第四話 出会い
リカルドが固まったままで暇だったので、水の鳥を10匹から20匹へ、それから20匹から30匹へと増やしていった。リルは体育座りのままだったが、水の鳥を見て目をきらきらさせていた。リカルドはガックリと項垂れて動かなくなっていたが、視界に鳥がうつると、見上げて鳥のことを観察していた。なんとか立ち直ったようだ。
これだけ派手にやっているのに誰もなにもいってこないのはなぜだろうと周りを見ているとかーさまやとーさまはこちらを見てにこにこしていたが、他の人たちは水の鳥を見上げていた。王様はそれを見ながらワインを飲んでのんびりしていた。
このままだと魔力が切れてみんな濡れてしまうので、元のグラスの中に降り立たせた。すると、なぜかはち切れんばかりの歓声と拍手がされた。僕は意味が分からなかったので、呆然としてしまった。
そうしていると王様自ら立ち寄ってきた。一瞬なんできたのか戸惑ったが、多分僕は怒られるのだろう。そう覚悟して目をつぶっていると、なぜか頭を撫でられてしまった。
「今世代は素晴らしい子達ばかりだ。この子のように能力値もスキルもずば抜けている子もいればヴァンクリーフ家の子のよう能力値が高く、剣術の才能に優れた子もいれば、フェリアノーラ家の子のように魔法に才能がある子もいる。どれだけ能力に差があろうとも諦めず前向きに自分を研鑽していくことが大事である。だからいくら才能で引き離されようとも努力を怠らないことが大切だということを忘れないようにな」
僕やリカルド、リルのことを褒め称えた上、この場を抑えた王様の手腕はすごいと思った。王様の演説にまた拍手と歓声が湧いた。王様は気さくに笑いながら頭を撫でてくれた。凄くかっこよくみえたが、どうも覗き見の件がちらちらと頭によぎってなんとも言えない感覚があった。
そんなこともあれどパーティーは終わりの時間を迎えた。リカルドとリルには遊び方法を教えて、どれだけ楽しくスキル上げができるのかを実演しながら教えていくと、頷きながら聞いてくれた。周りの子達も聞き耳をたてていたが、わりと細かいこともあるので自分で色々試してみないとできないこともある。
パーティーが終わるとかーさまととーさまと一緒に王城の一角にとまることとなった。そのときにリカルドとリルが遊びに来たので、魔法を教えることになった。それにはかーさまはにこにこしながら見ていたが、途中なぜかどこからか侵入してきた王様が来た。すると部屋が凄く眩しくなったかと思ったら、王様がいなくなっていて、窓が開いていた。もしかしたらそういう特技があることをわざわざ見せにきたのだろうか。
夜中になるとリカルドとリルが眠くなり、リカルドの父とリルの母が迎えに来た。とーさまに挨拶をしてリカルドとリルをそれぞれが抱えて帰っていった。そのときもとーさまの挨拶は「うむ」としか言っていなかった。僕も眠くなったので寝ることにした。かーさまととーさまに「おやすみ」と言って眠った。
翌日は王様と特に仲の良い家系だけでお茶会をした。僕はリカルドとリルと魔法で遊ぶことにした。やり方は魔法で動物をつくって飛ばしたり踊らせたりするというものだ。精密な操作が必要なため、これができるようになる頃には魔力操作が使いこなせるようになる。リカルドの方はうまくいっていなかったが、リルの方は形をつくることは成功していた。
「やったぁ…(小声)」
リルは小さくガッツポーズをしていた。リカルドはというと、イメージから固まっていないようで、よくわからないものができていた。リカルドはどうやら僕が造ったものを最初から造ろうとしているらしくうまくいっていない様子だった。
リルはちょっとずつ物事を進めていくのに対してリカルドは一発逆転を狙うタイプのようだ。戦いに関していえば可能性は低くはないが、これに関していえば事故にしか繋がらないので、まずは簡単なボールからつくってもらうことにした。
「リカルドはまずはこれをつくってみようか」
リカルドの目の前で掌の上に水の玉をつくってみせた。
