椄敵(4)
2つの話を3群娘達に話し終わった後、シリカさんが、口を開けた。
「その連合のヴァルキュリアに関しては、まだ続きが有るのだが、話は少し遡って始めさせてもらうよ…」
そう、私に預けられた部隊はまだ訓練中のひよっこと言って良いようなもので、指揮している私自身も初めての掌握する規模の部隊、というものだった。
そして、訓練に明け暮れて一月も経たないうちに、例の召集がかけられた。やって来たことは、集団戦の基礎。統率と多対1に追い込む、それ以上の訓練はしていない状態だった。
それでもメンバーの士気は高く、実戦への意気込みの方が恐怖心よりも大きかった。
百人隊の歩兵をつれて戦場に向かう我々は、補給部隊と交戦中の連合歩兵を見付ける。その時点で私は前線が破れたと思ったんだ。
敵の騎兵を警戒して、体制が整ってから救援に向かった。いつ敵の騎兵が現れるかびくびくしながら。
実際に戦った連合の歩兵は、軽装備の上数では押していたが、疲弊の色が見えていた。騎兵と歩兵で押して行って補給部隊の救出は行えたが、必死の相手の抵抗に騎兵を5名、歩兵を25名も失っていた。
補給部隊の方は全滅の一歩手前で持ちこたえてはいたが、死傷者8割では今後の任務も危うい状況だった。部隊の指揮官は戦死しているので、次席に状況を確認するがらちが明かない。
彼らは急に襲ってきた事態に対処するだけで手一杯だったようだ。騎兵の15騎と歩兵50名を残党狩りに出させ、残りは戦場の後片付けに移る。
捕虜の尋問を行うと、山から来た以外は内容が噛み合わず、らちが明かない。そんな時、掃討に向かった騎兵の一部が戻ってきて連絡をいれてきた、峠から敵兵が降りてくると。
その時私は、大軍が降りてくるものだとばかり思ったんだが、数名単位で増えている程度様だ。尋問の仕方を変えて山道の状況を聞き出すと、そこそこの難所のようで、かなり体力や精神力を消耗する行軍なのと、そんなに大人数では通れない、と言うことが聞き出せた。
いまのような状態の歩兵を相手にするならは、数が揃わなけれどうにか成る。それに武勲を上げるチャンスだと。そのまま、包囲殲滅して峠を封鎖するように動くと、思った通りに事が進んでいく。
この時、こう思った、天は我に味方せりって。
でも、ここまでだったんだ。もうひとつ西側の峠からも敵の姿が見え出したときには、なぜ確認をしておかなかったか、自分の落ち度に腹を立てたよ。歩兵を残し、騎兵の15騎を連れて西側へ向い。途中敵兵の阻止に会うが、蹴散らせながら峠の入り口に向ったんだ。
5騎を降ろして、峠に追随させ残りは周りの掃討に向かわせ、敵を排除しながら峠の出口まで一気に登り詰める。伏兵で2名が倒れたが、出口を抑えることに成功した。
これで後は出てくる敵を抑え込んでいれば、負けはしない。初めはバラバラと出てくる敵を討っていたが、そのうち数名で纏まって突破をはかって来るようになったんだ。数回の波状攻撃には耐えたが、このままでは数で最終的には押される可能性が高いので、カーヤが提案した前に出て相手に不利な場所に陣取り、一対一で交代交代に戦うことにした。
そして、そこで来る敵を切り結んで戦い続けたんだ。やがてカーヤは倒した敵に足を捕まれ、一緒に谷底に落ちてもう一人も致命傷を負ってしまった。
後は、私一人で対処をし続けるしかなかった。ただ、重い剣を上げて叩き込む。それを果てしなく繰り返していたんだ。
初めは、掃討に向かわせた味方が何時来るか、と思いながら剣を振るっていたけれど、途中からは頭が真っ白になってただ戦っている自分がいた。
時間の感覚もなくなり、幾人の敵を倒したのかもわからなくなった頃、背後から声が聞こえたんだ。それが、連合国語だって理解するのにさして時間は掛からなかったよ。
本来だったら、戦線が破れて背後を取られた、とでも認識すべき状況なのだろうが、その時の私はやっと終わる、という思いが先に浮かんでいたんだ。
やがて、峠からもそれに答える声が返って行った時、後は挟まれて終わりか、と冷静に状況を見ている自分がいた。少しすると、峠側からは人の気配がなくなり、谷からは赤い鎧の戦士が登って来たんだ。
その時は、ヴァルキュリアが相手か、といった恐怖心は湧かなかったけれど、これで終わる、という確信だけが頭にあった。
相手が剣を礼に構えたとき、一撃で終わると信じてしたさ。そして、その一撃を受け流し更に次も対応できたとき、体が自然に動いている事に気付いたんだ。
この時は頭の何処かで、ヴァルキュリアと対等に戦っている自分に驚愕していたような気もしていた。そして、その後数撃打ち合ったところで、生き残れるかもという考えが過った瞬間、バサッと斬られてひっくり返った。
この時は、死ぬと言うよりは、解放された感が頭を占めて、一気に力が抜けていった。そんな私に向かってヴァルキュリアは、
「最後に戦士と剣を交えられて、光栄だ、娘よ。我々はこの理不尽な戦いから抜け出して3群にでも落ち延びようと考えている。精進されよ」
と言い残して、去っていった。止めを刺されるかと思っていたし、精進しろと言われても、もう死ぬばかりな自分に言われても、等と頭に浮かんだ考えを捕まえているのやっとだった。
その後、味方が来て手当てを受け一命を取り止めた、というのが真実なんだ。引率していた歩兵の被害は半分だったが、部下だった騎兵はほぼ全滅の有り様だったと後で聞いたよ。
入院中に部下が来ないと思っていたが、みんな側にいてくれたんだ。
傷が治ってからは、必死で訓練したし部下の分まで任務をこなしていたら、いつの間にかこの称号を貰っていたと言うわけさ。
「隊長のあの傷は、そのときのものだったんですね」
「ああ」
「あのー、その後その戦い自体はどうなったんですか?」
「結局、連合は押し切る事も出来ず、こちらも押し返せないまま1週間対峙してから、連合の撤退で終わったんだ」
「結果は双方合わせて万の単位の死者がでている。峠での数については知らないが」
「…」
「連合のヴァルキュリアも、義務を果たしたから落ち延びる事を判断したのだろう。お前たちも、今は生き延びることだけを考えておけ」
この隊長だって、初めがあったんだ。沈着冷静な今の隊長になる前の、私のような時期が。そんな安堵感を抱いて眠りにつく。