図書室で出会いました。
時間が空いてしまいました。
チャリ通だと時間が取れない……
団長さんに悩みを解決してもらってから数日,私は城の図書室へ向かっていた。
というのも。今回の事でも,社交の事でもそうだが,私は人の心の機微に疎い。
夫人が小説を私にすすめたのは,小説の人物の心情を読み取ることで,それらを鍛えさせようとしたからだろう。
だから,今度は自分から積極的に学んでみようと思ったのだ。
この国の図書室は,蔵書数はノームに劣るものの,歴史の古い,貴重な本がたくさんある。
歴史に埋もれた古代の技術なんかがひょんなことで見つけられそうだ。
……やばい,たぎる。目的それじゃないのに。
目的を忘れそうになりながらも,私は図書室に到着し,物語が置いてある棚を探す。
しばらく歩いて,なかなかに分厚い小説を発見したため,導入の部分だけでも読んでみよう,とテーブルが置いてあるスペースに行くと。
そこには,美少女がいた。
さすがに妹ほどではないけれど,私よりは整った造形をしていて,醸し出す雰囲気も,さすがご令嬢といった様子だ。
私がじっと見ているのに気付いたのか,彼女は顔を上げた。そして。
泣いた。
何の兆候もなかった。ただ,突然泣いた。はらはらと涙を流す彼女に,その場にいる唯一の人間であった私は,当然混乱した。
初対面のはずなのに,なぜ私を見た途端こんな風に泣き出したのだろう。
あ,この本を見て……?いや,この国の神話くらい見たことがあるだろう。
ならなぜ……
とりあえず,泣いたままでは困るので,私は彼女に歩み寄り,ハンカチを差し出した。
「大丈夫ですか?」
「ひうっ……だ,大丈夫です……」
何が怖いのか,びくびくしながら,こちらを眺める。
「あの,失礼ですが,王妃殿下ですか……?」
「えっと……まだ結婚はしていませんが,婚約しているので,もう確定といってもいいでしょう。」
事実を述べただけなのに,少しおさまっていた彼女の涙は,勢いを戻した。
ええええ……
「あの,泣かれている理由がわからないのですが……」
「……すいません。わたくし,アンヴィグ侯爵家のアネモネと申します。陛下の,婚約者候補でした。」
こちらを上目づかいで見上げてくる彼女の目は,私をにらんでいるように見えた。
わざわざ王妃だと確認したのに私に言ってきたということは,彼女は,王妃になりたかったのだろうか。
「わたくし,陛下の事を,とてもお慕い申し上げていましたの。」
もう涙は止まったようだ。そして,爆弾発言をおっしゃられた。
婚約が済んでいる相手に対して,好意を隠さないなど,非常識である。
咎めようとして,止めた。
先日呼んだ小説の内容が頭の中をよぎったのだ。恋愛は,物事の判断力を著しく鈍らせる。
この子は,陛下が好きなんだな。婚約は国の約束で変えられない。王族の権威が落ちてはいけないから応援はできないけれど,これくらいは許してもいいだろう。
私も丸くなったものだ。もちろんそれで問題を起こされたら,容赦はしないけれど。
「そうですか。」
私はそのまま,本を借りる手続きをして,図書室を去った。
(アネモネ視点)
図書室に,あの泥棒猫がやってきた。
私から,陛下を奪ったあの女。許さない。
私と陛下は愛し合っていたというのに。
だから,こわかったけど,ちゃんと意見を主張した。
目上の人間だからって何でも思い通りになると思わないでほしい。
そうして言ってみたら……
「そうですか。」
……と,返答された。
……それだけ?
もっと,私から陛下を取ろうとするとか,ひどいこと言ってくるかと思ったのに。
そういえば,黙り込んでから,少しだけ表情が柔らかかった。
……
つまり,私と陛下の中を公認していただいたということね!!
これからは,多少積極的になってもいいということね!!
それなら,頑張らないと。
お父様にお願いして,また,宝石を買ってもらいましょう!!
図書室の美少女は,勘違いが激しい少女でした。
読んでくださり,ありがとうございます!!!