「そんなん簡単につくれるに決まってるだろ!…あれ?」
リカルドがつくったものは形が定まっていなく球とは言いづらいものだった。やはりまだ鳥をつくれる段階ではなかったようだ。その間もリルは黙々と鳥の羽を羽ばたかせようと頑張っていた。
「自分がイメージした球をつくるんだよ。制御が甘いと簡単に弾けちゃうよ」
まずは球をきれいにつくることから始めなければ鳥なんて精密な形はつくれない。リカルドは「くそーっ!」と言いながらも球を作り続けている。諦めは悪いようですぐにやめたりはしない。
リカルドは今のところ球をつくることが精一杯なので、リルに教えることにした。リルは羽を広げさせようとしてたので、助言をすることにした。元々ある羽ではなく新しく作った方が簡単だということを教えた。リルは少し考えた後、「むむーっ」と小さく呟きながら頑張っていた。
お昼時になる頃には二人とも魔力切れで疲れはてていた。僕はというと疲れることなく芝生の上でごろごろしていた。そんなこんなでお茶会は終わった。二人とは次に会うのは、学校が始まってからだ。学校は10~12歳の3年間と13~15歳の3年間に渡り通う。貴族はこの両方の期間通い、平民は最初の3年間だけ行き、優秀なものだけ次の3年間も通う。僕は貴族なのでこの6年間通うことになる。学校は貴族学科と魔法学科と騎士学科、冒険者学科がある。学科は分かれていても同じ授業を受けることもあれば、選択制で違う学科の授業を受けることもできる。
二人とも再会を誓い、1年後の学校でどれほどの力をつけているのか楽しみだ。リカルドは騎士学科に行き、リルは貴族か魔法学科に行くそうだ。僕の家は伯爵家なのだが、親バカなのでどこでもいいと言われている。そのため僕は冒険者学科に行くことにしている。とーさまも昔は冒険者学科にいっており、危ないからだめという認識はないそうだ。
ーーそして1年が経ち、学校に行く時期になった。
この1年はひたすら学校に向けて冒険者になるための知識を詰め込んでいった。とーさまは「うむ」と言いながらも一応道具の使い方を教えてもらった。かーさまは元々狩りをしながら生活していたこともあり、弓や魔物の知識が豊富だった。全然貴族らしいことはしなかったが日々を楽しんで暮らしていた。
学校には試験があり、優秀なものは上のクラスに行くことになっている。平民はこれを受けなければ学校に通うことができない。しかし貴族は違い、貴族学科と魔法学科、騎士学科に入る場合のみ試験は免除される。そのため、僕は試験を受けなければならない。試験といっても魔法と得意武器による戦闘を行うことだ。 貴族の裏口入学は不可能となっているのだが、昔は替え玉を使い、入学したものもいるようだが、入学後の試験で発覚するため、今ではそのような者はいないと言われている。
試験当日になり、緊張しながらも親に送り出された。試験会場は首都にあり、学校も首都にある。昼時から夕方まで行うそうで、朝家を出てもぎりぎり間に合う距離だった。そのため、離れたくないためにとかーさまがしがみついて離れなかった。
「かーさま、そろそろ行かないと遅刻してしまいます」
「レオン…またすぐ帰ってくる?」
「帰ってきますよ。夏に長期休暇がありますから」
「忘れ物はしてない?」
「大丈夫ですよ、しっかりと準備しましたし、何回も確認しました」
「ほんとう?」
「奥様、そろそろ本当に間に合わなくなってしまいます」
リサさんととーさまに無理矢理剥がされたかーさまは「あぁっ」と言って嫌がっていたが、本当に遅刻してしまうので強行手段をするしかなかった。家を出る際は悲しそうな顔をしていた上、「レオン…」と小声で言っていた。今生の別れのような思いでなんだか辛い気持ちになったが、正直に言えば申請を出せばいつでも会えるし、数時間しかかからない場所なので、全く会えなくなるわけではない。
試験には300人以上受けるらしい。日程は全員同じで試験官が10人程いて1日で全て終わらせるそうだ。僕の順番は最後の方なので受付が済むとのんびり過ごすことにした。
