第三話 逸脱
ーー9歳になった。
相変わらず親バカしてるかーさまに連れられて神殿にやって来た。正直な話今まで屋敷の敷地内から出たことがなかった。そのため初めての外出となる。僕が住んでるのはレフィリナ王国ミルト街というところで、領主はとーさまだ。緑豊かなので特徴で人族よりもエルフやドワーフが多い街だ。神殿はこの街にもあるが、貴族は国の首都でステータスを見に行かなければならない。そのため、少し遠出になるが馬車で向かうことになった。
首都には2つの神殿があり、1つは分殿で、もう1つが本殿である。分殿の方には平民が行き、本殿に貴族が集まる。なぜ別れて行うかは警備の問題だ。そのため、本殿には騎士を配置し、分殿には冒険者を配置する。平民には冒険者が多いため、警戒しなくてもいいようにする配慮もある。
子供は9歳になると神殿で鑑定してもらう。12歳になると神殿からお薦めの職業を教えてもらえて、15歳には成人する。12歳のときにお薦めされた職業に進むものも入れば、自分がなりたいものになる者もいる。職業に関しては自由だ。神殿のお薦めはあくまで向いている程度のことを教えてくれる。
僕はすでにステータスを知っているのだが、そこは気にしない。かーさまがすごく楽しみにしているし、とーさまが久しぶりに一緒にいてくれるので、それだけで十分だ。馬車に揺られていくと、神殿には多くの人で賑わっていた。
我が家は伯爵家であるため、有用なスキルを持っていることは周りの貴族からもよく見られ、同じ世代の子供たちとスキルの良さで争うこともあるという。僕は争い事が好きではないので、あまり関わりたくないのだが、10歳から国主催のパーティーに参加しなければならない。
神殿につくと貴族からも平民まで数多くの子がいた。今年は王のご子息もいるようで、周りの警戒がすごい。我が家は伯爵家だが、護衛はさほどいない。僕とかーさまととーさま、リサさんと老執事だけだ。老執事のことはローさんと呼んでいる。老執事からとったのではなく、ローゼンという名前からとっている。
寡黙なとーさまでも王族がいれば挨拶をしにいくので、それに付き添って着いていく。かーさまは王族のことはあまり好きではないが、一応一緒にいく。
「おや?ジンではないか、お前んとこの息子もステータスを見に来たのか?」
王様らしき人が話しかけると、とーさまは頷いた。
「そうかそうか、してその子が息子のレオンか?」
またしてもとーさまは頷いただけだった。王族と喋るときは頷きだけで返事をすればいいのか、それとも単にとーさまがいつも寡黙だから王様が合わせてるのか、とても分かりづらい。
「は、初めまして、レオン・アルセファルトと申します」
「お、ちゃんと挨拶できるんだな!ジンと違って寡黙じゃないんだな!まぁそう畏まらなくていいぞ。ジンとは王族と伯爵の関係よりも一緒に冒険したり悪ふざけしたりする仲だからな!」
笑いながらそう言った。とーさまの口元は緩んでいた。きっとそういう仲だからこそ、公務が勤まるのだろう。とーさまの仕事は机仕事よりも王様の警護や国の安全を守る仕事をしている。
「お?レイシスもいるのか、いや、あの、睨まなくてもいいではないか。レオンの前だぞ?」
かーさまは特に王様のことが嫌いなようだ。理由はわからないが、なにかしらあったことは確かだ。かーさまはこちらを見ると、抱きしめて頭を撫でながら離れない。しかもずっと王様を睨んでいる。
「かーさま?どうしたんですか?」
「レオン…あの王様はね、昔風呂を覗きに来たことがあるのよ。しかも『これは、俺の冒険だ!誰に何を言われようと、これは冒険をしている…つまり未知の領域に行ってるんだ!誰も邪魔するんじゃねぇ!』とか言って誤魔化して逃げようとしたのよ。レオンはああいう大人になってはだめよ」
かーさまは抱き締めながら王様のことを指で差して、教えてくれた。その話をされているときの王様の顔色はよくない。
「わ、わかりました、かーさま」
こういうときは逆らってはだめだ。逆らうと逆効果になる。とーさまは空気に溶け込んで気配を消していた。王様はかーさまの前で土下座をしているが、もちろん無視している。王様の護衛は「またか」とでも言いたげな顔で傍観をしていた。
