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王都の錬金術師  作者:
序章 新たなる始まり
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第四幕

 「魔物……ですか?」


 「はい、どうかされましたか?」


 何か問題でも?


 と、言いたげな疑念の眼差しをマリアベルさんに向けられ、私はそっと視線を逸らす。


 すいません……ごめんなさい……魔物ってなんですか。


 「マリアベル……クリスさんは冒険者では無いのだよ?」


 「これは失礼しました……」


 聡いマリアベルさんは直ぐに察してくれたようで、申し訳無さそうに頭を下げて来る。


 ありがとうビンセント……しかし美形は死に絶えろ。


 「魔物とは人間に対して敵対的な複数種の異種生物の総称です」


 「それはやはり遺跡の?」


 「はい……魔物の活動範囲が遺跡内とその近郊……『不可侵領域』とほぼ重なる事から考えても、恐らくは遺跡を護る為の呪術的な防衛機構の一つだろうと言うのが、現在の有力な解釈となっています」


 「素人考えなのですが、それなら大規模な人員を配して魔物を一掃してしまう事は難しいのですか?」


 「確かにそれは有効な手段の一つとされています……実際にその手法を用いて過去に幾つかの遺跡から遺物アーティファクトを持ち帰った成功事例が報告されているのですが……」


 其処でマリアベルさんは言い難そうに言い淀む。


 「魔物の数が一定数以上減少すると、急速に自然発生を繰り返し集団暴走スタンピードを引き起こすのです……これにより甚大な被害が発生するケースが多発した事で現在は有用性は別にして好まれる手段とはされていないのです」


 集団暴走スタンピードの発生条件が解明された今でも、抑制させる為の見極めは困難だと言う。

 

 匙加減はそれだけ難しいと言う事だろう。


 なるほど概ね状況は理解出来た。


 推測するに魔物とは恐らくは遺跡に施された魔法によって生み出された魔法生命体であろう。


 定められた狭い活動範囲、自然発生すると言う点からも、魔力の供給範囲内での永続効果の影響だと考えれば一応の筋が通る。


 なにせこの手の分野は魔術師の専売特許なので、錬金術師である私が断言するのは避けねば為らない事柄ではあるのだが、それにしても中々に興味深い話ではある。


 遺跡に近づく対象を無差別に襲い、数を以て対処する……我々の時代には無かった思考法だ。


 優れた個が万の軍勢を蹂躙する我々の時代には、少なくとも今の世では当然とされている数の論理など通用しなかった。


 つまり遺跡の魔物とは過去の文明の産物。


 『白銀』の時代。


 中々に好奇心をそそられはするが……。


 「どうかされましたか?」


 「あっ……いいえ」


 今は商談に集中するべきだろう……何せ此方は商いに関しては素人同然、


 余裕などありません……ええ……。


 「事情は理解出来ました、私の妙薬ポーションが冒険者の皆さんのお役に立てるのなら是非協力させて頂きたい」


 「それでは妙薬ポーションを?」


 「ただ……私も商人として冒険者ギルドさんとお付き合いをさせて貰っている身、同情心だけで商売は出来ませんよ?」


 私はマリアベルさんでは無く、ビンセントを見つめる。


 「私が冒険者ギルドに妙薬ポーションを卸してからそろそろ二年が経ちますよね、それが何故今なんですか? 何故突然私にこんな話をするんです?」


 「二年掛けて貴女と貴女の妙薬ポーションが与える影響力を観察していた、と言う答えでは駄目ですか」


 「駄目ですね……ええっ、駄目だよビンセント、そんな浮ついた答えじゃね」


 場の雰囲気が目に見えて変わる。


 「本当の狙いは妙薬ポーションじゃないんだろ?」


 「どういう意味ですかね? クリスさんにお願いしたいのは本当に妙薬ポーションの数と値下げの件だけですよ」


 「信じてたよ、ギルドの事情とやらを聞かされるまではね」


 「マリアベルの話に嘘はありませんよ」


 「私の妙薬ポーションが冒険者ギルドが抱えている問題を解決すると?」


 「そうです」


 ビンセントの態度には揺るぎが無い。


 浮かべている笑みも、優美な姿勢も、終始そのままに。


 まったくもって小憎らしい……本当に美形はムカつきますね……ええ、本当に。


 「なら聞くけど、このイリシア王国の冒険者ギルドに所属している冒険者ってのは全体で一体どれだけの数が居るんだろうね、ううん、何なら王都だけの数でも構わないよ、一万かな、それとも二万? いやいやそれ以上かもね」


 「そうかも知れませんね」


 「ならさ、仮に今の二倍、三倍の数の妙薬ポーションを私が半値以下で卸したとして、冒険者ギルドが抱える問題ってのは解決するんですかね? 何万と言う冒険者の数に対して高々、百にも満たない妙薬ポーションの数でさ」


 「何度も言いますが此方の提案に嘘はありませんよ、ただクリスさんが抱いている疑念には興味が湧きますね、是非とも結論を御聞かせ願いたいものです」


 「性能の高い妙薬ポーションが値を下げて数を増やせば当然冒険者の間で大きな噂になるよね、例えばこれからは安定した価格で数も量産される、とかさ……噂が広まれば神殿も心中穏やかじゃ居られないだろうね、何せ独占市場だった自分たちの庭が荒らされるんだからね」


 「その件でしたら初めに話した通り、冒険者ギルドとしてクリスさんへの協力は惜しまないつもりですよ」


 「協力ねえ……それなら初めから積極的にしてくれていたじゃないか、二年間もの間出処を悟らせず、情報を操作して妙薬ポーションの存在を神殿に印象付ける為にさ」


 「なるほど興味深いですね、ではクリスさんが疑っている私の本当の目的とは一体何なのでしょう?」


 「全ては神殿を交渉のテーブルに着かせる為」


 冒険者ギルドの抱える問題は深刻だ……だがそれは何も昨日今日起きた問題じゃ無い。


 その根本は神殿との軋轢と確執にある。


 積み重ねられた問題は両者の間に大きな溝を作り巨大な壁となって立ち塞がっている。


 解決する為の道筋を付けるのも容易な事ではないのだろう……そう、それこそ新しい風でも吹かぬ限り。


 「私は治癒魔法士ヒーラーを確保する為の当て馬なんだろ」


 さあ、交渉を始めよう。




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