2ー6
あれから、水晶の事は、お爺様達と魔道具作る人が力を合わせて研究してるみたい。
そして、欠損を治す場所は、話し合った結果、各砦に集めてもらう事になった。治療する人数が多いから、王宮に集まって砦に行くよりも、治療後、砦に残るんなら、初めから砦集合にしよう。となったからだ。
集めるにも時間が掛かるので、私が行くのは半年後に決まり、その間に私はなんと!3歳のお姉様になったのだ!
ユー君も1歳になった!私は2月、ユー君は4月がお誕生日だったから、間をとって3月に合同誕生日会をやってもらった。
離乳食も始まっていたから、回転する刃を付けたジューサーミキサーを、こんなのって、絵に書いて説明して、お爺様達に作ってもらっていた。
それを使って、食堂のおば様達に協力してもらい、果物と野菜が入ったムースを作った!
それと、歩き始めて、転ぶと危ないから衝撃を和らげる、小さな風魔法を付与した布で、服を作ってもらった。風が常に吹いてるんじゃなくて、衝撃を感じたら受け止めるイメージで!
もちろん、子供は汗っかきだから、通気性も良くした!
治療で、どれくらい魔力使うか判らないから、しっかり魔力も貯め、そんなこんなと過ごしている内に、あっという間に砦に赴く時が来た。
聖女達には、砦に行く事になったと伝えた時、泣いて喜ばれた。
悔し涙に治してくれって、
勇猛果敢な戦士が周りを気にせず、
膝をついて泣き、咆哮をあげる。
本人にも、その仲間達にも後生だからと、頭を下げられたが、出来ないと謝る事しか出来なかった。と。
ありがとうと。任せてごめんねと。
泣きながら言われて、やるって言って良かったと思った。
モコさんはお供します。と付いてきてくれ、水晶研究の為、王宮に行きっぱなしの賢者の皆様の内、転送陣に付け替える水晶を担当している人だけが、今回同行する事になった。試作品が出来上がり、将軍達と、設置場所等の確認作業があるみたいだ。
そして、フォース王国の砦に転送魔法陣で乗り込んだ。
フォース王国や、島の転送陣が置かれている室内の部屋とは違い、砦の転送陣は外にあった。
陣に対して大きすぎる屋根と、屋根を支える柱はあるが、出入り口は全方向に開いている。
陣の外側には、今日の担当聖女の内、サリーさんだけが神殿騎士2人を引き連れて迎えに来てくれていた。
その後ろにいる紺色の髪の人は、多分砦の騎士様なのだろう。
銀の鎧を身に付け、剣も腰に下げている。
ここに来るにあたり、モコさんには砦の事をあれこれ教えてもらった。
私達には、転移が使える神殿騎士が、砦にいる間、必ず2人づつ付き添い、出会う騎士は、皆大きく、魔力も高く、武装していると。
一見怖いが、魔物から国を守る英雄達だと。
砦は、何百年も掛けて造られ続けている、王都より広い巨大な城塞都市。
元々、軍事拠点を置く砦だったが、国が大きくなり、この地を守る者が増え続け、今では立派な城塞都市が出来上がったそう。
他の国も基本同じ造りで、騎士が休む時位は安心して休める様にと、守りを固めに固めた造りになっているんだって。
都市内には、町みたいに色んなお店も揃ってるし、訓練場、宿舎、解体場、武器開発部、鍛冶場、治癒院、遊戯場などが揃っていて、騎士がストレスを溜めない様になっているらしい。
町の人も、殆どが、元からこの地で生き抜いてきた国の祖となる人達で、内陸の人間より、非戦闘員でも魔力が高いらしく、もしもの時は参戦してくれる事になっていると聞いた。
それ以外にも、狩った魔物の素材や、物資の輸送をする大量の商人の出入りもあるし、内陸からも、この地の役に立ちたいと、越してくる人達が後を絶たない。
そして、ここからずぅっっと、森に接する所に高い壁が二重に張り巡らされているそう。
