表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/7

接敵(2)

雪崩の難を取り敢えずしのいだ一行はこれからどう生き延びていくか


 当直を替わって貰ってから、起こされるまで爆睡してしまったようだ。一瞬何処に居るのか分からなかった位だから。


 時刻は、太陽が登りはじめて少しして、山合から光が射し込んでくるかどうか、といったところ。そして、焚火は目印用の煙をうっすらとなびかせている程度の火がついている。


 ニコルが促して来たので、食料の配給を行う。と言っても、3郡の馬車から摂取した食糧を分けているだけなのだが。


 3郡の娘達は、軽傷なので特に問題は無いようだ。ニコルも腕が痛い以外は平気だと言っている。問題は隊長だ。まだ、目の調子が戻らないようで、頭の打ち方が悪かったみたいだ。


 今後の方針だが、マリアンヌ達によれば馬車で来た道で、2日程戻れば村が有ると言う。ただ、馬車の通ってきた平地はこの有り様では、大きく迂回しなければ成らないのと、この雪の中を徒歩では10日掛かってたどり着けるか、だろう。


 3郡と会敵した場所に戻る、距離的には村よりは遥かに近いが、連中がまだそこにいる保証はない。


 クレス達は既に帝国側に戻って報告をしに行く途中だろうし、単独で帝国領に戻るだけでも、山ふたつは越えないといけない。そして、更に人里までだと、まず不可能だ。


 一番生存確率の高そうな策を選ぶしかないのだが、どれも留まっているよりはましと言う程度か。


 全員の生存が掛かっているので、みんなで決を採ることにする。3郡の娘には上の山で3郡の部隊と接触した事も伝えた上で、登る、留まる、下る、の三択を行う。


 全員一致で、下りを選択した、と言うかこの谷の有り様を昼間の光で見たら、それしか無いと思わせる光景だった。谷の入り口には、渦高く雪と倒木の壁ができており、谷底は根こそぎ流されていった後の残骸が積もっている有り様を目にすると、生き残れたのは奇跡的だと思わざるを得ない。


 食糧を主に使えそうなものをかき集めて、明るい内に移動を開始する。3郡の遭難者の捜索は、谷の底の方へは行けないので、この高さを維持したまま下だる範囲に限定する。3郡の娘達にも納得させて移動を開始する。


 セルシアは、時々大声で呼び掛けている。マリアンヌは、立ち止まっては目を皿のようにして見付けようとしている。夕方までの移動では生存者はおろか遺体すら見当たらなかった。ある意味、彼女達には良かったのかも知れないが、立場が自分だったら焦燥感に駆られるだろう。


 シリカ隊長の目もだいぶ回復してきたようで、明日、明後日には一人で歩けそうだ。夜、焚き火を囲んで、しんみりしそうな雰囲気の中、シリカさんが話し始める。


「私がヴァルキュリアを拝命したのは7年前の連合との戦いの時なんだ」


 そして、胸の内をさらすように語り始めた、


「私が戦姫に成って2年目、やっと小隊規模の騎兵を指揮できるように成った頃、連合の越境が有った…」


 それは、カリアルの北側で行われた大会戦に纏わる話だった。最終的には、帝国側1万5000、連合側3万に至ったほどの動員だったと言われている。帝国での5大会戦に数えられる規模の物だったようだ。


 結果と言えば、帝国側の圧勝とは言え無いが数の不利を持ちこたえ瀕死の状況で終わらせた、と言うのがあらましと教わっている。帝国では戦闘による結果は包み隠さず公開されるので、帝国側の損害は、死傷者約8000、2個兵団が壊滅したと伝えられている。


 ただ、その中でも公式ではないエピソードが流布されることはままあって、”峠の姫君”と”赤い稲妻”は、まずこの会戦の話が出た場合、必ず頭に浮かぶくらいに、切っても切れない関係だろう。


「会戦自体のあらましは、こんな感じだ。お前達は頭に浮かんだと思うが、3郡のお嬢さんがたには判らないと思うから、”峠の姫君”と”赤い稲妻"の話をしてやってくれ」


「”峠の姫君”というのは、帝国側の戦姫の話で、ってもしかしてこれって隊長のはなしだったんですか?」


「ああ、そうだ。詳しくは後で話してやるからまず話してやってくれ」


「次に”赤い稲妻"は、連合のヴァルキュリアの話になるの、’峠の姫君”、それは…」


 それは、戦姫に成って小隊の長を務められる様に成ったばかりの娘の話。カリアル北の会戦の一報が届いたとき、彼女の小隊は編成されたばかりで、駐屯地での訓練の最中でした。


 連合の浸透と圧力が想定以上に高いと感じた軍部は、近隣の予備役の部隊から、訓練中のものまでかき集めて投入する事を決定した。


 この為、彼女の部隊も含めて、カリアルへの移動の命令が下される事に成った。


 彼女達のような部隊が逐次投入されている前線では、1万の帝国戦力に対して、連合側は2万に及ぶ兵力を動員しており、帝国としては集まった兵力は逐次前線の穴に投入することで、何とか前線を維持している状況での戦いだった。


