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8 リアムの呟き

「俺は何で、雑貨屋に過去を話したんだろうな……」


 最近の俺が自分でもよく分からない。

 貴族の次男坊として生まれ、跡継ぎの兄や生まれた国を支えられたらと騎士になることにした。




「あいつ、貴族だぜ?」

「ははあん。コネで入団したのか?」


 見習いは実力で免除されただけだ。入団及び昇格試験はちゃんと受けている。

 相手にする必要もないのだろうが、後々を考えるなら、悪い芽は早く摘み取るに限る。


「うるさい。文句があるなら、俺に勝ってから言え」

「生意気な奴め!」

「騎士の流儀を教えてやろうぜ」


 剣技のみで難癖つけてくる奴らを叩きのめす。魔法を使わず黙らせるのを美学としていた。

 まだ十代だったし、若気の至りだと思いたい。今思い出しても恥ずかしいが、なめられたら終わりだと尖っていた。


 実力を分からせれば手っ取り早く序列はハッキリし、俺をコネ入団と難癖つける奴らは減った。




「リアムは魔法も扱えるんだろう? 強過ぎだぞ?」

「鍛練しているからな」


 そのうち認めてくれる仲間も増えたが、堅物、生真面目、よくそんなレッテルを貼られた。まあ、実際そうなんだろう。


「たまには飲みに行こうぜ?」

「新しく出来た店に、とびっきりの美人がいるんだ」


「遠慮しておこう」


 すかしたガキだったもんだ。





 だが、昇進していくと俺の意識も変わった。


「リアム先輩、飲みに行きましょうよ~」

「ああ。今度の給料日に連れて行こう」

「やった~。ただ酒だ~」


 部下という存在を知るため、円滑に任務を遂行するため、自分以外に時間を使うことを覚えた。


 賑やかなのも悪くない。自身に余裕ができ、立場が俺を変えてくれたのだろう。すかした貴族のボンボンから騎士らしくなったもんだ。


 だが、それは過信だった。部下のことを知った気になり、自分も副隊長になり成長した気でいた。




「あんたも不幸になればいい」


 ダンの婚約者の言葉を引きずったわけではない。女に現を抜かすより、これからも部下とコミュニケーションをとり、鍛練をする時間が必要だと思っただけだ。

 騎士として、これ以上零れてしまう生命がないよう守るだけ――




 だが、二月前に出会った女は不思議な人間だった。その姿を見つけた瞬間、目が離せなくなった。


 小動物のようにキョロキョロし、隠れているつもりなのだろうが丸見えだ。声を掛けると、その瞳をより大きくして驚いていたな。


「私は大通りで魔法雑貨屋『天使のはしご』を営んでいます。お客様は今日お店にお連れしますので、何かありましたらお知らせください」


 どうやら、雑貨屋の店主は客の女性が心配で様子を伺っていたらしい。


 危ないではないか!




 二回目に会った時も、背伸びをし足をプルプルさせながら覗き見をしていた。鞄も足元に起きっぱなしだし、盗まれたらどうする?


 油断のし過ぎではないか!


 普通なら怪しい女だし職務質問するところだが、雑貨屋の店主は悪事を働くどころか、犯罪に巻き込まれそうな勢いだ。


 放っておけないので声を掛ける。どうも、またもや自分の店に来た客を心配して後をつけて来たらしい。

 さすがに二度も覗き現場を見られ、気まずいのか足をヨタヨタさせながら店に帰って行った。


「なあ、レイ。あんな商売人、なかなかいないな」

「そうですね。私もあの方のように、使う人を思いながら製作したいと思いましたよ」


 雑貨屋に感化されほんわかした師匠と弟子は、先ほどまでとうって変わってやる気に満ち溢れている。

 そうだな。説明不足だからと客を追いかけてくる執念は、俺も見習うべきだろう。


 ただ、あんなことばかりしていては商売にならなそうだし、これからも危険に巻き込まれるのではなかろうか?


 気になるではないか!



 お人好しですぐ店を離れてしまう雑貨屋が心配になり、俺の足は『天使のはしご』がある方面に向かうようになっていた。



 上客とも言えなさそうな姉妹をニコニコと見送り、俺にまでオマケをくれたりして思わず嬉しくなって笑ってしまった。

 あの柔らかな雰囲気にあてられ、こちらまでニヨニヨしてしまう。





「隊長、これからよろしくお願いいたします!」

「ああ、励め。早く騎士になれよ」


 ロイという良い人材を見習い騎士にできたのも雑貨屋のおかげだ。隊長として感謝している。

 共通の話題もできたし、『天使のはしご』に顔を出す理由が増えたな。


「隊長~。最近、大通り方面の見回りが増えてないっすか? わざわざ隊長が出向かなくてもいいのに」

「いや、少しばかり気がかりがあってな」


 案の定、雑貨屋はまた危険に首を突っ込んでいた。なぜか店を離れ、野良猫と話している現場を押さえた。

 しかも、放火魔を炙り出そうとしているなぞ――


 放っておけないではないか!


 しかも、セルマと名乗った彼女は――


「私には前世の記憶があります」


 ダンと同じ元日本人だった……。日本人って奴らは、なんて良い奴ばかりなんだ!?


 俺のように騎士として勤めるのもいいが、セルマのような人助けの方法もあるのだな。

 凝り固まっていた心が解れていく気がした。胸の奥が温かいというより熱い。



「俺はセルマに惚れたのか……」


 だが、ダンの事が脳裏をかすめる。足枷にはしていなかったはずなのに……。


 それでも俺の重い足は、『天使のはしご』の方へ向いていた。




「!? また何かに巻き込まれているのか!」


 俺は全速力で『天使のはしご』に駆け出した――

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