第一話 神々の子
彼は目を開くとそこには草原が広がっていた。
体を動かすことが出来ないのに、動かすことができた。やり方もわからないのに、なんとなく動かすことができた。その感覚に彼は喜んで、涙を流した。手で顔をおおうことも涙を拭うことも彼にとってははじめての経験だ。
彼は一つ一つの動作を楽しんだ。ゆっくりと立ち上がり、歩いてみた。バランスをとることができず、転んで痛かった。普通ならそんなことで笑う人などいないだろう。しかし、彼にとっては全てが初めての経験だった。それからは全ての行動をしながら笑った。彼はこの時間を楽しんだ。
「起きたようじゃな」
彼の後ろから髭が長く髪も髭も服も真っ白のお爺さんが話しかけてきた。彼は突然のことにおどろいたが、お爺さんの優しい微笑みになにも言えなかった。とりあえず頷いた。
「ほっほっほっほ、体を動かすだけでそれだけ喜んでくれてお主をここに呼んだかいがあったものじゃ」
どうやらここにはこのお爺さんが呼んできてくれたようだ。お爺さんは髭をさすりながら、ほほえましく見ていた。
「そうかそうか、お主はしゃべり方がわからないんじゃったな。どれ、どんなことを聞きたいのか心の中で言ってごらん」
言われるがままに聞いてみた。
『ここはどこなんですか?僕はなぜここにいるんですか?なぜ体が動かせるのですか?貴方はだれなんですか?声ってどうやってだしたらいんですか?』
「ほっほっほっほ、そうじゃな。ここはわしが造り出した世界といえばいいのかのぉ。ちなみに総じて言えば神界じゃな。お主は不幸な人生を送っていたから、ここに呼んだのじゃよ。そしてお主はあのあと亡くなったんじゃ、だからここに呼ぶことができた。体が動かせるのは魂の状態に麻痺など存在しないからのぉ。お主の体には病気はあれど、魂には病気は干渉できない、だからお主は体を動かせる。わしは神じゃよ。お主がいた世界の神じゃよ。声は出したいと念じれば出るのじゃ」
神界という言葉に驚き、周りを見回して見たがなんとも神秘的な場所だった。そうか、僕は死んでしまったのか。神様?なのか。これだけ神秘的な場所なら神様がいても不思議じゃないはずだ。
何度か声を出す練習をしてみると「あぁー、うー」と声が出た。次第に声が出るようになった。それを神様は微笑ましく見ていた。僕は声を出せたことへの喜びと微笑ましく見てくれることを喜んだ。
「神様はなぜ僕のことを知っていたんですか?僕を見ていてもたのしいことはなかったでしょう」
「お主の人生は生まれたときから絶望するほどのものだったにも関わらず、お主は人生を楽しんでおった。じゃからお主に興味をもった。お主と同じ境遇にあったものはみな、精神が病んでいった。それなのにお主の健気さは微笑ましかった。なによりもなにもできぬはなぜこのような子のためになにもできないのだと考えたものじゃ」
神様はそう言いながら僕のことを撫でてくれた。ひとしきり撫でると今度は抱き締めてくれた。神様の温もりを感じて僕は思わず泣いてしまった。子供のように泣きじゃくった。泣いてる僕のことを放置することなく、「よしよし」と頭を撫でながら優しく抱き締めてくれた。それによって嬉しさでも泣いてしまった。
「神様…ありがとうございます。こんな僕のことを慰めてくれて」
「何を言っとんじゃ。わしは自分の世界の子供達はもちろん、お主のことも自分の子供のように愛しておるに決まっとるじゃろ!そんなに畏まらなくても良い。好きなようにしなさい」
その言葉にまた涙が出てきた。指で涙を拭っていると、手が少し透明になっているのがわかった。
「わかりました。それで僕はここにいつまでいられるのですか?なんだか体が透けてるように見えるのですが」
「ちょっとのんびりしすぎたかのぅ。お主にはいくつか今後のための選択肢がある。1つ目は転生の輪廻に帰り、新たな命に記憶もなくして別のものになる。2つ目は記憶を持ったままお主がいた世界に転生する。3つ目は別のわしが見守っている世界に転生する。このうちどれを選ぶ?」