僕の順番が来るまで前の人の見学をしていた。魔法は魔法適正を量る。魔法が使える人は的を破壊する威力測定・的に的確に当てる命中力の評価をする。得意武器での試験は武器ごとによっても変わるが基本的には試験官との戦いを行う。
まだ10歳とはいえほとんどの子が魔法や戦闘を行える。冒険者になるものは基本的に親が冒険者をしているものが多い。そうでなければ独自に鍛練を行っているものしかいない。
貴族でいえば三男などが冒険学科に行くことが多い。跡継ぎでなければ商売か騎士、冒険者になるしかない。自由度が高い分親からの支援は少ない。そのため一生懸命自分のために鍛練を行う。まぁうちのように子供には自由にさせようとする貴族も少なからず存在するため、絶対とはいえない。
今までみた限りではすごい人はあまりいなかった。魔法を使えるものは多いが、制御がうまくいっていないのがほとんどだ。武器は多少使うことができてもそれなりに使える程度だ。
ぼーっとみてると次の人の出番だ。僕はこの人の次だ。
「21番、ラインハルトこちらへ」
「はい…」
赤髪で雰囲気が暗そうな人が出てきた。なんだかそわそわしているが、緊張しているのだろうか。
まずは魔法適正だ。それぞれの属性の水晶に手を置いて光ると適正がある。光らないと適正はない。人の魔法適正はだいたい2属性~3属性で4属性~全属性は希少だと言われている。属性には風・火・水・土・闇・光とあるが、これ以外にも無属性や空間などの特殊属性がある。これらは一般的な適正検査の枠外にある。理由としては希少性と秘密主義のための措置だ。
この人は火と闇と風だった。光の強さからその人がどれ程の熟練者かもわかるのだが、この人は特に闇と火が強いようだ。
次に威力測定だが、魔法は火魔法を使うようだ。魔法にもそれぞれ特性があり、火は威力が強いものが多く、闇は状態異常をもたらすものが多い。相性としてはとてもいい組み合せだ。
威力はとても強く、的は粉々になってしまった。それにはさすがに試験官もびっくりしていた。的当ての方はというと最小の力でいくのではなく物量で当てにいっていた。当ててはいるが、なんともいえない結果だった。武器の方は弓が得意なようですで10個のまとのうち7個に命中させていた。
「次、22番。レオン・アルセファルト」
「はいっ!」
やっと僕の番になった。まずは魔法適正からなのだが、僕には【全能】があるため、全て光った。するとなにか不具合があるかもしれないと言われてもう一度測定するともちろん同じ結果だった。それには試験官も先程よりも口を大きく開けてぽかーんとしていた。
これでは試験が進まないので、試験官をゆすると「すまない、少し夢をみていたようだ。次は威力測定だ」と言われたので全力の火魔法を撃ち込んだ。すると先程の子のように的は粉々になった。むしろそれ以上に被害が出た。的だけでなく地面までえぐれてしまった。
「つ、次は的当てだ」
「わかりました」
水魔法で鳥をつくり、全ての的を同時に破壊した。すると先程と同様にぽかーんと口を大きく開けて呆然としていた。数秒間止まっていた試験官もなんとか立ち直り、次の試験へうつった。
「次は得意武器の試験だ。どの武器を使用する?」
「剣でお願いします」
試験官から木刀を渡されて構えた。「どこからでも掛かってきなさい」と先程の動揺はどこにいったのやらと思ったが、どこからでもと言われたので、木刀で左から右に降り下ろして足払いをした。すると「そこ!?」と驚かれてしまった。
木刀を縦にして防がれてしまったので、素早く回し蹴りで反対側の腰蹴った。すると予想外の行動でバランスを崩した試験官は軽く飛ばされた。
試験官に追い討ちをかけるために空間魔法の転移を使い、飛ばした方向に飛んで後ろから背中を切りつけた。すると試験官は前に倒れた。どこまですればいいのかわからないので、とりあえず首元に木刀を当てた。すると周りから歓声が上がり、遠くにいた試験官が集まってきた。