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やっちゃ駄目なことをしたのでガチお説教です。

 ようやく本題に入れる。そう思って微笑む。

「何笑ってるのよ!!」

「いえ。これが何だかわかります?」

「何って……何よ。」

「ノームの研究チームが作った、映像記録魔法道具よ。」

 私はそれを起動する。そして、父の姿が映し出され、先日と同じ内容の言葉をしゃべり始める。

「お父様!?それに、教育不足って……」

「そういう事よ。あなたは今回の事のまずさが何もわかっていない。せっかくだから、今後苦労するように、この場でいろいろお説教してあげる。」

 なぜかフィオナだけでなく見ていた貴族たちまで一歩後ずさった。なんだよもう。びっくりするじゃないか。

「まずは、あなたの罪状其の一。詐欺罪。あの、お願いしまーす。」

 数人の従者たちが、何かを持ってくる。

 それは、私と陛下の姿絵だった。

「なによ、これ。」

「これは、あなたを大層可愛がっていたっていう、『おじさま』、グロファットの家から見つかったものよ。」

「なんでここにあるのよ!!」

 なんで見てもいないのに、美丈夫で優秀って噂だけでこんな突拍子の無い行動に出たのか理解できなかったのだけど、そういうことだったのだ。

「貴族たちは、もともと私とあなたを入れ替えるつもりだったのよね。だから、私の姿絵がエニスヌスに来ないように手を回したのね。そして、向こうから来た姿絵は、あなたに見せた。その姿絵に一目ぼれしたのね。」

 フィオナの好きな男性像は、物語の王子様みたいに、自分を甘やかし、可愛がってくれる、優しい人間だ。陛下は、基本厳しいはずだし、口調もぶっきらぼうだったり、優しい所もあるのだと言うのを知らないと、怖い人間にしか見えないと思うのだ。はじめっから、その外見から、理想を膨らませていたのだろう。

「グロファット家は、とりあえず当分派手なことはできないわ。……で、次の罪状ね。」

「……」

 誤魔化しきれると思っていたことがあっさり失敗して、ショックなようだ。

「次の罪状は、不敬罪。あなたがセレスティナで、王妃の座に就くことが決まっていたとしても、許されないことがたくさんあったわ。」

 言い終わると、すっとフィオナつきだったメイドさんが出てきてくれる。

「あの、私、フィオナ様がこちらにいらっしゃってから、ずっと担当していたのですが、ある夜……その、フィオナ様は、陛下の寝室に忍び込み……」

 言いながら、布きれを差し出してきた。

「こちらを着て、一晩過ごされていました。……幸い、陛下はその日、丸一日どこかに行かれていて、何事もなかったのですが……」

「あっ……」

 見ていて痛々しかったです、と小声で呟いている。

 その日は、あの鉱山の一件の日だったな。

 なるほど私、ファインプレー!

 そして、その布きれをよく見ると、ネグリジェだった。

 本当に布きれとしか形容できない程布面積が少なく、あちこちが透けまくっている。

 来ていた本人は、口をパクパクさせている。

 ………うん。フィオナ、まだ成長期きてないからな。こういったものの力を借りようとしたのだろう。

「また、ある時は陛下に手作りの食べ物を差し入れようとすることもありました。」

 ……うん。確かに趣味で厨房に忍び込んでいろいろやってたのは知ってる。私も、小さいときにちょこっとだけやらせてもらってたし、フィオナの料理が下手ではないことも知っている。けれど。

「……まだ、婚約式すら済ませていない人間が、誰の手が入ったのか定かではない料理を運んで食べさせようとしたり、婚前交渉を行おうとしたり……どちらも非常識極まりありません。」

 騎士団に飛び込んだ私が、あまり追求するのもあれなのだが。

……反省します。ほんとに。

 そんな私の心中を察したのか、陛下が口を開く。

「前者は無知であることが理由だが、後者は……女として、終わっていると思うぞ。」

「おんなとして……」

「……」

 場が沈黙に支配される。

 落ち込ませたからいいか。

「じゃ、あとは、適当な部屋にいてもらって、処分は追って知らせましょうか。」

「ああ。ノームと交渉も必要だからな。」

 私と陛下は笑い合って、それから、メイドさんに、フィオナを客間に連れて行くように伝えた。

「……この婚約式で証文に魔力を登録さえしてしまえば、私の勝ちだったのに……登録を済ましてしまえば、もう絶対に解けないんだから……」

 開発者はもう亡くなっているからか。そんなことを言うが。

「……一応教えといてあげるけど、ノームの研究員たちは、そういった術式の解除を研究しているところもあってね……私、そこの論文も読んでたから、その気になって一週間ほど粘れば、結構簡単に解けちゃうのよ。」

 私が、どの道不可能だったことを教えると、また、貴族とフィオナが一歩引いた。

 隣の陛下も、ちょっと顔をひきつらせている。

「………常識がないんだったな。大昔から続けられている儀式を簡単に解けるなんて……」

「うそでしょ……婚約の証文の術式は、かける方法はあるが、ほとんどまじないに近くて、だから、解く方法は見つかったものの、とける術者はいないって……」

 ……あれ?そうだったの?

 何とも微妙な空気のまま、フィオナは退場した。

 そして。

「じゃあ、式の本来の目的を果たしましょうか。」

「ああ。」

 婚約式なのだから。

「……しかし、先程の話を聞いてしまうと……」

「だったら、私本人が強化しましょうか?こことここにこういう術式を付けたして、合言葉を自分で術式として記入して。」

「こうか。…ん?消えたぞ?」

「うん。それで私にもわからない。私も術式記入して……。こうすれば、陛下と私の両方の合意がなければ、取り消すのはかなり難しいです。この術式のほとんどを理解していても、その一文字が判らないってだけで、とくのは難しくなりますから。」

「難しい話はあとでいいか?」

「あ、はい。」

 さっさと登録を済ませてしまおう。そう思ったのだが。

 後ろから肩を掴まれる。

「あ、えっと、ルシフェル様?でしたか?」

「周りがついて行けてないです、兄様とセレスティナ様がお似合いなのはわかりましたから、もっと、ゆっくり、落ち着いて事を進めてください……!!」

 何か懇願された。

「すまんな、ルシフェル。」

「いえ……」

 苦労してるのかな。陛下ってマイペースだからな。

「何を考えているのか何となくわかるが、セレスだってマイペースだからな。」

「そうですか?」

 小声でそんな話をしていると、精神がどこかにトリップしていた貴族たちと、楽団が正気に戻ってきた。

「僕が宣言しますから、二人は合図されたら大人しく、大人しく、婚約の証文に魔力を登録してくださいね。」

 『大人しく』の部分を強調されたが、そこまで私は落ち着きがないのだろうか。

 一国の王妃になるんだから、そのあたりは改善していかなければならないな……

「それでは、証文に、調印を……」

「うむ。」

「よし。」

 なるべく優雅にサインという形で魔力を登録していく。

「これから、よろしくお願いします。陛下。」

「ああ。こちらこそ、よろしく頼む。セレス。」

 こうして、私が放り出されて、成り代わられた問題はひと段落した。

ひと段落ですー!

読んで下さりありがとうございました!!!

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