2ー4 (途中〜フォース国王視点)
読み終わって、そっと水晶から目を上げた。
皆んな固まってるし、周りはシンと静まり返っている。
あれ?これどうしたらいいの?モコさん!と隣を見上げるも、モコさんも固まっている。
どうしよう、どうしよう。
と、焦っていると、触れている背から動揺を感じ取ったのか、
「だ、大丈夫ですよ。ルゥ様。
え、ええと、
女神様と、同じお名前の方からのお手紙みたいでしたが、魔力量も問題なさそうでしたし、
そ、その、あ!そうだわ!
少し早いですが、お昼にしましょう!
そうしましょう!ね、皆様!
ルゥ様も、初めてのこういった場で、緊張されていた様ですし、続きは、その後にでも致しましょう!そうしましょう!」
え⁉︎このタイミングで⁉︎
と、思ったけど、他の人達も、そうだな、そうしよう!って言い出して、結局、モコさんと2人別室に移り、ゆっくりお昼を頂いた。ケーキを食べちゃってたから、折角の王宮ご飯少ししか食べられなかった!
ーーーその頃の小会議室ーーー
ゼロの子と、モンシュリー殿を何とか正気に戻って見送った後、皆、どっと疲れたように椅子に腰掛けた。
女神様であろう方からの手紙?から受けた衝撃が凄すぎた。
この水晶でステータスを見ると、名前や年齢、職業、体力量、魔力量、魔法レベル、獲得したスキル、称号が出て来る筈だ。
え?そうだよね?手紙じゃないよね?
自分もそうだろうが、皆50歳程老けた様に見えるのは気の所為じゃないはず。
賢者の爺様なんて、ヤバイだろう。おい、大丈夫か?と、声を掛ける気力も無い。
と、そこへ、ドンドンドン!開けますぞ!と、
誰の返答も無いまま、各将軍を筆頭に、溢れかえるほどの人数が、凄い勢いで部屋に押し入って来て、一斉に喋り出す。
別室で話を聞いていた者達か...何て、ようやく働いてきた頭の片隅で思う。
デカイ図体共に、こんな人数で近くに寄って来られるのは、たまったもんじゃない。
「この部屋では狭い。そちらの部屋に移動するぞ。」
少し、現実逃避していたが、昼食後は昼寝をすると聞いている。起きる迄に話し合っておかなければいけない事は沢山ある!
「良し!ほら!立て!時間が無い!移動するぞ!」
賢者の爺様達は支えられて、大人数で一応、混乱を起こさない様、静かに大会議室に移動した。
部屋とドアが閉まるやいなや、皆、一同に喋り出す。
女神様からの信託なのか⁉︎
ステータスはどうなってる⁉︎
17年後の秋から冬がピーク⁉︎
水晶を頂けるのか⁉︎
女神の使徒なのか⁉︎
女神様からのピアスとは何だ⁉︎
ゼロの子とは何者だ⁉︎
どんな役目がある⁉︎
17年後のピークを乗り切れば助かるのか⁉︎
一斉に言いたい事を喚きだす。
衝撃的で、情報過多だったが、一番気になるのは、やはり。
開催国の王として片手に挙げ、注目を集め皆を黙らせる。
「『17年後の秋から冬に掛けて、魔物の数がピークを迎える。それに備えて、力を合わせ、乗り切れ。それが出来なければ、世界は魔物にのまれ、人類は滅亡するしかない。』
と、私はそう捉えた。
賢者方の意見が聞きたい。」
意見を求められた賢者達は、顔を見合わせ、代表して、最年長の賢者、聖霊島のデンウィーズ殿が答えた。
「儂もそう捉えます。17年後のピークを乗り切れ。乗り切った後、何があるかは分かりかねますが、初めて救いを見た気が致します。
ピークを乗り切れば、何かしらの影響で、深淵の森が静まり、魔物の大量発生が収まる。」
