適任者
私は今日も工場で働く。沢山の輸送トラックが私達の出番をいつかいつかと待ちかねている。
【かって】トラックからは《モ〜モ〜》と鳴き声が響き、旅の疲れで口の周りが泡だらけの牛達が怯えて待っていた。
そんな牛達を急かし脅し叩きなだめ、仕事現場へ誘導する。
牛達が仕事現場に辿り着くとそこでベテラン、同僚の出番だ。
同僚は牛が一瞬他に気がそれた瞬間に牛の眉間にキャプティブボルト(屠畜銃)を打ち込み、失神させるのだ。
そしてガクンと前足が折れ失神した牛の喉を掻っ切るのが、私の仕事だった。
喉元を切り、出血死させ、前足の踝部とツノを電動ノコで切断して血抜きをする。 肛門を切り、内臓が身体から外れ易い様にする。
ここでやっと牛達は死ぬ事が出来るのだ。
首を落とされ皮を剥がされ逆さまに吊り下げられた牛達は、正確無比にベルトコンベアで運ばれていく。
そんな仕事をしていた私が、我が【独裁共和国】に適材適所の職場に配置移動させられた。
牛の解体工場で囲まれていた、内臓を抜き皮を剥ぐ工程でのあの臭い、、今は更に酷く臭い職場だ。
そこで私は黙々と与えられた仕事を実行していく。
頸動脈にザクリ、ザクリと刃物を突き立てていく。
そんな時に突然ゴロンと他工程から何かが落ち、足元に転がってきた。
見ると我が【独裁共和国】に征服された【民】の、血汚れた生首の感情を失った黒眼が悲しく悲しく私を睨みつけているのだった。