1ー10(モコさん視点 前)
皆様御機嫌よう。
私は神殿にて、各国にある神殿支部との連絡役を務めておりましたモンシュリーと申します。
此方の聖霊島は、生命の母、聖霊樹があり、遥か昔から薬草作りが行われ、主に全世界への薬の生産、出荷が行われております。
もちろん各国でも薬師がいて、ポーション等を作っておりますが、この島でしか育成しない草花、聖霊樹から落ちる葉や、聖霊力が宿る湧き水もある事から、自然と薬師が集まり、育成、生産、研究が行われたのが始まりです。
なんて言ったって聖霊樹のお膝元ですからね、常に様々な草花や果物、作物が瑞々しく咲き誇っています。
透明度の高い広大過ぎる湖には、多種多様な魚が泳ぎ、高く、巨大な聖霊樹からは、大地に命の輝きが送られ、豊かな聖霊樹の葉から、霊気がキラキラと飛び出し、それはそれは美しい光景です。
聖霊樹自体常に、薄っすらと白銀に光を纏い、陽が沈むと発光する草花や、泉周辺の光苔、月の光を浴び、色んな色の光る胞子が舞い、ナノが姿を現し、ゆらりふわりと空中を泳いでいるような様子も見られます。
聖霊樹のお膝元という事もあり、大地は常に命溢れるように淡く輝き、言葉では表現できぬ程美しい、幻想的な光景が溢れます。
なので、夜でもこの島は真っ暗になる事はありません。
ここで少し、昔話を致しましょう。
元々、私は5つある国の一つ、エルシア帝国にある貴族家の出身でした。尊敬出来る父、愛を常に与えてくれる母、父を支える為に勉学に励む長兄と次兄。そんな家族や国民を守る為、剣術と魔術を学び、騎士になった三兄、四兄と、弟2人。
貴族としての義務の元、それぞれが自分の責任を果たした。でも、
その中、姉はチヤホヤされ、守られ、与えられる事が当たり前と思っている困った人でした。
侵略戦争や増え続ける魔物との戦いが300年程経ち、戦い続けた結果、少しづつ魔力が増え、寿命は伸びましたが、その弊害に、女児が産まれにくくなっています。
元来、男児の方が魔力の器が大きく産まれるからです。
今では女児の出生率は3.5人に1人の割合。
だから、産まれた女児は大切に可愛いがられて育ち、その結果、我儘になっていってしまったのも仕方ないと思います。
そういう私も大切に育てられました。
でも、家庭教師から教わった歴史、女子学校で聞こえる前線の状況。
亡くなった人の事。
忙しい父や兄達の様子を見て、自分も母と同じ様に家族を支えたいと思ったのです。
母は、国と領地、他領との関係に忙しい父と兄達の補佐をし、細々とした事をカバーしておりました。
前線に行っている兄達の心配もしながら、少しでも領地が良くなるよう心配りをしていたのです。
女性が少ない為、3人から4人と結婚する一妻多夫政が主流です。私にも、幼い頃から親に決められた婚約者が3人いました。
1人は王宮に勤め、2人は騎士。
幼馴染の様な関係に育ち、仲はとても良かったです。
いずれ結婚し、家庭、領地を支える為に母の元でたくさんの事を学ばせてもらいました。
やがて、2人の弟達も騎士学校の訓練を終え、魔物討伐の為に前線の砦に向かい、姉以外の家族は、偶にしか逢えませんが、己の責任を果たす為にそれぞれ頑張っていました。
そんな時、砦に向かったばかりの一番下の弟の訃報が届いたのです。
哀しんでいる暇も無く、すぐ、前線にいた2人の婚約者の訃報も届きました。
弟と、婚約者達のいた場所が強力な魔物が数多率いる群れによって集中的に襲われたそうです。
数の暴力により、聖結界も破られ、そこに居た極僅かな人数を残し、全滅。
遺体もかえってきませんでした。
あまりの突然の3人の訃報に家族皆が、暫く立ち直れないほどでした...
弟は甘えたな末っ子で、領民や家族に愛されて育ちましたが、笑顔の傍ら、皆んなを守る。と、小さな頃から剣を握り、上の弟と一緒に、兄達や領地の騎士に修行をつけてもらい、傷を作っては薬を塗って励ましていました。
甘い物が好きで、野菜が苦手。冗談を言っては、いつも笑わせてくれる明るくて優しい自慢の可愛い弟。
なのに...
何故...
婚約者2人も、小さな頃からの長い付き合いで、なんでも話し、お互いの事をなんでもわかっていました。
共に笑い、喧嘩をし、悪戯をしては一緒に怒られ、将来の夢についても4人で熱く語り合い、そんな未来がいつか来ると信じていたのに...