そこで、一旦言葉を切り、静かに語り出す。
「確かに、あの子は産まれ方からして特別です。
そして、女神様から何かあの子に必要であろうと、ピアスが送られる。
あの子の特殊な魔力の器に、魔力を貯めろと仰る。
だが、忘れないで頂きたい。
女神様はこうも仰られた。
『他の者も、其々できる事をし、皆で力を合わせて乗り切れ。』
と。
あの子の小さな肩に未来を背負わせないで頂きたい。
過剰なプレッシャーを掛けないでもらいたい。
確かに、魔道具の発想は我々の助けになる。
だが、考え、作り上げていくのは我々大人達だ。
あの子の事だ、今迄通り過ごしていれば、新たな魔道具は生まれる。
あの子には、女神様から言われた様に、魔力を貯めるのを第一にしてもらった方がいいと、儂は思う。
ミュラージェット様も貯める様に仰られていた。
それが、あの子がしなければならない大事な事だと思う。
お願いします。
あの子には島で今迄通り過ごして貰いたい。
今迄の流れが一番皆の為になっていると思う。」
深々と頭を下げて願い出ると、他の賢者達も揃って頭を下げる。
と、いう事は、賢者達の総意思だ。
感情移入も多少あるだろうが、賢過ぎる頭で考えた結果、今迄の流れが最適だというのが、導き出された答え。
他の王と目が合う。
軽く頷き合う。
思う事は皆同じだ。
「我々も同じ意見だ。」
そして、この部屋に集まる者達を見渡し、
「皆、聞いていた通りだ。ゼロの子にはゼロの子のやるべき事がある。
ゼロの子には聖霊島で今迄通り過ごしてもらい、我々には我々にしか出来ぬ事を、17年後に向けて、力を合わせて乗り切ってゆこう!
意義のある者はいるか⁉︎
今、申し出よ!」
騎士達は、幼な子に頼っては恥となる!
これからもっと鍛え、守り抜いてみせる!
と、意気込み、魔道具開発部も、生活魔道具から武器魔道具に応用出来る物があるかもしれない!
水晶はどの様に使う⁉︎
と、普段は同じ魔道具でも、生活と、武器。畑違いな事もあり、一緒に仕事していなかった者達も、協力し、意見を出し合っている。
その様子を見て、少しは女神が望んだ形に近付いただろうか...と、王や賢者達は思った...。
それから、昼寝から起きてきたゼロの子と、お茶をしながら、慣れ親しんだ賢者達と自由に話して貰った。その方が島での自然な姿を見られると思ったからだ。
そして、1人の島の賢者が、初めて島から出て、何か思った事はあるか尋ねた。
「んとねぇ、はじめてみる、きや、はながあってしゅごいとおもった。
あとは、ケーキのいちご、すごくおいしかった。
あとは、あとは、
てんそうまほうじんに、わたしのまりょくちゅかったら、もっとちゅかいやしゅくなるかなっておもった。」
「ん?転送魔法陣にかい?どうすればいいと思ったの?」
「んと、んとねぇ、まりょくいっぱいちゅかうって、いってたでしょ?
わたしのまりょくちゅかえば、もっとふやしぇるし、たくしゃんちゅかえるようになると、おもったの。
しょうしゅれば、こっちでふえたまものを、よゆうのあるところから、しゅぐ、たしゅけにいけるでしょう?ひゅんって。
モコしゃんが、1つでも、とりでをおとしゃれると、みんながたいへんだっていってた。」
だから、落とされない様に、ヤバい所に余裕がある所から直ぐ増援に向かえば、助かる可能性も高くなるかなって思ったの。
そう、伝えられ、わかった考えてみるね。と、賢者が軽く答えているが、それが実現出来れば凄い事だぞ!
