プロローグ
三作目
ーー彼の人生は絶望から始まった。
彼、椎名蓮は生まれながらにして体に麻痺があった。彼の親は彼のことを見捨てた。そして彼を家に置き、生きるために必要なことに関しては管理を徹底した。
ーー彼は愛されていなかった。
彼にはまだ人格が成立していない中母親は話しかけることはあった。しかし反応しない彼のことを愛すことができなかった。母親と父親は育てはするが、それ以外はなにもしなくなった。彼は父親には一度も抱かれたことはない。彼は母親に乳をあげられたことはあれど、愛されたことはない。
ーーそれでも彼は必死に生きた。
親や自分の兄弟の会話を聞いて言葉を覚えた。彼にはもちろん意識もあるし、人格もある。だからこそ彼は悲しんだ。彼は愛されたいと思った。彼は意識と人格がはっきりしてからは名前を一度も呼ばれたことはなかった。
ーー彼は愛されたかった。
彼は兄弟達が楽しそうに遊んでいることが羨ましかった。それでも体は動かない。動かし方もわからない。目は動いてもそれに気がついた家族はいなかった。医者や看護師の方は反応はすれど気付いてはもらえなかった。
ーー彼は気付いてほしかった。
彼の楽しみは目線の先で流れているテレビだけだ。兄弟がゲームをして遊んでいることさえ彼にとっては楽しかった。やりたいとは思っても、自分には動かし方もわからないが、一人を応援して勝ったときは自分のことのように喜んだ。
ーー彼は現実的に絶望的でも人生を楽しんだ。
どんなに無視されようといつか誰かに気付いてもらえることを夢みていた。彼がそんな風に思っていても誰にも伝わらない。彼は自分の妄想を眠りながら楽しんだ。
ーー彼は夢を楽しんだ。
そんな生活をしていく中で、ある日を境に現実は悪夢となった。父親の会社が倒産したのだ。それによりもっとも生活上でお金を使っているのは彼だ。彼は全く動けない上、抵抗ができない中、彼は父親と母親に罵倒された。イライラをぶつける先は愛していなかった彼だ。彼はそれには耐えられず、涙した。
ーー現実も夢も悪夢へと変わった。
彼は暴力を受けた。抵抗などできない。痛覚もない。ただただ心が病んでいった。彼の生活は一変した。現実では罵倒され、暴力を受け、夢の中ではうなされる。彼の人生は最悪なものとなった。
ーー彼はこの世界に絶望した。
彼への暴力はヒートアップした。彼の心は死んでしまった。殴る蹴るからついには包丁によって傷つけられた。ついには彼は心も体も殺されてしまった。彼の人生は絶望から始まり絶望に終わった。
ーー彼の人生は絶望に終わった。