意も知れぬ歓迎
「ようこそ勇者様!よくぞおいでくださいました!」
突然の歓迎の声に我に帰る。
紺色のローブを目深に被った男たちに囲まれている。
皆一様に喜びの雰囲気を纏っていた。
「ここは……?」
レンガ調と言うのだろうか、赤みがかった壁に石畳。
先程までいた図書館は……?
あの変な光りはじめた本は……?
ここは……どこだ?
そんな疑問が頭の中を巡る俺を無視して周りは祝福ムードだ。
「さあさ勇者様、どうぞこちらへ。突然の転移魔法のご無礼をお許しください。ですが、今宵は出せる限りのもてなしをご用意いたしました。どうかごゆるりと堪能くださいませ」
俺を囲んでいた中でも、一番歳をとっていそうな老人が語りかけてきた。
「説明は後ほど……ささ、お立ちください……」
言われるままに着いていく。
着いていっている俺の後ろを、ローブを着ている人たちがゾロゾロと着いてくる。
ちょっとした大名行列のようだ。
それにしても古めかしい建物だ。俺程度にするドッキリにしては手間がかかりすぎている。本当になんなんだ?ここは。
「ここが謁見の間です。王とご挨拶を……」
そう言い、目の前の男は装飾がやけにきらめく重めかしい扉を開けた。
「ぃようこそ我が城へぇ……我こそはディアルロイ=マックール8世だぁ……」
そこには重厚な飾りものがズラリと並べ立てられ、騎士のような甲冑を身につけた者が並んだ広間の奥に、やけに貫禄のある男がこれまた金やら銀やら宝石やらで飾りつけられた大きな椅子に座っていた。
というか巻き舌が凄い。低い声がより通る印象だ。
「ン勇者よ……聞きたいことはあるだろう……言いたいこともあるだろう……しかぁし!今は我らのもてなしを十二分に!楽しんで欲しいぃ……ものどもぉ!!」
威厳を表すためか、蓄えた髭を震わせ、王と呼ばれた男が号令をかける。
するとその瞬間、いくつもあった出入り口から手押し車のようなものを持った料理人やメイド姿の女性がゾロゾロと入ってくる。
「さあ勇者よぉ……存分に楽しむといい……」
そう言い、王様は重そうなマントを引きずり、護衛のような人間を引き連れて部屋から去っていってしまった。
「勇者様、どうぞこちらに」
王様が出ていくのを見ていたら、隣にメイドの一人が立っていた。
「わたくし、勇者様の身の回りのことを務めさせていただく、リリアンと申します。なんなりとお申し付けください」
「え、あ、はい……」
メイド服姿のリリアンと名乗る女性。女性にしては長身、切長の目に高い鼻。モデルのようだ。実際メイド服の上からでもわかるぐらいスタイルが良い。
そんな美人に突然話しかけられあいまいな返事をしてしまう。
そして案内されるがままに席に着く。
「こちら、シュクメルリ湾のアサリの酒蒸し、こちらはバネッサ地方で収穫された馬鈴薯のコンフィです。他にも気になる料理があるなら気軽に申しつけてください」
丁寧に料理の盛られた皿を目の前に並べられる。
聞いたこともない地方名を出されるが、全て鼻腔をくすぐり食欲をそそる良い匂いだ。
「いただきます……!」
ドッキリだとしてもなんだとしても、これは食べなきゃ損だろう。
そんなことを考えながらフォークに手を伸ばして食事を始めた。