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王都の錬金術師  作者:
序章 新たなる始まり
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幕間 錬金術師の独白

 郊外の屋敷で幕を閉じた事件から十日。


 後の事後処理の経過だけを見れば、関わった者たちにとっては概ね望ましい方向に進んでいると言っても良いだろう。


 当然、生き残った者たちは、と言う注釈は付く。


 結果だけを先に語るなら、この事件は公には公表される事はなかった。


 王国、神殿、そして冒険者ギルドの三者の話し合いで事件そのものが隠匿されたからだ。

 

 しかし……公表されなかったからと言って、全てが無かった事になどなりはしないし、この一連の事件では私だけが知る事情があり、私が与り知らぬ多数の思惑が介在している。

 

 だからと言って、私がその結論に不満を抱いているのかと問われれば、そんな話ではなく……上手く言葉には表せないが、多くの者が知らずとも、忘れてはいけない者たちは居ると……ただそう思うのだ。


 だから全てを知る訳では無い私だが、それでも関わった者の一人として、この事件の顛末だけは此処に記しておこうと思う。


 これは私、クリス・マクスウェルの独白である。



                 ★★★



 さて、少しだけ時を遡り郊外の屋敷に突入したマリアベルさんたちは、事件の首謀者である修道司祭サイラス・ダイスタークの一派を制圧したが、当初首謀者と目されていたドワイト・バルロッティ子爵は屋敷にはおらず、現在では王国側から病死と公表されてはいるが実際には行方不明となっている。


 これは表向きの話。


 実際にはサイラスの魔法実験の被検体とされていたドワイト・バルロッティは、多くの冒険者と修道司祭たちを殺害し結果的にマリアベルさんたちに討たれている。


 ドワイト・バルロッティの遺体は損傷が激しかった為に、マリアベルさんがその場で焼却したらしいが……正直その辺りの話は何やら胡散臭いと思えなくもない。


 なにせ私が直接目撃したものでは無いので真偽の程ははっきりしない面も多いが、ちょいちょい、訳の分らぬ事を呟いていたサイラスの話しぶりから察するに大きく話の筋は外してはいないのかも知れない。


 何よりもこの段においても優男やマリアベルさんが私に嘘を付く理由が思い当たらないので、屋敷での顛末はそんなところなのだろう。


 そして次はクラリスさんの話。


 あばら家で昏倒しているクラリスさんを発見した私であったが、まさか私が助け出して連れて帰る訳にも行かず……なので可哀想だが取り敢えずその場は放置して後に熊さんたちに迎えに行って貰う事にした。


 結果として朝には無事に保護されて神殿へと戻ったクラリスさんだが、事件については余り覚えていないらしい。


 サイラスが記憶を操作する種の魔法を扱えたらしいので、或いはその辺りの影響かも知らないが、精神や体には大きな影響は見られず、此方はまずまずの結末と言えよう。


さて、今回の事件の影の首謀者であった修道司祭サイラス・ダイスタークの行方は現在、冒険者ギルドと神殿が秘密裏に捜索を継続しているらしいが、サイラスの背後には何か在る事は間違いないのでその行為自体が無駄になる事はないだろう。


 最もサイラス・ダイスターク本人を探しても見つからない事を知るのは私だけなので、この辺りの事情に首を突っ込むつもりはないのだが。


 今度の事件で間違い無く一番割を食ったであろう、バルロッティ子爵家は、事件が公に為らなかった事で、家名に傷が付く事こそ免れたものの、結果的には直系の血筋を失ったのだから、お世辞にも良かったなどと言える筈も無く。


 まして当主であるドワイト・バルロッティは病死……息子のエリオ・バルロッティは不慮の事故で……とかなり無理筋な話で幕引きを図った王国の強引な手法を見ても、親戚筋から選ばれる後継は大分苦労する事になるだろうとマリアベルさんは語っていた。


 エリオが居ない今、私とバルロッティ子爵家を繋ぐモノは何一つないのだが……それでも流石に胸中は複雑で……正直私が語るべき言葉は無い。


 何をどう言い訳をしたところで、私に被害者顔など出来ぬのだから。


 最後に私の近況を語って締めるとしよう。


 エリオが残してくれた屋敷のおかげで、商会と工房を同時に手にする事が出来た私は当初の目的を果たせたと言える。


 熊さんへの報酬の件は相談した狐目の提案で、サイラスが所持していた遺物アーティファクトを、冒険者ギルドに売却する事で支払う事が出来た。


 最も遺物アーティファクトなどを気軽には持ち込めない為に、色々と売却手段に手間が掛かり、嵩んだ出費と手数料としてどえらい額の取り分を狐目から請求されたのだが……まあ、それは良いだろう。


 冒険者ギルドに売却する事で得られた利点があるからだ。


 冒険者ギルドと神殿……両者とは異なり、直接的な利害関係の無い王国側に協力を要請する対価として冒険者ギルド側が遺物アーティファクトの譲渡を提示した事が、早期の内に三者の協力体制が纏まった要因の一つだとマリアベルさんは言っていた。


 流石に狐目……その辺りにそつが無い。


 さてっ……。


 私は筆を置き、窓から覗く夕焼けの空に視線を送り……席を立つ。


 そろそろ時間である。


 マリアベルさんとクラリスさん……二人揃っての食事デートの約束の。


 まさに両手に華……至福の時。


 ゆえに此処に宣言しよう。


 私の時代の到来を!!


 ふひっ、とにやける表情をそのままに、部屋を出ようと扉へと向かい……。


 「おっと……習慣になっていないからつい忘れてしまうな」


 私はテーブルへと戻ると置かれていた髪飾りを手にして髪に差すのであった。



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