その二重壁同士も距離があり、普段は壁の外側で魔物相手に戦っているそう。
今回は、治療目的の為、治療する場所と、休む所以外は行かない事も言われた。
規模が大き過ぎて、ほぇっといった感じだ。
兎に角、壁も都市も施設も人も、何もかもが大きいですよ。と最後に纏められた。
その通りでしたね。モコさん。
聞いていた通り、この騎士様も大きいし、魔力の圧を感じる。
でも、目は優しい。
「ルゥちゃん様!今朝ぶりね!良く来てくれたわ!うちの神殿騎士は顔見て、知っていると思うけど、此方の騎士はオルさんよ。この砦の患者さんを把握している人だから、何でも聞いてね。」
「良く来てくれたね。わたしの事はオルと呼んでね。ルゥちゃんでいいのかな?」
目の前まで来て、片膝をつき、目線を近付けてくれた。
ヒゥッ。近付くとよりデカイ。
「お、おはようございます。ルゥです。
オルしゃん、よ、よろしくお願いします。」
「ルゥちゃんは3歳って聞いてたけど、随分しっかりとしたお姉さんだね。
今回はルゥちゃんから治療してくれるって聞いて、皆とても喜んだんだ。
ここには沢山の人達がいる。本当は皆んながお礼言いたかったんだけど、大勢来られたらルゥちゃん困るだろう?
だから、代表してお礼を言わせてね。
来てくれてありがとう。
もう、此処には二度と戻って来れないって、諦めなくちゃいけなかった人達だったから、可能性を見せてくれただけでも嬉しいんだ。
ただね、沢山の魔力使う事もそうだけど、初めての事だらけだろう?
だから、無理をしてほしくないんだ。
小さなルゥちゃんに、無理させてまでっていうやつは、此処にはいない。
辛いなって感じたらすぐ教えてね。」
それは、此処に来るまでモコさんにも散々言われて来た事だ。モコさんと同じ事を言う。
絶対良い人だ。
「あい、やくそくします。」
挨拶も済み、転移で休む部屋に移動し、そこで治療の流れを説明してもらった。
サリーさんは今朝、砦に来てすぐ、担当する場所で、聖結界を張りまくってきたらしく、呼びに来られる迄付き添ってくれるそう。
自分達にも欠損再生が出来ないか、見学して、少しでもコツを掴みたいって聖女同士で話し合ったんだって。
聖女達は基本3人一組で、3日に一度砦に来る。担当した日は魔力を空っぽになる程使い切り、次の日島で丸一日休むと、その次の日には魔力満タンに戻る。他の土地では5日は寝た切りになるそうだが、ほら、そこは不思議島だから。
魔力が戻っても、怠さが残るから一日ゆっくりする。力の強い聖女と、偶に会えたのは、この砦に来る前の日だった訳だ。
力の弱い聖女は、毎日何処かしら治療に周り、島に帰って来るから、会おうとすれば会えたし、色んな話をしてくれた。
よく考えれば、聖女達がどれくらい実力を持っているのか、治療している所を見た事無いから知らなかったな。
でも、見学でも、一緒に居てくれる事が心強い!
オルさんの話によれば、砦によって人数は異なるが、治療する患者さんは三千人前後いるそう。
ひょぇぇ!
何日かかってもいいから、無理の無い範囲で、出来るだけお願いしたい、と言われた。
治療を施す部屋は、宿舎の談話室になるそう。丸々一棟の宿舎に、今回集まってもらった患者に、寝泊まりしてもらってるんだって。
患者には、両腕、両足が無かったり、目や耳が無かったりする人もいる。怖かったらすぐ言って、と気遣ってくれるが、ここまで来て、それは無いですよ!頑張りますよ!
一連の流れを聞いたが、まず皆んな、怖がらないかを心配してくれているみたい。
その優しさがくすぐったいが、その優しさに応えたい。
島に来た赤い髪のお姉さんの綺麗な、嬉し涙を思い出す。
私、やるよ!
