第六話 レオン先生
ライフォス先生の合図で戦いは始まった。僕は3人の実力を知らないが、20分という制限時間があるため、急ぐ必要がある。そのため、3人が動く前に転移で後ろに移動した。すると2人には気付かれ、すぐにこちらを向き返ってきたが、一人は周りを見回していて、こちらのことを気づいていなかった。僕は持っていた木刀で背中を切りつけた。もろに受けた彼は吹っ飛ばされて顔から着地していた。
向き直った2人のうち1人は距離をとったが、もう1人は持っていた槍で突いてきた。横に避けてそれを木刀で上に弾き、槍の柄を掴んで相手の手を木刀で叩く。それにより痛みで槍を放したので奪って距離をとり、奪った槍に風魔法を纏わせた後顔面スライディングをした彼に投げつけた。
顔面スライディングをした彼はなんとか起き上がっていたが、後ろから飛んできた槍が顔の真横を通ったため、彼は「こ、降参…」と言ってライフォス先生のところに向かっていった。
槍を奪われた彼は土魔法で壁を作って追撃されないように距離をとった。これで僕の視界から見えないようにされてしまったが、気配で場所がわかるので視界を塞がれても関係ない。
壁を全て礫に変えて距離をとっている2人に向けて撃つと槍を奪われた彼はまた土壁で防いだが、遠くにいた彼女には当たらなかった。
彼の方は土魔法の礫を飛ばしてきたので、避けているといつの間にか近付いていた彼女が木刀で頭を狙って振ってきた。それを避けると今度は彼が礫を足に向けて撃ってきたので、飛んで避けると彼女が木刀で突きをしてきた。
さすがに危なかったので転移で彼の後ろに飛んだ。警戒していたようですぐにこちらに振り向きながら距離をとろうとしたので、彼の後ろに土壁をつくって逃げ道をなくし、木刀で切りつけると余裕で避けられると思っていたのか後ろに飛んだ。だがそこには壁があり、木刀を首に軽く当てると、「くそっ…降参だ」と言ったので、一旦土壁から距離をとってから彼女の方へ向かった。
彼女は木刀を構えて待っていたが、僕を見つけると火魔法をいくつか撃ってきた。これは逃げ道をなくすもののようで彼女は撃ちながら突っ込んできた。僕は礫を彼女の足元に飛ばすと彼女はそれを飛んで避けながら火の玉を飛ばしてきた。
土壁を生成して防ぐと剣で切り裂いて壊した。僕はその間に水魔法の水玉をつくり、壊したと同時に当てると軽く彼女は飛ばされた。それでも向かってきたので木刀同士で戦った。打ち続けたところで勝負がつかないので、纏魔法で風を纏わせると彼女も同じことをした。
僕は彼女に木刀で切りつけると彼女は木刀で防いだ。僕は先程の水で彼女の動きを鈍らせて隙をついて切りつけると彼女は間に合わないと思った瞬間に後ろに飛んで避けたが軽くかすった。僕は空中にいる彼女に向けて闇魔法のスロウをかけてさらに動きを遅くした。彼女は思うようで動くことができず、僕に叩きのめされてからやっと降参をした。
「そこまでだ!」
叩きのめしたせいでぐったり横になっている彼女を光魔法のキュアで状態異常を解除してハイヒールで傷を治してから、手をさしのべると「あ、ありがと…」と言われたので「いやぁ…僕がしたことなんだから、僕が治さないとね」と苦笑いで対応した。模擬試合とはいえやりすぎた気がする。
「3人ともこいつの実力はわかったな?これだけの実力があるなら1~3年の魔法実技を任せることができるはずだ」
「俺は油断しきって負けたから何も言えないです」
「僕は魔法の応用を見習いたいですね。実力としては十分だと思います」
「アリスはどう思う?」
「はわわわわ…」
アリスは口元を隠しながら顔を赤く染めておろおろしていた。ライフォス先生の声に全く反応していない。
「アリス…?」
「だめです。アリスは先程の彼の笑顔に悩殺されました」
「これでは話は進まんな。時間も押してるし、カルナとタナハはアリスが現実に戻ってきたら詳細を聞いて後で報告してくれ。私的には合格だ」
「「了解しました」」
「レオン、あと2分で始まるから、私に掴まれ」
「はいっ!」
ライフォス先生に掴まるとすぐに転移した。場所は東側の校庭にだった。まっ平らな地形で北側とは大きな違いだ。すでに校庭にはみんな集まっていた。気のせいだろうか、ライフォス先生を恐がっていた人たちがアルゼを先頭に跪いているように見えるのだが、きっとそういう座り方が流行なのだろう。
ライフォス先生に気が付いた生徒達は喋るのをやめて即座に整列した。恐がっていない人らは普通に立っていた。僕はその整列に加わらずライフォス先生の隣に立つと、みんなが驚愕していた。
「全員集まってるな。今日の魔法実技は私とレオンが担当する。異論があるやつは出てこい。ただ言っておくが、先程今年4年次になった3人を3対1で負かしている。このことを理解した上で文句があるやつは名乗り出ろ!」
