005. 七英雄
契りを終え、シフォネから聞き得た情報はエーレンバールにとって非常に重く、少々の動揺を受けるものだった。
まず第一に。
エーレンバールが復活を果たしたのは、戦後50年が経過した現代だった。
彼が<蘇りの秘法>を行使した際、設定した時刻は死より5年以内。だが現実は大幅に時間がずれ込み、並の人間が寿命をまっとうするほどの長い時が経過してしまっていた。
薄々とした予感はあった。
戦の爪痕を感じさせない、平然とした街並み。
戦争の時代には『生まれていない』と笑った騎士たちの言葉。
魔族が奴隷として扱われることが当然となった今の世情。
「……復興に気をやっている間に、英雄どもと裏切り者を一人一人抹殺しようと考えていたのだがな」
人類が主権を握る世界はひとつの超大国の下に団結を得ていた。
世界の過半数を領土におく大国の名は〝ジール聖王国〟。
戦時に数多あった諸王国の全てはジールの旗の下に集い、現在は王国の名を捨て、方々の領地として成立している。
迎合を促す聖王国に対し、頑なに首を縦に振らない国々もいくつかはあったが、経済の悪化・不安定な情勢に見舞われ、やがてはジールに飲まれることは想像に難くない。
かつて魔王を討ち、凱旋を果たした13人の英雄。エーレンバールが復讐の刃を向ける相手は半数が既に現世には存在しなかった。
生き残りは七名。
聖王国の英雄王、ルシオ。
神の子、 セリアナ。
湖の狩人、 グラビス。
大魔法使い、 アルガスト。
夢幻の詩人、 バーディン。
半竜の忌み子、 ドラティラ。
無敵の司教、 ゲハル。
名を耳にした時、エーレンバールの心の内は歓喜にざわめいた。
奴らの大半の所在は分かる。この手が奴らの首に届く。
老いていようと容赦をかけるつもりはなかった。エーレンバールは人界の英雄の前に立ち、魔王の復活を告げ、怯えきった命を奪う。ただそれだけのことだ。
かつてエーレンバールを裏切った七人の大魔族の行方だけは不明のままだった。巧妙に姿を隠し、地上のどこかに潜んでいることは間違いないが、片鱗さえ掴めないのは想定していなかった。
「まあ良い」、とエーレンバールはほくそ笑む。
世界征服に際し、最大の障害となるのは人界の英雄と裏切りの七大魔。
その内の人間を楽に始末出来る見通しが立ったのだから、50年の空白に痛んだ心も少しは軽くなろうというものだった。