました。
というお話だった。
意地悪な女の子に、初めてムキーってなった。
その絵本を読み終わってから、絶対にその女の子みたいにはならないとモコさんに誓ったのだ。
「あい、いじわる女の子にはなりたくないから、だいじょうぶ。私、ブツブツあってもいじわるしないよ。」
「ふふ、はい。わかりました。モコも隣に居ますからね。一緒に泉の精霊さんになって、ブツブツ治してあげましょう。」
私達の会話を聞いていたオルさんが、モコさんの合図を受け、1人ゆっくりと部屋に連れてきた。
入ってきた人は、確かに酷かった。
見ているだけで痛かった。
椅子に座ってもらい、
「いたい、いたいとんでいけ。とんでいけ。
とおくへ、とおくへ、とんでいけ。」
絵本の男の子と重なって見えた。意地悪を言われて心も痛かっただろう。
痛いのはあっちに飛んでって。
おいで、おいで、痛いのなくなったから、
戻っておいで、
この人は綺麗な青い目。
両目、両耳揃ってる方が素敵だよ。
髪はオルさんみたいな紺色だ。
指もくっついてるより、一本一本動かす方が、
食べやすいよ、
見た目で怖がられるのは、心が痛いよ。
帰っておいで。おいで。
酷かった箇所がキラキラし、髪の毛も生えてきた。良かったね、ほら素敵になった。
女の子と幸せに暮らすんだよ。
「いたいいたい、なくなった?
めでたし、めでたし?」
ペタペタ酷かった箇所を触っているので、オルさんが泣き笑いし、頭をくしゃくしゃ撫でまわしながら鏡を渡した。
「モコしゃん、私、いじわる女の子じゃないでしょう?ブツブツ治せた!モコしゃんと、泉のせいれいしゃんになれた!」
隣で一緒に治してくれたモコさんに、嬉しくて抱きつく!
「ええ、ええ、やりましたね!流石です!なんて素敵な精霊さんなんでしょう!」
って抱き返してくれた。
「ルゥちゃん、ようやった、ようやった!よう、頑張りよった!儂には本物の泉の精霊より、素敵に見えたぞ!」
今日は、心配してお爺様達も来ていて、皆んなで褒めてくれた。
それからも、モコさんと泉の精霊になり、ブツブツを綺麗にしていった。