知らされた目的
「勇者よぉ!ぉお前には、世界を救ってもらわなければいけないぃ!」
巻き舌の王様は大袈裟にそう言った。
「あれを持てぇ……」
昨日と同じく謁見の間と呼ばれた部屋。
飾り付けは昨日よりも少ないが、それでも装飾華美だ。
王様が何かを命じると、執事のような燕尾服を着た人が紙を数枚持ってきた。
「勇者よ……手短に伝えよおぅ!其方はこの世界を救うために召喚されたぁ!」
巻き舌の言うことは、まさに荒唐無稽の話だった。まあ、昨日のリリアンの話よりは面白い。
曰く世界の終わりとそれの対処法を示す333の書、『終末大全』と言うものがあり、それにはタイトルの通り人類の危機が示されているらしい。
何世紀も前からこの書に示されたことに従うのが王政の慣例となっていたが、数百年前の暴君がそれを「馬鹿らしい」と一蹴したその年に、未曾有の大事件が起こり人類が半数となった。
その出来事が起きてすぐにその本に従うことで人類の絶滅は避けられたが、その出来事は人類史に深い深い傷を負わせた。
それからというもの、この書に書かれていることは絶対。従わないのはもはやあり得ないそうだ。
そして今回俺が呼ばれた理由は、簡潔に言うと魔物との大戦争。
驚くべきか笑うべきか、この世界には魔物が存在しているらしい。
ともかくそれに対抗するために、勇者を定期的に召喚し、世界の命運を託しているということだ。俺以外の勇者もごまんといるらしい。
……この設定、なんか知ってるぞ。
そうだ、ここに来る前に読んでいたあの本だ。
それを王に話すと、こう言われた。
「この世界に来る前にぃ、説明書として設定された本を読んだのであろうぅ……」
説明書。
なんだか節々の設定がドッキリにしては爪が甘いし、ぼんやりしたことしか言わないな。
しかし、王様は俺のそんな考えを見抜いたのか、これまでの勇者の対応で慣れていたのか、一人の従者を顎で命令した。
その従者は俺の前に出て、先程王が持って来させた紙に手をかざした。
「これはとある植物を魔力を込めた槌で叩いて作られた特殊な紙です」
そう言い、その従者は何か力を込めたように息を吐いた。
その瞬間、うっすらと光が彼を包んだ。
光の粒が漂う。規模はこれよりずっと大きいが、あの図書館の本と同じ光だ。
するとその従者は紙から手を離し、見せてきた。
それにはあまり濃くはないが、赤い十字架のようなシミが浮かび上がっている。
「これは回復印の赤十字です。ご覧に入れましょう」
そう言い、彼は懐からナイフを取り出して自分の手に平に、俺に見せつけるように一線切りつけた。
彼の手のひらに赤い球が浮かび上がる。すぐにそれは赤い線に変わり、張力に耐えきれなくなったのか、雫として垂れ出した。
従者が痛みに顔をしかめる。
「な、何してるんですか!?」
俺は目の前の男の行動に驚き駆け寄ろうとした。
しかし、余裕そうにその男は指を振り唱えた。
【治療】(リジェネ)
すると、先程とまた同じ光の粒が彼の手を、怪我をした方を包んだ。
みるみるうちに彼の開いていた傷が閉じていく。
光が消えることには彼の手からは傷のようなものは全て消え、血の汚れしか残っていなかった。
「私は魔力が少なく魔法は不得手なのでこのくらいの傷しか治せませんが、このように私の適正は回復系統が得意な魔法使いです」
目の前の従者は切れかけた息を整え、そう言いながら、手をハンカチで拭った。
やはりその手には、先程つけたはずのナイフの切り傷は無くなっていた。
そして従者は、俺にも一枚その紙を渡してくれた。
「少し力を込めるように押し付けるだけでいいので」
そして少しの説明を受ける。
この世界の人達は皆、魔力の形質によって自分の武器や職業、スキル等の“適性”を、この方法で判断するそうだ。
さらに、勇者として呼ばれた人間は剣士、戦士、弓兵の適性が多く、濃く浮かび上がるという。
しかしあくまでこれらは魔力の形質によって出される“適性”であり、出た結果と違う職業を選択し大成した者も何人もいるらしい。
だがなぜか勇者は、どの職でも【特殊職業】と呼ばれるカテゴリーに分類され、適性以外に転職しようとしてもうまくいかない、半ば呪いのようなものがあるらしい。
しかし、その分他を凌駕する強力な武器や魔法と惹き合うという。
「さすがにワクワクしてきたな……」
目の前で見せられた信じられない異能の力。元の世界では聞いたこともない職業の概念。
ゲームやファンタジー好きの俺としては、興味を惹かれない方がおかしい。
手をかざし、言われた通りに力を込める。
「勇者様ならば、すぐに浮かび上がります」
安心させるように目の前の従者が語りかけてくる。
力を手に集めるイメージで……
するとふわり、と視界の中で何かが舞った。
そう思った瞬間、溢れるように手から光の粒が出てきた。心なしか先程見たものよりはくすんだ色に見えたが、これも適性による違いだろうか。
かざした手のひらの隙間から何か模様が見えた。