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王都の錬金術師  作者:
第一章 商人の本道
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第六幕

 落ち着け私。


 これはブラフだ……。


 冒険者ギルドを通じて事前に財団の概要は伝えてあった。その上で門前払いされる事無く、司祭長が交渉の席に着いたと言う事は少なくとも話し合う余地があると言う事。


 ならこれは神殿側が先手を打って来たと見るべき。


 寧ろ、本当の始まりは此処からなのだ。


「ですよね、マリアベルさん」


「えっ、何が?」


 しまったあああああっ……緊張の余り、思考と現実を混同してしまった。


 突然声を掛けられて前振りも無く、ですよね、何て言われたらそんな表情になりますよねええええっ。


「余裕を持ちなさいクリス。大丈夫よ、何が合っても私たち冒険件ギルドは貴女の味方なのだから……安心して好きにやってみなさい」


 一人で勝手に錯乱している私の耳元にマリアベルさんの囁きが聞こえる。


 やだなに、格好良い。


 とてもさっきまで、頭を抱えていた人とは思えない。


 でも……そうですよね。


 私にはクラリスさんが居る。


 だから、べっ……別に神殿に協力を断られたって構わないんだからねっ、ふんっ。


「それが神殿としての総意と……回答と受け取っても構わないのでしょうか?」


「はい、御期待に添えず申し訳無いとは思いますが……ただ、クリスさんはティリエール助祭の恩人でもありますし、それにとても面白い方だ……だからと言う訳ではありませんが、今の『程度』の商いであれば私の裁量の範疇と言う事で神殿としては問題にしない、とする辺りが私どもに出来うる最大限の譲歩であるとお考え下さい」


 なるほど、なるほど……つまりは現状維持。


 でもですよ? 


 私が既に聖水で商売を始めている事は知っているぞ、と暗に告げつつこの提案。それってアレですよね、控えめに表現しても『飼い殺し』にするって事ですか?


 随分と舐められたモノですね……むかつきます。


「司祭長樣の御心の広さを前に感涙にむせびそうになる気持ちを抑えるのがやっと……の身ではありますが、今一度だけその寛容さに縋らせて頂き、お話を聞いては貰えないでしょうか」


「話をですか? 構いませんがそれで決定が覆る事は……」


「有り難う御座います、司祭長樣」


 敢えて言葉を被せてやる。


 かなり無礼な行為だが、演技は完璧……誰もわざととは思うまい……ふへへっ。


「実は今回の席の為に用意致しました、まだお話していない腹案が御座いまして……非才なる身ではありますが、きっと冒険者ギルドと神殿との問題を解決する妙案であると自負しているところなのですが」


「ほう、それは実に興味深い話ですね」


 乗ってきた? いや、まだ様子見と言った感じだろう。


「お話をする前に大変心苦しいのですが、果たして巷で囁かれている両者の『確執』が、本当に私の認識と正しく一致するモノなのか、始めに確認させて頂きたいのですが」


 私の言葉を受けて、この時初めて司祭長の視線がマリアベルさんを捉える。


「確かクリスさんは冒険者ギルドの特権商人になられたのでしたね、であれば、さもあらん、と言うべきでしょうか……彼らから何かお聞きになられましたか?」


 私は同意とも否定ともとれる、曖昧な眼差しでそれに応える。


 ふふん、馬鹿正直にそれに答えてやる義理は無い。


 財団の設立を狐目から提案された時に『この手』は考えていた。


 けれど全面にそれを押し出さなかったのは、『私にとって』の上策ではなかったから。しかし、此処までこけにされたのなら、私も腹を括りましょう。おかねを削りましょうとも。 


「良いでしょう……しかしながら神殿がソレに意図的に関与して歪ませた訳では無いのです。その証拠に訊かれればこうしてお話する事が出来る程度の禁則事項ですらない……ただの歴史の誤認なのだと言う事だけは心に留め置いて下さい」


「やはり冒険者ギルドとの確執が原因で神殿は治癒魔法士の同行に制限を設けていた訳ではないのですね」


 私の問いに司祭長はゆっくりと頷いて見せる。


 疑問は前々からあった。


 それが疑念へと変わったのは、騒動の後、歩み寄った筈の両者の間で進展が余り見られない状況と確執、と皆は口を揃えて言うが、調べて見ても具体的な事例が出てこなかった事にある。


 決定的な大事件も見当たらず、何よりもあの優男が騒動の顛末の末に神殿へと貸しを作ったにも関わらず、余りに慎重に事を運び過ぎていると言う違和感。


 それらを色々と繋げて考えても見れば、問題の解決が確執の改善や修復では無く、もっと根本的なところにあるのでは、と言う可能性に行き着くのは何も難しい論理では無い。


 優男もマリアベルさんも、回復薬エクシルに直接的に関わらない事柄について私に多くを語らず、冒険者ギルドの組合長と補佐官、そしてマクスウェル商会の会頭と言う互いに利害関係が絡む立場にあるからこそ、私も敢えてそれには触れずに来たのだが……。


「その通り、そしてクリスさん、恐らくは貴女の想像通りですよ、全ての前提となる因果関係が『逆』なのです」


「そうですか……でも考えても見れば単純な話ですよね、始めに神殿が治癒魔法士の派遣を止めた……だからこそ『確執』が生じた訳ですから」


 私の言葉に司祭長は首を振る。今度は否定する様に。


「違いますクリスさん、全ての前提が異なる、と申した筈です。どうやらクリスさんの認識も正確なモノでは無いようですね」


 全ての前提? 分からない、一体何が違うというのだろうか?


「物事を正しく辿る為には、本質の部分を理解して頂く為には、少し時間を巻き戻して説明しなければいけないようですね。始まりは今から五百年以上も昔、我々が白銀の時代と呼んでいる頃にまで遡ります」


 いやっ、遡り過ぎだろ!!

 

 と、言いたいが勿論我慢する。


 そして司祭長は私に問う様に語る。


 貴女は『白銀の王』の名を御存じですか、と。




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