その言葉にガヤガヤし出した。その中で3人だけは僕を観察するように見ていた。誰も来ないと思っていたが、1人が代表して手を挙げた。ライフォス先生は「ほぅ…」と言ってなんだか楽しそうにしていた。
「その4年が弱いやつらだったから、負けたんじゃないですか?見るからに弱そうなやつですよ、こいつ。俺ならこいつに勝てますよ」
「いいだろう。そこまで言うならレオンと1対1で戦ってみるといい。ルールは簡単だ。どんな手を使ってもいい、相手を屈服させてみろ」
僕は整列した場所から少し離れて木刀を構えた。彼はそれに追随するように離れて槍を構えた。
「では、始め!」
「俺は強いからな!先手はお前に譲ってやるよ!」
彼は槍を構えたまま微動だにしないので、転移の応用で魔法の転移を行った。魔法は軽傷で済む土塊だ。彼は油断しきっていたのか後ろから飛んできた土塊をノーガードで受けて前に飛ばされた。僕は木刀を首元に軽く押し当てた。彼は驚愕した目で僕のことを見つめていた。僕は真顔でトントンと木刀で彼の首を叩いた。
「そこまでだ、話にもならなかったな。これでわかったな?お前は弱い。口だけ強気でも実力がなければそれまでだ。他に文句があるやつはいるか?いないな。では今日は魔力操作についての実技を行う」
僕は彼に手をさしのべたが、それを無視して立ち上がり整列に戻った。僕は手持ちぶさたになったので、ライフォス先生側に戻った。
「属性はなんでもいいが、怪我をしないようにな?まずは手本を見せる。レオンなんでもいいから見せてやってくれ」
「わかりました」
僕はいつものように水魔法の水玉を生成した。それをみた先程の彼は「はん、その程度かよ」と呟いていたが、これはあくまで前段階だ。僕は水玉から鳥を飛ばした。その鳥達は各々が本当に生きているかのように別々の方に飛んでいった。それには彼も口を開けて呆然としていた。
「これくらいでいいですか?」
「十分だ。むしろこれだけできたら学校に来なくてもいいくらいだ。わかったか?お前らとレオンにはこれだけの実力差がある。それぞれこれを目指すように」
それだけ言ってライフォス先生は僕に一言言ってどこかにいってしまった。内容は「今日は魔力操作だけしろ」とのことだ。それを直接みんなに言ってくれれば済むのではと思ったが、すでにいないので授業を進めなくてはならない。
「魔法実技の担当をするになったレオンです。今日はライフォス先生に言われた通り魔力操作をしていきます。まずは手本を見せるので、自分が得意な属性を選んでください」
まずは火魔法からだ。これは森の中で火事を起こさないために精密な操作が必要だ。障害物に当てることなく動かすことが重要だ。少し離れたところに土魔法で柱を数十本建てる。それだけでみんなは「おぉーっ!」と言っていたが、これはただの道具だ。
「まずは火魔法からです。僕がいつもやってる修行なんですけど、これができたら味方や森に迷惑をかけずに済みます」
そう言いながら火魔法を蛇のように伸ばしながら障害物を避けていく。この魔法は本来ファイアーウィップで鞭のように使うのだが、僕は森の中で修行していたので、それは火事になるだけなので、このようにした。
「次に水魔法ですが、先程のように鳥をつくっていきますが、まずはこれができなければ無理なのでこれをしてください」
僕は先程の水の玉をつくり、それを球から箱に、さらに箱から球にを繰り返す。
「風魔法は見えないので少し工夫します。石を地面に落とさないように風だけで飛ばします。これは危ないのでそれぞれが離れて行うことをおすすめします」
土魔法で硬い石をつくり、それを空中に飛ばして色んな方向に飛ばし続ける。これを使えば最小の風魔法で物理攻撃が可能になる。それに多方向からの攻撃は魔物を錯乱させることができる。
「土魔法では形の精度です。自分の思うような形でいいので
つくって僕に見せてください。ちなみに僕はこんな感じです」
僕はハクとロウをつくった。今ごろ何をしてるのか気になるが、きっと仲良く遊んでいるのだろう。
「光魔法は治癒なのですが、これには怪我人が必要です。今回はこの授業中に怪我人が出たら行うので、これが得意な人は出るまで他の属性の訓練をしてください」
何人か不満そうな顔をしたが、わざと怪我するのはよくないことなので、不満なら自ら怪我人になってもらうしかない。
「闇魔法については相手が必要ですが、僕にばれないようにかけてください。相手に気付かれないということが重要なので、どれだけ極小の魔力で尚且つわからないようにかけてくださいね」
基本の六属性についてはこれくらいでいいだろう。特殊魔法はいるかな?いるのならできる範囲でやるしかないが。
「特殊属性が得意な人はいますか?」
そう言うと2人手を挙げた。アルゼとマリアだった。
「アルゼとマリアさんか、二人はどの属性なの?」
「俺は無魔法だ!他は土と風が使えるが、俺は無属性に特化しているとも言える!」
アルゼはなぜか僕に対しても跪いたままだ。すごく話しにくいのだが、それは仕様なんですか?
