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王都の錬金術師  作者:
第二章 北の遺跡と呪われた古城
92/136

その評価、甚だ遺憾である

 順調に物事が進んでおりますと、人間とはどうしても驕り高ぶる生き物。然るに原点回帰と申します様に初心を忘れぬと言う事はそれだけ大切な事柄である訳です。


 と言う訳で久方ぶりに憩いの我が家(マイホーム)、夜の帳亭へとこうして戻って来たのですが……やっぱりこの適度な狭さと埃臭い空気と言うものは懐かしき日々を思い起こさせ心が落ち着くものですね。


 聞き及んだ話では憂慮していたこの一角を含めた開発計画も、治安の悪化を招く風俗街などけしからん、と突然健全な良心が芽生えたのか一部の貴族派閥の猛抗議もあってか予算案が通らず頓挫したとか。


 郊外の中でも芳ばしいこの辺りで今更治安などと言われましても腹を抱えて笑う……おほん、失礼、耳を疑う理由と話ではありますが、私としましても好都合な話ではありますし私怨、暗闘なんでもござれな貴族様方の宮廷闘争にまともな理屈など求める方が無理と言うもので結果的に利する事になっただけと理解をしているところであります。


 その一件には私は全く関与していないので、然るに私の人徳と、持って生まれた天運の賜物とでも言うべきものなのでしょう……ふふふんっ。


 おっと、いけません、いけません……慢心ダメ絶対。


 そうした訳で移転の危機に晒されていた私の夜の帳亭と工房は無事に守られ事無きを得た訳ですが、先程も申し上げた通り初心忘れるべからず、これもは良い機会でもありますし私としては確認しておきたい事があるのです。


 それが何かと言えば……。



                 ★★★


 王都郊外~某店~


 看板すらない簡素な店構え、飾り気が無いと言うよりはやる気が窺えぬ店内にはやはり客の姿は皆無であり……此処が何処かと問われればご近所さんであり顔馴染みの質屋さんである。


 此処でぴん、と来た方は中々に鋭い。推察通り、郊外のこの辺りには私の店を含めても大通りには商店が疎らにしか存在せず……理由は簡単で住民の皆さんの多くに日中から酒瓶を手放さず、路上にて休暇バカンスを楽しまれている豪快で愉快なお友達が含まれている為に頗る治安が宜しくない為である。


 そんな場所に質屋を構えている店主の素性など考えずとも真っ当な筈も無く、扱う商品は盗品、模造品、情報、などなど正規品から不正規品に至るまで何でも買い取り売り捌くけしからん種の質屋さんなのです。


「おっ、嬢ちゃん久しぶりやな、最近見掛けんからてっきり拐かされて売り飛ばされちまったかと思ったぜ」


「いやいや元気だよ、最近は少し忙しくてね」


 気さくに声を掛けてくる店主に挨拶すると私は窓口に向かう。


 小さな窓口以外は客が奥に押し入れぬ様に鉄の格子が嵌められ、私はその窓口を挟んで店主と向い合って座る。現金取引が基本であるこの手の店では用心の為に珍しくもない仕組みではあるが、治安は悪いが悪いがゆえに明確な約束事ルールが存在する郊外ではこれらの対策は無知な外から来る連中の為である事だけは追記しておこう。


 何故ならこの辺りの住民は地元の店に無茶な真似はしない。それは彼らとて生活の為に商店は必要であり、その背後関係も含めて誰もがちゃんと『弁えている』からに他ならない。それは当然私たち店主も含めて、と言う意味である。


「忙しいのは良い事さね、これはまた良い金づるでも見つけてたらし込んで来たのかい、別嬪さんは仕事が早いねえ」


 郊外で装飾品の店を営む私を店主は男を騙して金を毟り取る性悪娘だと認識しているのだ……が、それはそれで都合が良いので私は拳を握り絞め親指を突き出して店主に応える。


「おうおう、景気が良さそうで羨ましいね、でっ、今日はどんな御用かな?」


「うん、今日は買い取りをお願いしようかと」


 私は脇に抱えていた小箱をテーブルに置くと中のモノをじゃらじゃらっ、とぶちまける。


 指輪、首飾り、髪飾り、と銀製のそれらは私が製造した装飾品たちである。全く買い手の付かないウチの商品たちで……ある。


 そう……もう理解して頂けたであろうか。


 夜の帳亭が流行らぬ理由は環境に問題がある為であり断じて私が創造したこれらの品々に商品価値がない為では無いのだと、公平な第三者に証明して貰うべくこの店に遣って来た事を。


「これはまた上等な……」


「うんうん」


「ゴミクズだね、勿体ない」


 絶句……絶句……である。


 言葉を失い呆然とする私の前で店主は指輪の一つを手に取ると翳し見る。


「ふむ、純度は多分悪くはないねえ、けどさなんだいこの造形は……銀髑髏って、相当拗らせてるって言うか……嬢ちゃんの財布君は金は持ってるかも知れんけど、こんなもんを贈るなんて趣味は最悪だな」


 そもそも何処で買ったんだ、との店主の呆れた呟きに。


 瞬間、脳裏に閃光が奔る。


 まさか……時代が……私に追い着いていない……だと。


「そんなに悲しい顔をせんでも装飾品として付加価値は付かんけど、銀製品としては上等さね、溶かせば十分に金になるから安心していいぜ嬢ちゃん」


 まだだっ……まだ私は負けてはいない。


 超絶的な天才である私の美的感覚に時代が追い着かずとも、この錬金術師クリス・マクスウェルの装飾品が『ただ』のモノである筈もなし……である。


「あれだね、うん、実はねその指輪には特別な付加魔法エンチャントが施されているらしくてさ、どうかな興味ある?」


「ほうほう、魔導具って訳かい、そりゃおじさん興味津々だね」


 ふふふんっ。


 戦いはまだまだ此れからなのである。




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