第1章その三
今まで何度聞いたか分からない、自分で名乗ったわけでもない通り名にカミナは内心辟易したが表に出さず話を進めた。
「全員は要らない。先着で六人だ。さあどうする」
盗賊たちは互いに顔を見合わせた。強制労働は彼ら犯罪に手を染めた者たちにとって恐怖すべきものだった。カミナはそういった現場を実際に見たことはなかったが、残酷な真実か脅しの為の嘘か、どちらとも取れる噂の数々はその実態を巧妙に隠しているかのようで、何より、刑期を終えて日常に戻った者たちはおろかそれを知る人間の話も、カミナは聞いたことがなかった。多くの人々も同様で、盗賊たちもどう決断していいか迷っているひとつの要因になっていた。
じれったい、とカミナはさらに畳み掛けた。
「協力したくないなら、ここで仲間が来るまで待っていればいい。本隊はこっちで探す」
きびすを返し、協力する兵を募るカミナを見て盗賊の青年が声を上げた。
「待ってくれ!」
カミナは顔だけそちらに向けた。
「本隊は…頭はここから北西にある村の跡地にいる」
他の者は怒りの声を上げた。
「てめえ!この恩知らずが!」
「お前だけさっさと札を貰おうってのか!」
「じゃあどうしろってんだよ!!」
青年は押し返した。
「俺は最初からでかい町を狙うのは無謀だと思ってたんだ!それなのに欲に目がくらんで無理やり実行して、結果このざまだ。あいつらはもうおしまいだ。なら、ここでもらえるもんもらってさっさと縁を切ってやる!」
カミナは小さく鼻を鳴らし青年に減罪符を差し出した。
「お前が馬に乗れ」
「俺も…行かなきゃ駄目なのか」
「嫌ならいい」
カミナが手を引っ込めようとすると青年は無理やり引っ張った。
「待て、わかった、それでいい。だから頼む!」
醜いな、と内心毒づき減罪符を渡した。
「で、他はどうする。来るなら人質になってもらうが。俺も気が長い方じゃない。最悪連れて行くのは一人でもいいんだ。早く決めてくれ」
このあとはあっという間だった。我先にと名乗りを上げて、カミナはその中から適当に選び減罪符を渡した。さっき裏切れないと口にした男はあっさり手のひらを返したが、あえて選ばなかった。
あぶれた者たちは、減罪符を受け取った裏切り者に罵声を浴びせながら兵士に連行されていった。