初めて知る。
王様側から見たお話。
心の声が長かったりします。
(王side)
言われるがままに中庭に来て、セレスを見つけた。あまりにも恋愛に疎いからと、絵本を渡されたらしい。思わず笑ってしまった。
しかし、自分も似たようなものだったので、自重はした。
しかし、そんなにも恋愛は大切なことなのだろうか。しみじみと考えていると。
「……陛下、あの……」
「なんだ?」
「私のことは、嫌いですか?信頼できませんか?」
「……なんの話だ?」
「あ、いえ……。」
信頼はもちろんしているが……
「今の、恋愛の話か?」
「まぁ、そうですかね。」
よくわからないが、なにやら悩んでいる様子だ。これは、きちんと答えを返すべきだろう。
「嫌いではないし、むしろ好きなほうだ。信頼もしている。だが、これは、恋愛ではないのだろう?」
「……信頼、しているのですか?」
「ああ。」
そこが重要なんだな。疑われていたのだろうか。
ならば、こうしてきちんと言葉にしたのだし、こちらに(信頼していなかったと仮定して)信頼していると、嘘を教える理由などない。しかし、セレスはまだ納得がいかない様子だった。
「なら、なぜあんなに仕事が少ないのですか?」
……
「…………は?」
仕事が、ない?
セレスに回している仕事は、私の仕事の三分の一の量だと聞いている。普通の王族は私ほどの仕事の量はないらしいが、その三分の一の量ともなれば、『あんなに』と形容するほど少ない量ではないはずだが……
「ああ……そうか、こいつはちょっとおかしいとこがあるんだった……。」
「陛下、突然失礼です。なんですか?」
「いや、通常の場合、あのくらいの仕事量が普通だ。むしろ、普通の人間はなかなかやりたがらない量だ。」
「……なんと!」
目を見開いて驚いている。……間違ったことは言ってないな。基準がおかしいのは相変わらずだ。
そしてセレスはすぐに冷静になり、言った。
「いや、早とちりしてしまい、申し訳ありません……。信頼してもらっていたのに、疑うなんて……。」
「いや、こちらも、不安にさせてしまって悪かった。」
セレスは、普通の人間と違う。
普通の人間は、仕事が少ないと感じたところで、信頼されていないと思い込むまでに至ることはない。それに、あっさりとノーム皇国がエニスヌスに不利になるようなことをやってのけた。
もちろん、国が滅んだり、深刻な影響が出るような要求などはしていないが……あの国に、惜しむだけの情がないのだ。聞いたところ、暗部の人間達とは仲がいいようだったが、あそこは特殊だ。国が不利になったところであり方は変わらないだろう。
来たことのない場所で緊張しているのだろうと思っていたが、表情が薄いのも、育った環境のせいだったのだろう。それに、考え方や行動が、きちんとした令嬢と比べて、危うい。試験の時だってそうだった。追い詰めているのは彼女の方だったのに、彼女の方が、よっぽど何かを恐れていた。
俺は、セレスの顔を眺めた。
セレスは、しばらく俯いて何かを確かめるように頷き……
「ふふ……。」
柔らかに、微笑んだ。
「!」
初めて見る表情に驚いた。
今までの笑顔は、凄んでいたり、何かを面白がっていたりで、こんな、幸せそうな笑顔は、初めて見た。
先ほどまで、彼女の表情が少ないことや、あまり幸せではなかったであろう彼女の育った環境について考えていただけに、嬉しさがこみ上げて来た。
セレスにはもっと、幸せになってほしい。……幸せにしたい。
そんな想いがよぎり、ハッとした。
これは、果たして友人に対して抱く感情なのか。
心拍数が上がって行く。
「あの、ありがとうございます。これで夫人の宿題に集中できそうです……って、どうされました?」
「っあ、な、なんだ?」
また、いつもの表情に戻ったセレスが顔を覗き込んでくる。
「いえ、上の空のようでしたので……。」
早くここを離れないと、誤魔化せない。
なにをごまかすのかもよくわからないまま、俺は急いで立ち去ろうとする。
「ああ。少し考え事をしていてなっ……俺も仕事があるからな。」
しどろもどろになりながらも、なんとか取り繕う。
「はい。すみません。頑張ってくださいませ。」
「ああ……。」
動悸が激しい。赤くなった顔を隠すため、顔を覆う。ルシフェルの目的はこれだったのか。
たしかに相手が好きであれば、世継ぎを作ることや、親交を深めて協力し合うことにも積極的になれるだろう。それに。
本格的に一緒に仕事を始めてから気づいたら、きっと、仕事にならない。今気づけてよかった。
それに、気持ちに気付いたら、欲が出て来た。
自分のことを好きになってほしい。もっと会う時間が作れるように、今まで以上に仕事を早く終えられるように努力しよう。
俺はキッチリと頭を切り替えて執務室へ行った。
読んでくださりありがとうございます!!!