王様を放置していると神殿の方から鐘が鳴った。それを聞いた王様は「用事を思い出した」とか言って急いでその場を去った。かーさまは用事がなにかわかっているのか、そのまま放置していた。
ステータスをみる順番は早いもの順ではなく、王族が最初で次に爵位が高いものにいき、最後に平民は適当だ。そのため、王様は急いで行ったのだろう。
僕は待ってる間は暇だったので、どんな子供がいるのかを眺めていた。やはら人族が多い。獣人やドワーフがちらほらいたが、少なかった。ここは国の首都に位置する場所のため、人族が圧倒的に多いのだろう。これが森の近くであれば獣人が多くなるのだろう。
僕の番がくると、神官が石盤に手を置くようにいってきたので、置いたら石盤が光だした。すると石盤に文字が浮かび、驚きで口を開いた。そのまま固まっていたので、「いつまで続けたらいいですか?」と聞くと、「あわっあわっ…ああ、あ、はい!も、もう大丈夫ですよ」とすごい慌てながら石盤の文字を一言一句紙に記していた。
その紙を受け取ったかーさまととーさまもそれを見て固まった。最近は頻繁に見てないので、気になっていた。かーさまの袖を引っ張ると我に返ったのか、「びっくりするわよ」と言いながら渡してきた。
名前:レオン・アルセファルト
種族:ハーフエルフ
レベル:0
HP:108/108(+30)【208】
MP:285/285(+150)【570】
攻撃力:201(+60)【402】
防御力:186(+50)【393】
敏捷:93(+63)【186】
器用:117(+52)【234】
魔力:280(+140)【560】
運:200【運はランダム】
『ユニークスキル
【身体強奪】【無限倉庫】【全能】』
アクティブスキル
『【鑑定】Lv5(+1)【農業】Lv4(+1)【錬金術】Lv1【テイム】Lv1』【火魔法】Lv5(+1)【風魔法】Lv7(+1)【水魔法】Lv7(+1)【土魔法】Lv6(+1)【光魔法】Lv7(+1)【裁縫】Lv4(+2)【剣術】Lv4(+2)【弓術】Lv4(+2)【短剣術】Lv4(+2)【武術】Lv4(+2)
パッシブスキル
『【高速再生】【高速思考】【状態異常耐性】』【気配遮断】【気配探知】【魔力操作】【魔力感知】【隠蔽】【魔法耐性】【精神耐性】【物理耐性】【魔力強化】【肉体強化】
『称号
【神々に愛された者】
加護
【全能神の加護】【魔法神の加護】【武闘神の加護】【商業神の加護】【豊穣神の加護】【知識神の加護】【鍛冶神の加護】』
その紙には見事に隠蔽されたステータスが表示されていた。ステータスも半分しかないのだが、これでは低いのではないのかな?魔法は結構スキルレベルが上がったな。周りの子のステータスを見た限りではこの半分のステータスでも十分高いように見えたのだが、実際にはどうなのだろうか。
僕が心配そうにしてると「これはすごいことなのよ」とかーさまが教えてくれた。今日は国が開いたパーティーがあり、貴族も平民も関係なく参加することができる。それに参加するために馬車に戻るとローさんやリサさんがいたので、ステータスをみせるとローさんとリサさんは頭を撫でてくれた。
馬車に揺られながらパーティー会場となる城に向かっている最中にどれだけすごいことなのか聞いた。9歳のステータスは能力値が50を越えることがすごいことらしい。そのすごいステータスより実際には4~10倍あるのだが、これはすごく言いにくい。スキルも2、3個あれば十分らしい。魔法を習ってる貴族や剣術を習ってるものでさえ7個あれば有力とされている。
しかし我が家は5歳からひたすら戦闘訓練をしている。遊びが戦闘訓練だったためか、毎日やっていた。礼儀作法もそれとなくリサさんが教えてくれた。挨拶や食事、言葉遣いなど教えてもらった。怒られたりはしないが、貴族の振る舞いとして必要らしい。それに全くはまらないとーさまは教えることができない。
パーティーにはドレスや豪華な服で参加するのが礼儀なのか、いつもは着ない豪華な服を着ている。すごく動きづらい。貴族の子らはまず王様に報告しに行き、褒めてもらうらしいが、うちはめんどくさいので、ご飯だけ食べて帰るらしい。
王様にそんな態度で接するとは王様とよく冒険にいった家系のもの達だ。とーさま以外にもあと二人おり、公爵と侯爵だ。地位的にも高いが仲もいいので、いちいち褒めてもらうためだけに行かなくてもあとで会って話をすればいいと思っている。王様がアレだからの対応だ。もっと厳格な人であればそんなことはしないが、冒険という名の覗きにいく王様に敬意などないに等しい。