 そんな中、彼女達ユニコーン小隊(仮称としての名前だが)は、前線に向かっていた。


「隊長、後3刻位で着きますかね」


「それぐらいだとは思うが」


 地図を広げながら、騎乗の娘が答える。


「戦況はどうでしょうか?」


 隊長と呼ばれた娘の脇に馬を並べて、金髪の娘が不安そうに声をかけている。隊長と呼ばれた娘にしても、戦姫に成ったばかりで実戦経験が有るわけでもない。


 新米の部隊まで寄せ集める訳だから、不安になるのも致し方ないが、小隊全部に波及するのは問題だ。


「曹長、不安なのは解るが、判らないことに頭を使ってもしょうがないから、1名連れて伝令に出ておいで」


 白銀色の髪をした、隊長は命令を下して動かすことにする。何かしていれば気も紛れるし、彼女の知りたいこと、無論自分も知りたいことがわかるかもしれない。


 曹長と呼ばれた娘は、1 騎を連れて先行していった。隊長の騎兵小隊だけならは半刻も有れば前線に到達できるだろうが、随伴した歩兵を伴ってだと、3刻でも怪しい。


 一旦、休憩を取り体制を整えようかと考えている矢先に、曹長と伝令に出した娘が一騎で戻ってきた。


「隊長、て、敵がいます。先行している補給部隊が襲われています」


「それで、双方の規模は?」


「補給部隊は、物資を積んだ馬車5、6台と歩兵200人程度、対する敵は300は越えてえそうでしたが、軽装備の歩兵のみでした。曹長は監視を続けております」


 帝国の前線が破れたのか?それだったら、相手の騎兵が先行して来そうなものだ。遊撃だとしても軽装の歩兵だけが先行する事は考えにくい。敵の進撃の矢面には立ちたくはないが、早馬での伝令も流れては来ていない状況での判断をするしかない。


「騎兵は先行します。百人長、指示の伝令を廻すまではこのままの速度で後を追って下さい。不穏そうであれば森に入ってやり過ごしてから自己判断して」


「心配なく隊長、合流するまで追いかけますから」


「よし、騎兵は先行するよ」


 ユニコーン隊は、到着と同時に戦闘に割り込んで、敵の歩兵を薙ぎ倒していった。補給部隊の歩兵は100名程度に減ってしまっていたが、倒された敵の数は200を大きく越えるようだ。


 騎兵の半数を残敵掃討に向かわせて、状況の確認を行うと、やはり敵の装備は軽装で前線を突破してきた前衛には見えないし、そもそも騎兵が随伴していない。


 補給部隊の指揮官に状況を確認しても、その懸念は払拭できなかった。追い付いてきた歩兵と、補給部隊の建て直しを行っていると、掃討に行った数騎が戻ってきて報告をする。


「隊長、敵の待ち伏せにあって2騎やられました、曹長は敵の突出を押さえ込む形で展開しています」


 捕虜から聞き出しても、山を越えて来て部隊を襲った、以上は的を得ない。指揮官クラスを捕まえられれば良かったのだろうが、そう上手くは行かない。


 補給部隊の隊長と、百人長を集めて今後の方針を決める。


「連合の遊撃部隊が山越えをしてきているのは明白ね。ここで止めないと前線の背後を取られて総崩れになる恐れも有るわ」


「そうですね、山越えをして来ているので重装備は携帯できない、だから我々補給部隊を優先的に襲ったとも考えられます」


「百人長、意見は?」


「相手側に騎兵も無くて軽装備だけでしたら、長槍を構えて追い込むのが有効かと」


「そうですね、部隊長そちらから30名程弓兵として装備一式ごと貸していただけますか。伝令を送って補給品は前線から取りに来させるように手配しますから」


「そうですね、戦姫殿、残党と負傷者の対応もあるので半数は出してあげたい所ですが、40名連れていってください」


「ありがとう、百人長、編成と装備を調整したら直ぐに動いてください。ウルカー」


「はい、隊長」


「お前は前線まで行って、連合の遊撃の件と、補給物資を取りに来るように連絡して来て下さい。そして、前線の状況を確認してきてくださいね」


「分かりました」


と言って、ウルカは騎乗して走り去った。


 百人長は、編成を終えて横に広く展開しながら、森に入った残敵を掃討しつつ曹長のいる場所を目指す。騎兵は森を迂回して最短ルートで向かうことになる。


 谷の出口の森を半包囲する形で、曹長は部下を配置していた。


 地図を見ても、この谷に通じる尾根に道の印がある。そこを通って来たのだろうか。まずは曹長に確認からだ。


「曹長、弓は?」


「いえ、今のところは。追った先はあの森に入り込んだところで、深追いした2騎が殺られました」


「ここがそうだとしたら、後続がある程度溜まったら押し出てくるだろう。まずは、百人長に来てもらってから、押し返す体制を整えるとして、他にもないか歩兵が来たらこの2ヵ所に偵察を送ってくれ、こっちは私がまず行ってみる」


 と、指示を出してもう少し西の尾根の降り口の辺りを2騎連れて見に行く。指揮官足るもの危ないところは押さえておかないと、いつ裏を取られるかわからない。


 見上げると、切り立った崖の細い道に敵兵が列を成して居るのが遠目にみえる。


「まずいぞ、あれに降りられると」


 ここが本命で、さっき追い詰めた場所はフェイクか、戦力分散は避けたいが侵入を想定した全部が危なく感じる。


「ルメリア、曹長の所に行って想定地点のチェックを急がせて、それから歩兵が着いたらそこの地点の出口まで押し返して閉じ込めるように、あとあなたは3騎連れて戻ってきなさい、私とカーヤは先に上がって敵の先鋒と対峙しておくから、追ってきて」


「カーヤ、広いところに出られると面倒だから、山道で対峙するよ」


「はい、隊長。ただ、先行して展開している兵がいないでしょうか?」


「行けばわかるし、いたら蹴散らすしかないよ」


次回:「峠の姫君」「赤い稲妻」の完結、本編は?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