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王都の錬金術師  作者:
序章 新たなる始まり
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第二幕

 クラリスさんの一件の最有力容疑者、黒幕と呼ぶべき人物の情報を得たあの晩餐の日から、私と金髪坊やの関係は一歩前進、と呼ぶべきか……より深みに嵌ったと揶揄するべきか、評価はともあれ一定の変化が齎されていた。


 推測するに金髪坊やの中での私の存在は、『捨て駒』から『共犯者』へとめでたく昇格を果たしたと述べた方がより分かり易い解と言うべきであろうか。


 当然として信頼が増せばそれに準じて求められる責任も増す訳なのだが……その良し悪しはあれども、認められた範疇中の自由ながら、籠の鳥、と言う身分からの解放を此処は素直に喜んでおこうと思う。


 監視役のお荷物……こほん、護衛の騎士の皆さんを伴って私がこうして冒険者ギルドにやってこれたのも、金髪坊やのお許しが出たのも、全てはその恩恵ゆえなのだから。


 「それでは皆様は別室でお待ち頂けますか?」


 「しかし……それではエリオ様の御指示に背く事に……我々はミリーナお嬢様の護衛の任を拝命しておりますので……」


 「この扉の先は冒険者ギルドの組合長様の私室、ただの話し合い場で私の身に何の危険がございましょうか?」


 「それでも万が一の事態の備えとして我らが同行しているのです、どうか御同席を御許し下さい」


 彼らは子爵家に仕える騎士たちであるが、爵位を持たず貴族では無い彼らは正式な意味において言えば王国の騎士階級の者たちでは無い。


 そんな彼ら貴族家に仕える騎士たちを金で雇われた私兵などと揶揄する者たちも居るが……私はそうは思わない。


 私が今日の日まで接してきた彼らは、子爵家に仕える者として恥じぬ礼儀と忠節の意味を知る者たちであったからだ。


 騎士の称号とは本来、爵位の有無では無く在り方の、生き方の証である。


 嘆かわしい事に時代の経過と共に身分制度に組み込まれ、身を飾る為の称号と成り果てた今の価値観に、だからと言って私が染まらねば為らぬ道理もないので、彼らに抱く一定の敬意を脇に置き私が彼らを疎かにする理由は何処にも無い。


 そう……彼らが美形の騎士でもない限り。


 ごほんっ……彼らは職務に忠実で優秀である。


 だからこの様な場合、どう言いくるめ……説得するべきかは知っている。


 「私はエリオ様の名代としてこの場に赴いています、それはバルロッティ子爵家の遣いの者として組合長との面談に臨むと言う事です、この意味を理解しては頂けないでしょうか」


 冒険者ギルドの長と内々の話がある、と私は言外に匂わせる。


 「ですが……」


 「特別に皆様が扉の前で控える許可を頂いて参りますので、それでご容赦を」


 深々と頭を下げる私に、騎士の皆さんからの拒絶の言葉は聞こえて来ない。


 此方から妥協案は示した……優秀な彼らはその意味を知っている。


 私の監視も主命の一つではあろうが、この場に私が居る事は主人である金髪坊やの意思でもある……まさか今から戻って金髪坊やに指示を仰ぐ事が出来ぬ以上、彼らには私の行動を強制的に制止するだけの権限を与えられてはいないのだ。


 それは明確な主人への背反行為でも無い限り、私に従わぬと言う選択肢は元から彼らには存在していないと言う事。


 少し狡い手だとは思うが密談であると匂わせれば、領分として知らなくて良い事の価値を知る彼らは引き下がるだろうと言う読みゆえでもある。


 知らなければ誰かに情報を漏らす恐れは無い。


 知らなければ強引な手法を用いられたとしても矜持を曲げられて情報を漏洩してしまう恐れも無い。


 知らぬと言う事は自身の保身にも繋がる事を彼らは知っている。


 だからこそ会談や交渉の場などでは明らかに礼を失する行為を敢えて頼むと言う私の妥協案に彼らはきっと折れてくれるだろう、と私は踏んでいるのだ。


 「何かあれば直ぐに御声掛けを、即座に参りますので」


 「ありがとうございます」


 と、見上げた先で私は微笑む。


 いざと言う時は命を懸けて私の盾となる、と決意を滲ませる彼らの言葉に偽りがない事を知るだけに、私の感謝の言葉にもまた嘘は無かった。



                 ★★★



 室内で私を待つ人物の姿を目にした瞬間、直ぐに大声で叫びたくなる衝動に駆られ……何とかそれを自制はするが、優美な姿勢を崩さず穏やかな笑みを浮かべて私を迎える天敵の姿に、努力の甲斐なく知らず頬が引き攣るのを感じる。


 何よりも私を動揺させたのは、居るべき筈の人間が何故かこの場に居ない事……私とこの優男の間で緩衝材の役割を担ってくれる筈の人物がこの場には居なかったのだ。


 「マリアは今、外せない案件の処理の為に此処には来られません」


 席を勧めながらも、卒なく私の心を読んだ様な優男の言葉に何か引っ掛かるモノを感じる。


 流石に二年の付き合いともなるとちょっとした雰囲気の違いで気づける事もある。


 特に嫌いな人間に対しては洞察力も増すと言うものだろう。


 「クリスさんはマリアに会いに来られたのでしょう?」


 「ええ……まあ、職務中なのは承知の上だけど、此方も事情があってね」


 「いえいえ、クリスさんは我々にとって大切な方ですし、こうして時間を取る事自体は何も問題は無いのですよ……問題はね」


 「随分と引っ掛かる言い回しをするじゃないか、確かに突然子爵家の代理を名乗って面会を求めた私に多忙な組合長殿が困惑するのは分かるけど……都合が悪かったですかね、どうも御機嫌がよろしくは無いようですが」


 言い掛かりも甚だしい事は承知の上……何方に非が有るかと問われれば完全に此方が悪い気もするが、優男相手に私が譲る道理は無い。


 断固として言おう。


 私はマリアベルさんに会いに来たのであって優男にではないのだ、と。


 つまりこれは完全な嫌味である。


 「機嫌が悪い? 確かにその通りですね、貴女の個人的な頼み事を叶える為にマリアが独断で動いた結果、ギルドの貴重な仲間が一人命を落としましたから」


 マリアベルさんはその人物の遺体を受け取りに行っているのだと優男は続ける。


 浮かべる微笑みは変わらぬものの、優男の私を見据える眼差しは穏やかなモノ、とは言い難く、それが偽りや虚言では無い事の何よりの証明であるようで……。


 私は言葉を飲み込んだ。


 どの様な理由であれ、それは間違いなく私が犯した失態であるのだから。




毎日更新は厳しくなってきたので少しづつ不定期になるやも知れません。

出来るだけ安定した更新を目指しつつ頑張って行こうと思います。

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