ご飯は食べたことがないものばかりだったので、食事は楽しみだった。王様が挨拶をしてパーティーは開催した。子供は子供で、大人は大人達と話すため別れて食事をする。かーさまは離れたくなさそうだったが、仕方がないので離れた。食事をしていると子供に話しかけられた。
「おい、お前。王様に挨拶にいかないとは何様だ」
異様に真っ赤な服をした赤髪の少年と真っ青な服を着た少女が訪ねてきた。赤い子は憤慨していたが、青い子はおどおどしていた。
「とーさまが王様とは仲がいいからあとで話せばいいとおっしゃったのでいかなかった」
これはとーさまが言ったことではないが、だいたいそんな感じだろう。一応神殿で挨拶はしたにはしたが、印象はかわいそうな人だと思った程度だ。
「じゃあお前がアルセファルト家のものか、名前はなんていうんだ?」
怒っていたのに、理由を聞いてすぐに納得していた。この理由で怒らないのは王様がどんな人なのか知っている人だと知っているからだ。冒険者仲間ではない家系では厳格な姿をした王様しか知らないので、少しでもお近づきになるために媚びを売ってる。しかし、冒険者仲間だった家系ではむしろ王様が媚びを売ってくる。
「そうだけど、まずは自分から名乗るものじゃないの?」
「お、そうだな。俺は侯爵家のもののリカルド・ヴァンクリーフだ。こっちのおどおどしてるのは公爵家のリル・フェリアノーラだ。そういうことだから、仲良くしようや」
リカルドは握手を求めてきたので、その手をつかんで握手しながら、自己紹介をした。
「僕はレオン・アルセファルトです。よろしく」
自己紹介が終わり、お互いのステータスを見せ合うことになった。僕のステータスをみたリカルドとリルは口をぽかーんと開けたまま静止した。リカルドの能力値はだいたい60前後と高めで火魔法と風魔法と剣術が得意なようだ。リルの能力は40前後と低めだったが、水魔法と土魔法のスキルレベルが3あり、魔法が得意なようだ。9歳だとスキルレベルが3あるとそれだけですごいことらしい。
【スキルレベルについて】
Lv1Lv2:一般人
Lv3:下級冒険者
Lv4Lv5:中級の冒険者
Lv6Lv7:上級冒険者
Lv8Lv9:熟練冒険者
Lv10:英雄
※指標としてこんな感じ。つまりレオンは上級冒険者並の実力を持っている。
リカルドとリルがいつまでも固まっていたので、先程食べていたご飯を食べながら待った。前世の弟がトイレに間に合わず立ったまま大便を漏らしたときみたいに固まっていた。あのとき「お兄ちゃん…見なかったことにして…」と言いたげな目をしていて、なにもできない僕はとりあえず、目を閉じることで了承しておいた。
「な、なんだこのステータスは…」
やっと現実に戻ってきたリカルドが一言発してこちらを見てきた。それでも隠蔽された数値なんだがと言いたかったが、ややこしくなるので黙っておいた。
「遊んでたらそうなった」
本当に遊んでただけだ。ハクとロウとかーさま、リサさんと時々ローさんが魔法で遊んでくれた。魔法でどれだけ綺麗なかーさまを造れるかとか、魔法をどれくらい維持できるかとか色々やった。剣術や弓術も的当てしたり魔法を切ったりして遊んでいたためである。
「あ、遊んでどうやったらこうなるんだよ」
「魔法で鳥つくったり、剣で魔法切ったりしてた」
「魔法を切る!?」
「剣に魔力を纏わせて切るんだよ。これがなかなか難しくてね、1年くらい練習してやっと出来るようになったんだよ。とーさまが教えてくれたんだけど、最初の頃は魔力を具現化させるのも無理だったよ」
話をしてる最中だったが、リカルドがまた硬直したので、気になってたデザートを取りに行った。帰ってくるとリルが体育座りして落ち込んでいてリカルドは硬直したままだった。これじゃあ会話にならないので、実際に鳥をつくって見せることにした。
危ないので水魔法を使ったものを作ることにした。ちょうど飲み水としてグラスに注がれているものがあったので、そこから羽ばたかせるようにした。10匹ほど飛ばしてリカルドの周りをぐるぐる飛ばしているとやっと戻ってきたと思ったら、今度は水の鳥を見て固まった。