「私は空間魔法が使えるわ。他には闇と水が使えるわ」
マリアは腕を組んで普通に立っていた。アルゼの姿勢は普通ではなかったようだ。
「まずは無属性だけど、基本的には強化魔法や支援魔法といったものというのはアルゼはわかってる?」
「もちろん!多少なら使えるぞ!」
「なら、武器にかけたことはある?」
「武器にはないなぁ、自身にかけるだけで精一杯だ」
「今やってみて?なんでもいいから」
「おうよ!」
アルゼは自身に肉体強化をかけた。見た感じ出来ているように見えるが、体全体に均等にかけることが出来ていない。ばらばらだ。特化させるなら別として、普通は均等に施す。
「全然だめだね、全体的に均等にかけないと。アルゼは守る剣術に特化してるんだから全体もしくは手足に集中させないと」
「くっ!親父と同じこと言われた!」
「アルゼは僕ができるまで見ておくからね。次に空間属性だけど、マリアさんは何ができる?」
「私は今のところ空間把握と小さいものの転移ぐらいかしら」
「空間把握をしてみてくれる?」
「わかったわ」
うーん、出来てるけど、範囲が狭いな。それに所々見れてないところがあるな。
「範囲がそれほど広くないから、空間把握の訓練をしようか。マリアは1mほどの空間把握は出来てるけど、所々見れていない部分がある。今から簡単な迷路をつくるから、目を閉じてクリアしてくれ」
そう言いながら土魔法で壁の高さが50cmの迷路をつくり、スタートとゴールに柱を建てた。
「これくらいでいいかな?質問がなければ始めてください」
ほとんどの人が位置について始めたが2人だけおろおろしだした。もしかして魔法が得意ではない人たちかな?
「そこの2人は魔法が得意ではないのかな?」
「あ、はい。私は弓術で合格したのですが、魔法はからっきしで、適性としては風と水が使えます」
「俺は剣一筋だ!魔法は無と光が使える。だが魔法自体使ったことがねぇ…」
「そうですか、では魔力探知することから始めましょう」
やり方は座学で習った通りだ。この段階にはすぐに至ることができる。2人の手を握り、それぞれに魔力を流し込む。
「今2人に魔力を流し込みました。何が流れてきたことはわかりましたか?」
「は、はい。なんだか温かいものが流れてきました」
「俺は体を巡るものを感じたぞ」
探知することはできたようだ。次の段階は魔力を体に巡らせることだ。
「では、その流れを自分自身で動かしてください」
2人はすぐにできた、センスはあるようだ。おっとさっそく飛ばしてきたか。だが、これではバレバレだ。
「そこの君、もう少し魔力を小さくしないとすぐにばれてしまうぞ。あと魔法を放ったときにどや顔をしていた、それでは僕がやりましたと言っているようなものだ」
そう言うと言われた本人は何か考えた後、その場を立ち去った。くやしがっていたが、それでいい。もっと巧妙になるだろう。
やり方を教えて実行していくと時間はすぐに過ぎていった。今日の授業は魔法座学が1時間半、魔法実技が昼間での1時間と昼休憩を挟んで3時間ほどあり、休憩は間隔としては1時間半ごとに30分ある。この30分は魔力を回復するための時間だ。授業の日程は次の通りになっている。
魔法座学・魔法実技2日
武器訓練一通り2日
休み1日
歴史・地域と魔物情報1日
冒険者ギルドでの依頼遂行1日
休み1日
これを繰り返すが、僕には休みが存在しない。みんなが休んでる間は魔法実技を教えなければならない。この休みの2日はBCクラスの魔法実技の授業があるからだ。この2つは一緒に授業を受けている。なぜなら教員が足りないからだ。他のDEFは5年次の生徒が教えているそうだ。それならABCクラスもそうすればいいと思うかもしれないが、4年次からは依頼が忙しくて休みなどはない。そのため、特に優秀な人らで手を空いてる人がやってるだけで教える人は毎回変わるそうだ。
みんな休憩になる頃にはぐったりしていて、無用心にもお昼寝を始めるものまでいるくらい疲れていた。僕はさっさと昼御飯を食べたいので、20分ほどみんなが起きるまで待ち、ご飯を食べに向かった。