と、転移で連れて来られた部屋は、宿舎の談話室。
ステータス手紙を見た部屋位の広さだ。
石造りで、頑丈な建物なんだろう。
普段は置かれているだろう、テーブルやソファといった物は取り除かれ、替わりにベッドが3台と20脚程の椅子が置かれている。
治療室に変わった談話室には、島から一緒に来たお爺様達もいる。心配してついてきてくれたみたい。落ち着いたら仕事に取り掛かるんだって。
様子を見ながら勧めるらしく、まず一人目の患者さんがオルさんに付き添われて、部屋に入って来た。目に包帯を巻いてるから失明だろう。
そ、それにしてもデカイな!
思わず後ろの神殿騎士と、入って来た騎士を何回も見比べてしまった。
「ルゥちゃん、彼は見ての通り失明している。大丈夫かな?」
オルさんの声にコクコクと頷いて答えた。
モコさんが言ってたの大袈裟じゃなかった。背は勿論、肩も腕も全然違う。髪も短く、濃い茶色で、上下黒い服を着ている。もらった動物図鑑で見た熊みたいだ。
この人も魔力が強い。ここに居る人達は皆んな魔力が高いから、一応抑える魔道具を付けて入って来てくれる事になっている。
私が頷いたので、目の前の椅子に座らせてくれた。座ってもデカイな!
と、そこで気付いた。
「モ、モコしゃん、おへや暗くしておかないと、なおった後、おめめいたいよ。」
「まあ、そうですわね、それは、気付かずお恥ずかしい。」
手分けしてカーテンを閉め、漏れてくる陽の光も運ばれた布で覆って隠し、モコさんの助言により、小さな蝋燭だけを灯した。
準備が出来たので、皆んなに見守られながら患者さんの包帯をとってもらう。
現れた目は真っ白で、何も見えていないのだろう事がわかる。
目の高さまで浮き、目に手を当てる。
静かな部屋にシャラン、とピアスの揺れる音だけが響く。
この人の目は、金に近い茶色だ。
鋭い目で、周り人達を良く見れる目。
まだ色々見たいんだって、だから帰っておいで。
おいで、おいで、戻っておいでと魔力を流すと、キラキラした光が目を覆う。
光が収まった目には、さっき見えた様な茶金の目があった。今は大きく見開き、私と目が合う。
目が合う、という事は、成功だ!
やった!と、笑顔になる!
やった!やれたよ!モコさん!モコさんを見ると、慈愛の微笑みに涙を浮かべ、見てくれていた。
「良く、頑張りましたね。ルゥ様を大変誇りに思います。」
モコさんも喜んでくれてる!やったよ!ユー君!
治った人の視力確認をしている間に、私の魔力の負担の確認が行われたり、どうやってるのか色々聞かれた。
治療箇所を見ると、戻りたがってる想いが見えると説明すると、心眼が影響しているのではないかと結論が出された。
聖女達にはまず瞑想をして、心眼を開花させない事には、出来る様にはならないかも、と言われていたが、やってみせると意気込んでいた。
私は戻っておいでと、呼んであげる魔力しか使わない、治す魔力は本人負担になるようだ。という事も患者さんだった人の言葉でわかった。
だから、これから治す患者さんにも、治療を受ける迄、魔力を使わないでおく様告知された。
目の治療だけの人で、魔力が安定している人には、このまま、一度に10人の患者さんに部屋に入って来てもらう事に決まった。
視力が戻ったデカイ人は、私の前に両膝を着き、両手で手を包んで、泣きながら、何度も何度もお礼を言ってくれた。
オルさんも、サリーさんも、お爺様達も泣いて喜んでくれている。
えへへ。
このデカイ人は、タオルで目を覆い、違う部屋で徐々に明るさに慣れていく様にするそうだ。
よし!やるぞ!