興奮を隠し、聞き役に徹する。
後は何かある?って聞かれ、島の聖女達に言われた事を思い出した様だ。
「んとねぇ、とりでにいってる、しぇいじょしゃまたちが、うでとか、あしをなくして、たたかえるのに、たたかえなくなったしとが、たくしゃんいて、かわいしょうっていってたの。
なおしてあげたいって。」
私、たぶん、治せるよ。
ーーは?ーー
ガタンッと、大きな音を立てて、騎士達が立ち上がり、ゼロの子に凄い勢いで近付いていく!
おいっ!いきなり5人の大きな騎士に、本当かい⁉︎って詰め寄られて、泣きそうになってるではないか!
ガーナが冷めた視線で落ち着くように言ってくれた。幼な子の様子を見ろと。騎士達が、氷の眼差しで我に返り、ごめんねって椅子に座ってから、モンシュリー殿が、
「大丈夫ですよ。
このお兄さん達は騎士様ですからね、身近に手足を失い、志半ばに、前線を退かなければならない、お仲間がいるのでしょう。
私の兄も、目に毒を受け、命を預けあった仲間を置いて、家に帰って来なければなりませんでした。
家族には平気な顔を見せておりましたが、体が元気な分、一部の傷で戦えないというのは、さぞ、悔しかった事でしょう。」
モンシュリー殿ぉ〜!ゼロの子が一番懐き、頼りにしているの分かるよ!
先程のステータスという手紙の時も、王である我等より先に正気に戻り、ゼロの子のフォローにまわっていた、その手腕、頼りになります!
「ルゥ様は、ご自身の意思で治して差し上げたいと、思われているのですね?」
「あい。てや、あしがないのはかわいしょう。
でもね、あのね.....」
「はい。」
「あの.....、
いちどは、てとかなくして、こわいおもいをしてるでしょ?
こわくて、もうたたかいたくないよ、ってしとには、むりしてほしくないなっておもったの。」
「まあ、それはそうですね。良く、お気付きになりました。治りたいと思う人の意思に任せますので、そこは、このお爺様達を信じましょう。お爺様達も、ルゥ様が大好きですから、ルゥ様が嫌がる事は決して致しません。
ですよね?」
幼な子の心遣いに感動していた賢者達は、首をぶんぶん上下に動かし、勿論だよ!そこは任せなさい!と、答えていた。
ゼロの子から語られる可能性に色々突っ込んで話が聞きたい!
表情や態度には出さないが、本当にそんな転送陣の使い方、出来るようになるのか⁉︎
あいつも、あいつも、体が元に戻って、また一緒に戦えるのか⁉︎
もう、内心は大荒れである。
でも、相手は2歳児だ。落ち着け。
「ね。お爺様達も、こう仰ってます。
必ずや、ルゥ様が望む転送魔法陣を完成させてくれますし、嫌がる人に無理強いする事など致しません。
ルゥ様が、皆を思って考えてくれた事、皆分かっていますからね。
ご成長されました。すっかり、お姉様になられて。
でも、これだけはお約束下さい。
治療に当たる際、酷い傷を負った者達が殆どです。会ってみて、やっぱり怖いと思ったら、直ぐこのモコに伝えてくれますか?
先程のルゥ様が仰った事をそのままお返しします。
怖くて、やりたくないなと思ったら、無理をしてまで治療してほしくありません。
お約束出来ますか?」
もう、これ、モンシュリー殿に全て任せておけば大丈夫だね。
何だろうね、この安心感。
その場と、話を聞いていた大会議室の一同、同じ事を思った。
恥ずかしくも、我々は、目先の利益に焦り、2歳児のメンタル面を全く考えていなかった。
それからは、和やかに会話が進み、夕方帰る時が来る。
今迄沢山の会議や面会をして来て、こんなにも感情が動いた事は無かった。
残ったのは、大人に幼な子が見せてくれた、初めての希望。
これを、どう生かすかは大人の仕事だ。
700年近く続く魔物との戦いが、いよいよ終盤を迎える。