そして、弟達の死から5年の間に、4番目の兄が目に毒を受け、家に帰ってきました。
毒を受けて直ぐだったら毒消しポーションで治ったそうですが、兄がいた部隊のポーションが切れていた為、治療が遅れたそうです。
その為治療までに時間が掛かかり、結果、前線で戦える程の視力は失われました。
帰ってきた兄は命があっただけでもと、言っていましたが、その時の私は、
何故、前線で人類の為に戦っている人達のポーションが足りないのかと、憤りを感じてしまったのです。
続けて、王宮に勤めていた婚約者が心臓の病に倒れました。
病気はポーションでは治りません。
薬でも効果が無かったので、聖女様にお縋りするしか助かる方法は無かったのです。
聖女様方は前線でも活躍しておられますが、力の弱い聖女様は国の要請を受け、国中を癒して回られてもいたのです。
動けない婚約者に変わり、助けを求めに行きました。
その際にポーションの事を聞いたのです。
聖なる島で作られるポーションも、効果は高いが
作るのに手間も時間も掛かり、需要と供給が追いついていないのが現状なのだそうです。
聖女様のお陰で婚約者は完治しましたが、王宮職を退き、領地に療養の為に戻ってきていたので、聖女様から聞いた話をし、2人で何か出来る事は無いか話し合いました。
その後、国に病気の完治と、聖女様の言葉を報告しました。
自国や、他国の知識人に国から声を掛けてもらい、他国も交えて話し合った結果、一度島に赴き、改善出来るところが無いか見てこよう。という事になりました。
悪意ある者は退けられ、必要としている者は誘われる。
島からは聖女様始め、薬やポーションを運んでくれる転移に長けた島民は出てきますが、逆に安易に入島しようとする者は居ませんでした。
この世界全ての生命の親、聖霊樹があり、踏み入れるのは恐れ多い土地だからです。
知識欲求に駆られた薬師は別として、要求を果たすという理由は受け入れてもらえるのか不安でした。
意を決し、志を同じくした知識人各国代表10名の、計50名で挑んだのです。
湖は恐ろしい程透き通っていて、広大な湖を渡るのに、船で何日掛かるかわからない不安もありましたが、何故か半刻も経つと水平線上に巨大な木が見えて来たのです。
あの時は本当に驚きました。
正に、人知を超えた力で我々は認められ、誘われたのだと一同感劇致しました。
そこで見た光景はある意味忘れられません。
神々しく聳える聖霊樹。
あまりに神々しいお姿に涙を流し拝みました。
見た事も無い草花、これまた見た事が無い薬草畑。
そして、半袖半ズボンでサンダルを履き、薬草に話しかけている白衣姿の男達。
事情を説明し、神殿に招待され目の当たりにした現実。
まあ、驚く程に薬草第一の生活力皆無の集団でした!
あの時は本当に神殿に残っていた聖女様方がいて助かりました。
薬師の方々まず、薬草の事ばかりで、お話が通じない!
優秀なのは間違い無いのですが、この方達とご一緒に生活されている聖女様方にご同情してしまいました。
それから私達50名と、話の通じる聖女様方と問題点と、改善点を挙げ、怒涛の勢いで梃入れさせていただきましたわ。
まずは圧倒的な人員不足。
これをどうにかしないと話になりません。
薬師は沢山いるんですよ。
この優秀な方達に仕事してもらう為に、各国と連絡を取り合い、薬草育成、運搬、生活部門の人員と共に、向上心の高い直接的な補助をしてくれる見習いを、人材育成も兼ねて募集を掛け、今の形になったのです。
補助体制を作った事により生産数が劇的に増えました。
残った問題点はスムーズな運搬。
でも、そこは各国代表の頭脳集団。
上位闇魔法の転移と空間を応用し、20年の歳月をかけて遂に転送魔法陣を作り挙げました!
私は、発案者と言う事で同行しただけの普通の人間でしたが、何か力になりたいとサポート役に徹し、母の元で培ってきた経験が生かされました。
転移が使える者が一緒に居ないと起動出来ませんが、これにより薬や手紙のやり取りがスムーズになったのです。
一緒に来た50名の内、半数が島に残り、各国との連絡役、財務、管理を担い、残りの者達はそれぞれの国に戻る事になりました。
戻った者達により各国に神殿が作られ、そこに転送魔法陣を置き、私達との連絡役をする事になり、やっと、供給が追いついてきたのです。
これで助かる人達が増える。
家に、亡くなった婚約者の代わりに新たに婚約者を迎えろと、縁談を申し込まれているのを知っていました。
ですが、あの2人の代わりはいりません。
私と婚約者は家族とも相談し、籍を入れてから聖霊島に移り住んだのです。
それから約400年。
子供達も巣立ち、美しい島で夫と愉快な同僚達に囲まれ生活していました。
そんなある日の夜、聖霊樹が昼間かと思う程に眩く光り輝いたのです。
こんな事は今迄に無かった為、光が収まった後に急いで騎士と知識人達と異常を確かめに行くと、泉の中心に大量のナノが集まった場所があり、
ーーーそこに赤子のルゥ様が居たのですーーー