神様は真剣な表情で選択肢を言った。それほど重要なことなのだろう。
「せっかくここまでさせていただいたので、3つ目でお願いします。2つ目もいいのですが、あの世界でいい思い出がないので、新しい世界の方でお願いします」
「そうかそうか、よかった。お主のためにあの世界で力になるものを与えようと思っていたのじゃよ。お主のことが気になっていた神々がお主にか加護とスキルを与えに来ておるわ」
加護?スキル?僕の弟たちがゲームしてた力のようなものかな?時々僕に語っていたものだろうか?誰も聞いてくれないからと僕に語ってくれてたのでよく覚えていた。確か中二病だったかな?なんか右手がうずくとか言ってたけど、まずうずくってどんな感覚なんだろうと思ってたんだけど。
「さすがにうずくことはないが、そんな感じじゃよ。わしからは加護と【健康】と【肉体強化】を授ける。わしは力の弱い神じゃから、これで限界じゃ…?ん?来たようじゃな」
加護とスキルを与えられたことによって力が溢れてきた。体がぽかぽかする。お風呂に入れてもらったときのようだ。神々?僕と神様を包み込むような光がいくらか空から降ってきた。あまりにも眩しくて目を閉じてしまうほどだ。
「よっと、君があの子か…。確かにこの人生は凄まじいな」
光が晴れると金髪で黒いローブをまとった美人の女性が僕のことを見つめてきた。それから涙目になって、僕のことを抱き締めてくれた。人生を直接知ることでもできるのだろうか。
「私は魔法を司る神のアルベルトという。まぁ名前は世界の子達がつけてくれたのだが、本来は名前なんてない。まぁ魔法神とでも呼んでくれ。私は君に【全魔法適正】【魔力強化】【MP自動回復】を授けよう。そこで弱い神とほざいてる神は全能神だから、なんでもできるぞ。【健康】を与えられることでも十分強い神だからな」
魔法神様は僕のことを抱き締めながら加護とスキルを与えてくれた。ええ?神様…全能神様だったんですか!?まぁ全能神ってなにがすごいのかわからないけど、きっとすごいことなんだろう。
「次は俺からスキルをやる。俺はお前がかわいそうだから授けるわけじゃねぇ、そのどんなことがあっても楽しもうとするガッツに惹かれた。お前の心はとても強くそして優しい。俺はお前がそれだけの心を持っていることが本当にすげぇと思った。だから俺からは加護と【全武装適正】【纏魔法】【HP自動回復】を授ける。俺はお前がどれほどの男になるか楽しみでしょうがねぇよ」
二足歩行をした獅子が肩を叩きながら加護とスキルをくれた。めちゃくちゃ痛いんですけど、心の強さか…、僕はそれほど強いのだろうか。
「そこのライオンみたいに僕は戦う力を与えることはできないけど、きっともの作りも好きになると思うんだ。だから僕は君には加護と【錬金術】【合成】を与えるよ。きっとハマると思うよ」
ゆったりした服を纏ったゆるふわ系の女性が獅子の頭の上に乗っていた。それを獅子は嫌そうにしていたが、振り落とそうとしてもしっかりしがみついていたため、微動だにしない。
「俺は邪神と言われるものだ。まぁあの世界では嫌われた部類に入る。だがな、俺がいないとあの世界には魔物が存在できねぇ。魔物はあの世界では重要な資源になっている。お前の世界では科学が進んでいるが、あの世界では魔物と魔法で成り立っている。だからな、お前にはあの世界では魔物の味方にもなってもらいてぇ。それだけの心の持ち主だと思っている。だから【魔物言語】【テイム】を授ける。加護をやると面倒なことになるから、渡さないでおく」
邪神は腕を組んで遠くから見つめていた。邪神は真っ黒でよく姿は見えないが人の形はしていなかった。僕のことを見定めていたようだ。それからスキルを授けると、その場から立ち去った。
「今度は僕の番だね、みんな色々与えていたけど、これをあげるのを忘れちゃあだめだめだね」
その言葉に他の神々は呆けていた。
「【無限倉庫】と【高速思考】と【状態異常耐性】がなきゃ、商売なんてできっこないじゃないか!さぁ!君も商人になろう!」
なにいってんだこいつみたいな目で他の神々が見ていた。
「商人に必ずなるとも限らないだろう。だから君には【農業】【身体強化】あげるよ。ぜひとも農民になって、世界を耕そうぞ!」
商人推しの豪華な衣装を着た緑髪の女性と農具を担いだ作業服を身に纏ったおじさんが喧嘩を始めた。なんでこんなに仲悪いんだろうか。
「全く、お前らは商人やら農民やらなにを言ってるんだ。そんなことをしても知識は育たんぞ、やっぱり学者になることを考えて【記憶力】【鑑定】は必須だろ!」
今度は科学者ように白衣を纏いメガネをかけた黒髪でぼさぼさの髪の神が喧嘩に加わった。それを見ていた全能神様は「ここで騒がんでほしいのぅ、帰ってもらうか」と言った。3人に魔方陣現れ、なにか叫んでいたが、なにを言ってるかわからず、いなくなった。
「ほっほっほっほ、なんだかスキルがごちゃごちゃしてきたのぉ。これでは不便じゃろう」
全能神様は髭を撫でながらこちらにやって来た。
「いえいえ、そんなことはないと思いますよ?せっかくここまでしていただいたのに、多すぎて理解できないからなくしてくださいなんて言いませんよ」
確かに多いが、理解できないほどではない。それほど僕のことを考えてくれたんだから、大切にしよう。
「なんていい子や。前来た子は文句ばっかつけてたのに。ここまでいい子がいるのに、世界は不思議だね」
魔法神様は涙ぐんで僕のことをまた抱き締めてくれた。とてもいい香りがした。
「それでもわしはごちゃごちゃしすぎてステータスが見辛いと思うからいくつかを合わせといた。ステータスと念じてみるのじゃ」
名前:椎名蓮
種族:人族
HP:150/150
MP:300/300
攻撃力:300
防御力:300
敏捷:100
器用:150
魔力:300
運:200
ユニークスキル
【身体強奪】【無限倉庫】【全能】
アクティブスキル
【鑑定】【農業】【錬金術】【テイム】
パッシブスキル
【高速再生】【高速思考】【状態異常耐性】
加護
【全能神の加護】【魔法神の加護】【武闘神の加護】【商業神の加護】【豊穣神の加護】【知識神の加護】【鍛冶神の加護】
「確かにすっきりしましたが、この【身体強奪】と【全能】ってなんですか?」
「それはのぅ。スキルを合わせたときにできたものじゃよ。【身体強奪】はお主が望んでいたことが強く反映しておる。これは相手の体の一部を奪い取って自分の力にすることができるのじゃよ。身体の一部じゃから、魂に刻まれたスキルまでは奪うことはさずがにできないが、身体に持った特性・肢体・臓器・自由を奪うことができる。奪うことができれば与えることも可能じゃよ」
それは僕が確かに望んだことだった。動きたいがあまりに兄弟の身体がほしいと思ったことがあった。つまりはそういうことが魂に刻まれたために発生したスキルということだ。
「まぁ、健康も混じったせいでもあるがのぉ。【全能】は【全武装適正】【全魔法適正】【全言語】【合成】を合わせたものじゃよ。つまりはなんでもできるってことじゃ。能力値は冒険者でいうところのCランク相当はある。お主には0歳からまた生まれてもらうことになる。これは転生する際には必ずそうなる。今回は子供大好きでお主を愛してくれる家庭に送り届けるから、楽しみにしておくといいのじゃ」
なんでもできるスキルか、僕には勿体無いことだが、それほど神様達に愛されてる証拠だろう。
「ありがとうございます」
「名残惜しいが、そろそろ魂の存在限界じゃな。では、また会う日までのお別れじゃ」
僕は魔方陣によって光に包み込まれた。
「はい!」
「今度の人生は楽しむといいのじゃ!」
次の人生に心を踊らせた。
「はい!」
ーー彼の二度目の人生は幸福から始まった。